ローストビーフから学べる塊肉の火入れ【前編】
今回は皆さん大好きローストビーフのお話です。
塊肉の火入れが大好きな私にとって、その想いを文章にすると情熱が肉汁のように溢れてしまい長文になってしまいますがお付き合いいただけると嬉しいです。
YouTube 動画で紹介したローストビーフの作り方を【前編】・【後編】に分けてお話させていただきます。
一緒に添えている付け合せとソースの作り方は【後編】でお話させていただきます。
【ローストビーフとは】
元々は伝統的なイギリス料理の一つで塊肉を蒸し焼きにして薄くスライスして提供される料理。薬味にホースラディッシュとグレイビーソースをあわせて食べるのが王道です。
グレイビーソースとは簡単に説明するとお肉を焼いた後の鍋に残った肉汁を使ったソースのことです。
作り方は、旨味や香ばしい香りの残る鍋にスライスした玉ねぎを入れてじっくり茶色くなるまで炒めます。
水、またはワインなどを入れて煮詰めてから肉汁を戻して小麦粉で濃度を付け、仕上げにバターを加えて完成です。
フランス料理のソースを作る基本的なテクニック【じっくり炒める・煮詰める】の工程があるソースづくりの基本的な要素も組み込まれています。
近年では伝統的ではないですが、お節料理の一品として日本の家庭でも作られています。私も今年のお正月料理の一品にローストビーフを今回のYouTube 動画で紹介した同じレシピ・調理工程で作りました。
【ローストビーフの作り方】
それではローストビーフの作り方を説明させていただきます。
まずローストビーフを作る際は徹底した温度管理が必須になります。
もちろん人それぞれ好みの肉の火加減はありますが、今回は肉の旨味・歯ざわり・風味のバランスが取れたミディアムを目指します。
プロの料理人以外の方がローストビーフに挑戦する際に少しパニックに陥ってしまう点は、なんと言っても紹介されているレシピの多さです。
温度管理の方法・火入れの温度・火入れ方法が異なりどの方法が作る側にとって適しているのか判断が難し点です。
何故このような事が起こるかと言うと、紹介する人の料理を作っている環境(主に道具)・技術値・経験値が皆それぞれ異なっているからです。
また選ぶ牛肉の品種・部位・脂の含有量・塊肉の大きさ・厚みによっても作り方・仕上がりに差が生まれてしまいます。
例えば和牛のフィレ肉のような脂の含有量が多い牛肉品種でローストビーフを作ります。温かい状態で食べれば、肉の柔らかく歯切れの良い食感やとろけるような脂身は格別です。厚めに切っても、繊維の方向を気にせず切っても美味しく柔らかく召し上がれます。ただ冷たい状態では口当たりや脂も口に残り、何より価格も高いです。
ローストビーフに選ばれる一般的なお肉の部位は牛もも肉です。
牛もも肉と一言で言っても大きく分けて5つの部位に分かれそれぞれ柔らかさ・味わいは異なります。
牛もも肉のそれぞれ異なる5つの部位の名前・特徴などは次回以降の記事でお話させていただきます。
今回私が動画内で使用している部位は外もも肉です。もも肉の中では肉質がやや粗めで少し硬いのが特徴ですが、焼き上がり後、繊維を切りように薄くスライスしているので硬さは気にならず召し上がれます。
私は作り方・仕上がりの的を絞るために私の考えるローストビーフの前提を5つ点をあげます。
①肉の塊は500g以上
②冷めても美味しく召し上がれる
③あまり価格の高くない部位を使う(もも肉)
④調理工程が複雑でなく最低限の温度管理で作れる
⑤火入れはミディアム
道順とゴールを明確にすることで、目指すべきローストビーフをしっかりイメージしながら作ることができます。
ゴールがはっきりしていると調理が楽しくなります!!
それではローストビーフを作る道のり(調理工程)の説明を一つずつさせていただきます。
【①牛もも肉全体に塩をふる。】
塊肉の全体に塩をまんべんなく振ります。塩の量は肉の総量に対して1%の量です。500gの塊肉を準備したので5gの塩を全面にしっかりふりかけます。
胡椒はしません。次の工程で焼き色をつける際に焦げの原因になるからです。あえて胡椒の焦げた香りを楽しみたいのであれば塩と一緒に胡椒をふりかけても構いません。
動画内では胡椒はお肉をスライスした後に盛り付ける時に加えています。
胡椒の風味を十分に楽しめるからです。
【②フライパンを使って肉の表面全体を高温で焼く】
塊肉をオーブンに入れる前にしっかりと焼き色を付けます。少し煙が上がる程度の高温に熱したフライパンで焼くことでメイラード反応(褐色反応)を起こすためです。
メイラード反応を起こすことで香ばしい風味を肉全体につけることができます。フライパンは常に強火で一面ずつ(1分未満)丁寧に焼き色をつけます。
次の工程をお話する前にここで一つお話を。
塊肉は常温に戻さなくてよいのか?
