メンバーインタビューVol.1 カンテサンス 岸田周三
10年以上前から海の異変を感じていたという「カンテサンス」 岸田周三シェフ。
「年々、魚が小さくなって品質も悪化し、注文しても『ない』と言われることが多くなりました。なぜだろう、何が起きているんだろうとずっと考えていました」
2017年からChefs for the Blueの勉強会に参加すると、異変は日本近海で顕著であること、その大きな要因に、乱獲という人為的なものがあることを知りました。
「驚くと同時に、そういうことだったのかと腑に落ちました」
それまでは何も考えず、一方的に、自分が欲しい魚をオーダーしていたそうです。
「魚種だけでなく、サイズも細かく指定していました。それを揃えるのが仲買さんの腕の見せ所で、彼等もまたカンテサンスのチームの一員なのだからと細かく希望を伝えていました。
当時はそれで切磋琢磨していたのですが 今となってはそれはわがままと言えるでしょう。」
しかし勉強会を通じて、それが海への過剰な負荷につながることがわかってきました。いつしか、「今日は何がありますか?」と問いかけることから、その日のやり取りを始めるのが習慣になったと言います。
とはいえ、品質の高い食材を求める事は諦められません。以前は築地の仲買一社ですべて賄っていましたが、全国各地の漁師や仲買と新たに取引を開始。水揚げに合わせて日替わりで買い付けるようになりました。
発注の手間が増え、1種類の魚を通して使える期間も短くなりました。
しかし、「日本には僕が知らない魚がまだまだたくさんいるんですよね。フランスでは、年間通じて使う魚はせいぜい20種類くらい。日本の海の豊かさを改めて思い知りました」。
事実、世界の海に約15000種いる水生生物のうち、25%に当たる約3700種が日本の近海に生息しています。その中で水揚げされ、実際に食べられている魚は約400種。
聞いたことのない魚も、すすめられて興味がわいたら送ってもらい、まずは使ってみるといいます。それでおいしければ、胸をはってメニューにのせます。
「贅沢さやおいしさの指標は、時代とともに変化すると思うんです。牛肉も、赤身のおいしさがだいぶ浸透してきました。もう一般的な高級魚にこだわる時代ではないのかもしれません。
むしろ誰も名前を知らない魚や、捨てられてきた部分に価値を見出し、お客さまを満足させるおいしい料理に仕立てて提供する。それこそが贅沢であり、特別なサービスになっていくのではないでしょうか。
今後はますます、料理人に技術やアイデアが求められる時代になるはずです。」
人気のある魚は、釣った後の処理もきちんとしているため、良い状態でレストランに届けられます。低利用魚でも、料理人が価値を見出せば、漁師や仲買は高級魚と同等に扱うようになる。結果、品質がさらに上がるのではないかと岸田シェフは考えています。
「サステナブルを意識することが、制約になると考えるシェフもいるかもしれません。確かに僕も、以前と同じようには食材を選べなくなりました。でもそれは、今の時代に合った新しい豊かさの提案につながると思っています。
まずは、海の問題を知ることに大きな意味があります。
何をするべきなのか、明確なアクションプランはまだありません。いきなり完璧なサステナブルを目指すのではなく、一人ひとりが少しずつでもできることを探していけばいい。
僕にとってそれは、お店で出す料理や様々なメディアを通じて、この現状を発信していくことです。時間はかかると思いますが、みんなで一緒に大きな渦を作っていきたいですね」
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