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【年間ベストアルバム】 Best Albums Of 2022

今年も年に一度のお祭り年間ベストアルバムの発表の季節がやってきました。毎年年間ベストは選出してTwitterに載せたりしていたんですけど今年はnoteに書いてみます。

まず最初に選出の基準を示しておきます。
アルバムというフォーマットで聴きたい作品であることはもちろん、2022年を振り返った時に思い出せるアルバムにしています。

2022年は一昨年から続くパンデミックや、世界情勢の不安定さなど、数年後に振り返っても忘れられない年になりそうですよね。なので、いつも以上に時代が作品に反映されているかは重視したいと思っています。

文章を読むのが面倒、年間ベストだけ知りたいという人は、プレイリストがあるのでこちらから確認できます。アルバムから好きな曲を2曲ずつ挙げていて、プレイリストでは50枚まで選出しています。

2022年 年間ベストアルバム25

25. Wilma Vritra - Grotto

Wilma Vritraはロンドンを拠点に活動する音楽家/作曲家のWilma AcharとプロデューサーのVritraによるデュオ。機関車トーマスが洞窟の中を走っているかのようなジャケットとタイトルからも分かるように洞窟がテーマ。サウンドはストリングスが目立ち、終始洞窟の中を彷徨うかのような暗い雰囲気で進む。終盤からは
何かから抜け出したのか、光を見出したかのように明るくなりそのまま作品は終了するというドラマティックな作品。

24. tobi lou – Non-Perishable

ナイジェリア生まれ、シカゴ育ち、ロサンゼルスを拠点とするラッパー兼プロデューサーtobi louによる2枚目のMixTape。スポーツのプロを目指していたが、怪我で断念してラッパーになったという経歴の持ち主。カニエの影響を感じるポップでソウルフルなサウンドが特徴。
T-PAIN参加のスロー曲2hrs+やポップで美しいビートが特徴のShe Know My Nameあたりがハイライト。

23.Shurkn Pap - Call Me Mr. Drive 2

姫路のラッパーShurkn Papのドライブに特化したコンセプトアルバム。歌詞もドライブに関連したものに特化しています。ビートも都会の夜景が思い浮かぶようなメロウなものに揃えてあり、聴き心地の良さに振り切っている作品。地元の姫路はもちろん、神戸や西宮、梅田など関西の地名が出てくるのも楽しい。
近しい作品として、名古屋の¥ellow Bucksも『Ride 4 Life』という車を題材に西海岸のサウンドを活用したアルバムも出ている。ヒップホップと車は相性がいいなと再認識した。

22. Joey Bada$$ - 2000

ニューヨークブルックリン出身のラッパーJoey Bada$$の3thアルバム。2012年リリースのMixtape「1999」の続編。前作のAll-Amerikkkan Badassはポップなアルバムだったが、今作は90年代〜00代初頭を思わせるブーンバップ。都会的でありながらアンダーグラウンドも感じるサウンドが特徴的。
特段新しいことをしている訳ではないが、オーセンティックなニューヨークのヒップホップを存分に味わえる作品。

21. Domo Genesis - Intros, Outros & Interludes

ロサンゼルス出身のラッパーDomo GenesisのMixTape。タイラーザクリエイター等が所属するOdd Futureのメンバーとしても知られる。全曲アンダーグラウンドヒップホップシーンで名高いEvidenceがプロデュース。不穏な雰囲気のするループするビートが中毒性があり、アルバムもミニマムなので聴きやすい。
アンダーグラウンドヒップホップ好きは必聴の作品。

20. 般若 - 笑い死に

般若の13枚目のアルバム。このアルバムは聴いた後に下の動画も見て欲しい。収録曲の2018.3.2は児童虐待死事件を題材にしていて、般若は事件当時、事件現場から道一本を隔てたマンションに住んでいたとのこと。事件にあたっての状況や赤裸々に綴られていて、聴いている自分にも身近に感じられる表現力と感情を乗せたラップに圧倒される。そのシリアスな曲のあとに、「じんせいさいこおお」や「うまくいく」という前向きな曲を置くのが般若らしい。
あと、活動初期から般若を聴いているリスナーとしてはLGBTが題材の曲「色の無い海の底」も印象的。昔は過激なことも言っていたので尚更。

