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【おすすめ】ポーランドとベラルーシに押し付け合われる難民たち 映画「人間の境界」(2023年制作)

5月は、観たい映画が立て続けに上映されたので、時間と体力を捻出して観に行きました。その3本目は、ポーランドの巨匠アグネシュカ・ホランド監督の最新作「人間の境界」です。

152分、2時間半を超える長い映画なので、途中で寝ちゃうんじゃないかと心配しながら行きましたが、なんのなんの! まったくそんなことはなく。

今年イチ押しになりそう!とブログタイトルをつけようかと思うくらい良かったのですが、確認したら、今年に入って観た映画がほとんどない。それでは説得力がなさすぎる。(^_^;) 

でも、わたし史上、歴代ベスト10に入るくらい良かったです。私の生涯総鑑賞映画作品数もたいしたことがないので、それもあまり説得力がないかなとタイトルには採用しませんでしたが。

この映画、新聞などの映画評には取り上げられていますが、そこまで広く話題になっていないのでしょうか。ほぼ同じ時期に公開が決定した「関心領域」は、誰もかれもが、観たとか観たいとか観ようかなと言っている気がしますが(それも私の周囲だけかもしれませんが)、なんでだろう、アカデミー賞の威力? ホロコーストとかナチものだから?

私には、「人間の境界」の方が、ずっとずっと、ズーーーンと来ました。

京都シネマの横断幕

「人間の境界」(原題 Green Border)は、一見ドキュメンタリー映画のように見える、劇映画です。

2021年に、ベラルーシが、アフガニスタンやシリアなどからヨーロッパに逃れようとする人々を飛行機でベラルーシに入国させ、EU加盟国であるポーランド国境付近に連れて行き、国境を不法に越えさせて混乱を生じさせました。

難民たちは安全にEU圏内に入れるものだと思い、ブローカーにお金を払って、希望を抱いて国境へと向かいます。

ところが、ポーランドは、難民はベラルーシが送り込んだテロリストだと断じ、拘束してベラルーシへと送り返します。

ベラルーシもまた、ポーランドの国境警備隊の隙をついて、彼らを押し戻します。

難民はそのたびに暴力を振るわれ、財産や持ち物を失い、家族とはぐれ、ボロボロになっていきます。妊婦も乳児も幼児も年寄りも容赦なしです。

どちらの側も、拘束しても、水さえ与えず、怪我人や病人の手当てもろくに行われません。重傷者や死人も出ます。

メディアや人権団体の追及をかわすため、ポーランドは、国境付近一帯を立ち入り禁止にして、自国民であろうと、踏み込めば逮捕・拘留します。

直接現地を取材、撮影することができないため、ホランド監督は、綿密に取材したうえで、この劇映画を製作しました。

演じたのは、実際に難民となった経験のある俳優たち。そのため、たいへん臨場感があります。ポーランドの人権団体の活動家らや、国境警備隊隊員らを演じる俳優もうまいので、ドキュメンタリーを観ているようです。

世界の紛争地から逃れてきた難民、難民たちを救助しようと自らも危険を覚悟で奔走する人権団体の活動家たち、難民を押し返したり拘束したりすることが職務の国境警備隊隊員という三者にそれぞれスポットを当てて、いずれもていねいに描いているため長い作品になっているのですが、たしかにこれだけの長さが必要だなと思いました。

絶望的な状況が多いのですが、希望が見える場面もあります。難民の若者たちと、彼らを受け入れるポーランドの若者たちが打ち解けて楽しそうにしているシーンは、暗くてきつくて辛い場面の多いこの作品のなかで、貴重な光の場面でした。

その少しあと、2022年からのロシアの侵攻で大量に発生したウクライナからの避難民をポーランドの人たちは、温かく手を尽くして受け入れます。そのこと自体は素晴らしいことなのですが、だからこそ、それ以外の地域からの難民に対する仕打ちにも目を向けるべきだという、製作者の毅然とした主張が感じられます。

パンフレットも充実していて、読み応えがあります。もっとこの作品、知ってほしいなあ。そのくせ、私もすぐに発信していませんでしたが、、、

上映はだいぶ終わっていっているようですが、まだこれから観ることができるところもあるようです。

京都では、出町座が6月28日から上映です。ぜひどうぞ!!

ホランド監督の映画鑑賞記録:


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