19. Saba - Few Good Things

シカゴのラッパーSabaの3thアルバム。現行のトラップを混ぜた曲もありますが、全体的に温かいメロディアスなビートが多く、Sabaのラップや歌が綺麗に乗っていて気持ちが良い。客演が多いがうまく溶け込んでいるので全然気にならない。
上品かつ繊細な作りで、聴くだけでリスナーに日々の喧騒から抜け出だし特別な時間を提供してくれる作品。

18. iri - neon

日本のシンガーiriの5thアルバム。このアルバムからの先行シングルにあたる渦や摩天楼がダンサンブルな曲が続き、ダンスアルバムにするのかと思ったら1曲目から混沌とした重いサウンドが流れてくるのが驚く。Yaffleが手がけている序盤の4曲はコロナ禍でのメンタルの上下もあったみたいでそれが表現されているそう。
全体的にシンプルなサウンドの曲が多く、iriのシンガーとしての魅力が楽しめる作品。

17. KANDYTOWN - LAST ALBUM

東京のヒップホップグループの3rdアルバムにしてラストアルバム。このアルバムでKANDYTOWNとしては最後のアルバムになるを銘打って出た作品。"始めたものを片付けに来たのさ大抵の奴はちらかしっぱなしさ"など歌詞にも時折終わりを感じる表現が出てくる。作る段階で最後にすると決めて、メンバー全員で制作合宿して制作したそう。
デビューから一貫して気品がありならもストリートを意識したヒップホップ。KANDYTOWNはブランディングに相当力を入れていると感じていて、お洒落なサウンドをフックに歌詞に生き方や考え方も押し出して、リスナーに影響を与えている。どんな人でも聴くだけで一員になれるような体験を提供しているので、エンゲージメントが非常に高いのではと感じている。同じ大所帯グループであるBAD HOPとはまた違う体験ができるグループ。

16. Pusha T - It's Almost Dry

バージニア州出身のラッパーPusha Tの4thアルバム。00年代活躍したClipseの一員。本作は全曲ファレルとカニエがプロデュース。現行のサウンドもソウルフルなサンプリングビートも楽しめる作品になっている。特に00年代のカニエを彷彿とさせるDreamin Of The Pastのビートはお気に入り。Pusha Tのハードなラップは健在で、フロウも気持ち良いので通しでも聴いても飽きることがない。

15. JID - The Forever Story

アトランタ出身のJ.I.Dの3rdアルバム。デビュー作の「The Never Story」の続編にあたる作品。今年の作品の中でラップの格好良さを伝えるのあれば、真っ先にこのアルバムをおすすめしたい。ラップのフロウの多彩さや声の高低の使い分け、ビートアプローチを聴くだけでも十分楽しめる。歌詞の内容としてはデビュー作に続いて家族との関係性などを深掘りしてラップしている。内容を深く知るのも良いし、英語内容が分からないまま聴いても楽しめる作品。

歌詞の内容を知りたい方はこちら

14. Vince Staples - Ramona Park Broke My Heart

カリフォルニア州ロングビーチ出身のラッパーVince Staplesの3rdアルバム。西海岸の心地良く浮遊感のあるサウンドが堪能できる作品。ラップもそれに合わせてか落ち着つきがあるフローが特徴。内容も自分の生い立ちやギャングとの繋がりを語っている。またWHEN SPARKS FLYでは、NasのI Gave You Powerに影響受けたであろう銃に擬人化した曲もあり、聴き所満載の作品。

13. JUBEE - Explode

JUBEEの1stアルバム。BimやVavaが所属するクリエイティブ・チームCreativeDrugStoreのメンバー。00年代の日本のミクスチャーロックに影響を受けている作品。特にDragon Ashの影響が強く収録曲の「手紙 feat.(sic)boy」は、「静かな日々の階段を」を彷彿とさせる。
僕が音楽を聴き始めた00年代初頭はヒップホップもミクスチャーも区別なく聴いていて、その頃の音楽を再構築しているので新しくも懐かしく感じる作品。

12. Nas - King's Disease III

ニューヨークブルックリンのラッパーNasの通算15枚目のアルバム。King Diseaseシリーズの三作目。今作もHit-Boyが全曲プロデュース。開始ではオーセンティックなブーンバップだと感じても、後半にかけてビートチェンジしてトラップを取り入れたりゴージャスに変えたり素晴らしいビートが多い。Nasのラップも変わらず素晴らしく、力強いラップにフロウで衰えなど一切感じない。

11. Lupe Fiasco - DRILL MUSIC IN ZION

シカゴのベテランラッパーLupe Fiascoの8thアルバム。本作は3日で作り上げられたらしく、Lupeがこのように短い期間で録音するという決定したのは、日本のわびさびの概念、不完全さの中の美しさを評価するところからインスピレーションを受けたとのこと。
サウンド面は落ち着いたジャズを基調にしたブーンバップ。代表曲「Kick, Push」「Superstar」をやってるSoundtrakkがプロデュースしているので統一感があり、収録時間は40分と短く聴きやすい。今回出している中でも特にアルバムというフォーマットで聴いてほしい作品。

10. chelmico - gokigen

女性2人組ラップデュオchelmicoのメジャー4thアルバム。タイトルにある通り「ご機嫌」がキーワード。随所にコロナ禍やSNS疲れなど現代人の問題に目を向けながら、そのような状況でも「ご機嫌」でいる考え方や行動が等身大で表現されていてる。
三億円ではこの状況で機嫌良くいるためには三億円があればいいんじゃね、しかも非課税でと表現をしたり、ISOGA♡PEACHでは、週3勤務で週4休み、年に3ヶ月夏休み取って大団円と表現していて、この混沌とした時代に半ば強引に開き直っている。
HipHopでよくあるフレックス(見せびらかす、格好つける、自慢すること)とは少し距離を置いて、独特のノリや考え方を反映させてラップの楽しさが味わえる作品。

9. Smino - Luv 4 Rent

セントルイスのラッパー/シンガーSmino(スミノ)の3rdアルバム。ヒップホップやR&B、ファンク、ネオソウル、ゴスペルなどを混ぜたオルタナティブな音楽性が特徴なSmino。今作もオルタナティブなビート上に、ラップに歌に多彩なアプローチが聴ける飽きがこない作品。こんなに多彩なのにアルバムとしてのまとまりはあるし、親しみやすい作品に仕上げられるのはディレクション能力が長けてるからなのでしょうか。

8. 宇多田ヒカル - BADモード

宇多田ヒカルの8thアルバム。タイトルである「BADモード」は「ちょっと落ち込んでいる、あるいはそういう時期がある」状態のこと。その状態でもメール無視してネトフリ見てウーバーイーツを頼んで一緒にお風呂に入るという身近な幸せを表現が好きで、パンデミックに影響を感じて現代にもマッチしているなと感じた。
サウンド的にはそんなに音数は少なめでハウスやディスコの影響を感じる煌びやかな印象。海外でも評価が高くピッチフォークのベストアルバムにも選出されている。

7. Kendrick Lamar - Mr. Morale & The Big Steppers

ロサンゼルスのコンプトンのラッパーKendrick Lamarの5thアルバム。このアルバムはケンドリックが抱える様々な痛みや悩みをテーマにし、セラピーセッションをするという構成。テーマはコロナ禍における不信感、SNS依存、キャンセルカルチャー、黒人男性のコンプレックス、LGBTQ+や近親相姦など多岐に渡る。
サウンドはトラップもブーンバップもバランス良く収録して、ピアノやストリングスを多用した王者に相応しい品格のあるゴージャスなビートが目立つ。歌詞の内容がよく語られがちだが、サウンド面も相当綿密に作られているなと聴くたびに感じる。

6. redveil - learn 2 Swim

メリーランド州プリンスジョージズ郡出身のラッパーredveilの3rdアルバム。制作当時17歳だとは思えない落ち着きがありゆったりとした雰囲気の作品。全体的にヒップホップを軸にジャズやゴスペルを混ぜたものが多く、内省的な内容がサウンドにも現れていると感じる。歌詞の内容に関しては、久世さんのこちらのnoteに詳しく書いてあります。

5. KICK THE CAN CREW - THE CAN

KREVA、MCU、LITTLEからなる3人組のクルーKICK THE CAN CREWの6thのアルバム。「ヴィンテージスタイル+新鮮味」収録曲のカンヅメの歌詞にも出てくるこのワードがこのアルバムを表すのに一番しっくりくる。
ヴィンテージスタイル=押韻を重視したラップ、00年代ブーンバップはそのままに、新鮮なフロウを聴かせてくれる快作。ただこの新鮮なフロウがトレンドに寄せたものでもなく、従来のスタイルを独自アップデートしたものなので、比較が難しく僕のような一部のヘッズにしか伝わっていない。
デビュー当時からの特徴である3MCのキャラ立ちも徹底されていて、三者三様のラップが聴ける。特にMCUはゲームに関する韻を詰め込んでいてまさに唯一無二。まだまだ若手には負けない、このスタイルをアップデートして再びのし上がってくんだという思いが詰め込まれた作品。

4. Little Simz - NO THANK YOU

今年は来日もしたイギリスのラッパーLittle Simzがサプライズリリースした6thアルバム。これを書いている時点でリリースして数日で年間ベストに選出。
イギリス最高峰の音楽賞であるマーキュリー賞を受賞するなど傑作と名高い「Sometimes I Might Be Introvert」に続く作品。前作がオーケストラサウンドを多用した壮大な作品だったのに対し、今作は穏やかで落ち着いた雰囲気のある作品。聴きやすさという点ではこちらの作品の方が上かもしれない。

3. Awich - Queendom

沖縄出身でヒップホップクルーYENTOWNにも所属するAwichの5枚目のアルバム。今年は大型ヒップホップフェスの開催、多くのラッパーが武道館、アリーナクラスでワンマン成功など一気に拡大した日本のヒップホップシーン。 このチャンスを逃すわけにはいかないと頂点を取りに行くという決意のもと作られた作品。

1曲目からヒリヒリした雰囲気のビートに壮絶な過去を吐露するQueendomからスタートし、自身を表すワード「女性」「沖縄」「地元の仲間」「クルー」「家族」等のトピックが散りばめられている名刺代わりの作品。
今年はこの作品を引っ提げて、武道館公演を成功、大型夏フェスに参加、メディアにも多数出ていて今年一番成り上がったラッパー。来年以降も活躍が楽しみ。

2. Denzel Curry - Melt My Eyez See Your Future

マイアミを拠点に活動するラッパーDenzel Curryの5thアルバム。黒澤明やカウボーイビパップなど日本の映画やアニメに大きく影響を受けており、曲名にも座頭市が使われている。制作にあたっても宮本武蔵のような武士道精神で取り組んだと語っているぐらい日本に影響を受けている作品。
サウンド的にはソウルフルなサウンドがメインで、ソウルクエリアンズの影響を受けている。(ソウルクエリアンズはクエストラブ、エリカ・バドゥ、ディアンジェロ、Jディラ、コモンが所属したオルタナティブヒップホップ集団)
僕が好きな作品はソウルクエリアンズが関わっていたり、影響を感じる作品が多いので今回も響いたのかもしれない。またバンドで演奏しているExtended Editionも素晴らしく、いつかバンドこと来日してくれることを願っている。

1. OMSB - ALONE

Summitに所属するOMSBの7年ぶりフルアルバム。今年の作品の中で日本語でラップが聴けることの喜びを最も感じた作品。
前作から7年という沈黙の期間に家族ができたり、シーンが少しずつ動いていく中で、自分自身を多面的に深掘りしている。このアルバムの特筆すべき点は、OMSBという人を作品を通じて全て剥き出しにしてくれるところ。時折見せるアティチュード(姿勢や態度)が魅力的なのでどんどん好きになるし、立場は違えどヒップホップという文化が好きであれば何かしらに共通点もあるし、OMSBを通じて自分を客観的に見ることにも繋がっている。この体験は母国語ではないとできないし、日本語でラップを聴くのなら絶対に外せない傑作。


あとがき

初めてこんなにレビューを書きましたが、終盤しんどくなって25枚にしたことを後悔しました笑 クオリティに差が出てるのはそのせい。ライターの人は凄いですね。

今年は300近くの作品に触れていて、来年同様に時間取って聴く予定なので発信は続けたいなという気持ち。ヒップホップに特化し、日本も海外も満遍なく聴いている人はそんなにいないと思うし。
ただnoteに書くならもうちょっと文章を勉強したいし、媒体はPodcastでもいいかなと思ったりするし発信方法は考えてみます。

ここまで読んでくれた方ありがとうございました。いいねとTwitterのフォローもしてくれると嬉しいです。

それでは良いお年をお過ごしください。

Twitter:_CHELSEA1010_


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