塊肉は冷蔵庫から出してから塩を振る前に常温に戻すという方法が紹介されています。冷蔵庫から出したばかりの冷たい状態のお肉の芯温は3〜4℃です。
冷たい状態のお肉を常温(18〜20℃)に戻すとなると約1時間以上、冷蔵庫の外に出しておく必要があり、ただでさえ時間のかかるローストビーフの調理工程に、常温に戻すだけで時間がかかってしまいます。
また家庭のキッチンは季節や作る環境によっても室温は異なります。
お肉を室温に戻す理由は、ローストビーフのような塊肉の場合、オーブンに入れる時に、お肉の外側部と中心部の温度差を極力減らすためです。
そうすることで、厚みのあるお肉の火入れを均一に仕上げやすくなるからです。もし中心部分の温度が冷たいと、中心部分に火が入った時には既に外側部分は火が入りすぎてしまうという自体に陥ります。
もちろん時間があれば常温に戻してから焼き色をつけることに越したことはありませんが、今回はあえて冷たい状態から調理を進めます。
芯温が冷たいとオーブンで加熱する際に時間がかかってしまいますが、動画内では高温短時間で肉の表面に焼き色をつけた後、オーブンに入れる前に焼き色をつけた時間と同じ時間だけ常温で休ませています。
焼き色をつけた後の表面の温度がゆっくり肉の中心まで伝わっていくので肉の厚みが4〜5cmで500gほどであれば、オーブンに入れる前に、この工程で冷蔵庫から出したばかりのお肉でも芯温は20度以上に上がります。
ただご心配なく。そこまで気を使わなくてもオーブンで私が選んだ温度設定は110℃の低温設定です。
この方法は過去の記事でも紹介したローストチキンの調理法の理屈と同じ加熱方法を選択しました。
オーブンは温度設定によってその目的はそれぞれ異なります。
それぞれの目的に合わせて大きく分けて4つのタイプに分けて温度設定をしますが、同じ素材でも大きさ・状態(水分含有量・乾燥具合・脂の量)のよってプロの料理人は微調整します。
①:200℃〜230℃以上
短時間で素材の温度を上げる
②:180℃〜200℃
しっかり焼き色をつけるのが目的
③:160℃〜170℃
焼き色は付けたくないが香ばしい香りが欲しい時
④:100〜125℃以下
乾燥が目的
【③110℃のオーブンに40分間入れる】
プロの料理人であれば塊肉を焼く技術・経験・知識によって180℃前後の温度でオーブンから出し入れしながら、ピンポイントの火入れをすることができます。
家庭でお肉を焼く技術がない素人の方がオーブンでローストビーフのような塊肉を焼くためには、今回私が紹介する失敗のリスクが極めて低い適切な温度設定と時間を示して、一度経験を積んでもらう必要があります。
調理工程②の時点でお肉自体にはメイラード反応されているのでオーブン内で焼き色を付ける必要はありません。ここで選択したオーブンの温度設定は110℃の乾燥を目的とする温度設定になります
オーブンは120℃より低い温度設定であるならば、肉自体から蒸発する水分によって肉の表面温度は70℃前後になります。
そのため急激な肉への加熱を防ぐことができ、多少加熱時間が多かったとしても予想以上に肉に火が入りすぎてしまったという事態を防ぐことができます。
今回目指す肉の火入れ加減はミディアムです。肉を切るとほんのり肉汁が切った断面に滲み出る程度の焼き加減です。フランス語ではロゼ(Rosé)といいます。
最終的に上昇する肉の中心温度は60〜63℃が適切な火の入り加減になります。
焼き色を付けてから10分間休ませた牛もも肉は40分間オーブンで加熱した後すぐに温度を計ると60℃にはまだ達していません
ミディアム・レアがお好みの方は、このまま10分間休ませからスライスして召し上がれます。
ただ今回はミディアムを目指しているので、動画内では追加で5分オーブンで加熱しています。
加熱調理した肉の中心温度は表面温度よりも低い状態です。オーブンからお肉を取り出した直後は、肉自体の熱は表面の温度の高い部分から中心部の低い部分に徐々に移動していきます。
そのためオーブンから取り出した後、熱が肉全体に均一になるまで休ませる必要があります。
110℃の低温で調理した肉はオーブンから出してから中心温度は2〜3℃ほど上昇し、10分ほどしっかり休ませれば肉汁も落ち着いて結果ミディアムに仕上げることができます。
お肉の中心温度の違いによる火入れの呼び方を参考までに載せておきます。
それぞれ前後1〜3℃の前後誤差はあります。
肉の中心温度の焼き加減による呼び方はとても曖昧で、料理人によっても異なりますが、ここでは参考までに焼き方の基準になるように載せておきます。
*アルファベットはフランス語の呼び方です
レア :bleu(ブルー) 48°C (45〜49℃)
ミディアム・レア: saignant(セニャン) 52°C (52〜54°C)
ミディアム・レア: mi-saignant (ミ・セニャン)56°C (55〜58°C)
ミディアム : rosé (ロゼ ) 60°C (59〜63°C)
ウェル : à point(ア・ポワン ) 65°C (64〜67°C)
ウェルダン : bien cuit (ビアンキュイ ) 70°C (70〜72°C)
切る時はできるだけ薄くスライスします。暖かく召し上がってもよし、冷めても丁寧に調理工程を施しているので香り・旨味をしっかり味わうことができるローストビーフです。
【ローストビーフの操り方・後編】にて、ソースの作り方と付け合せについて紹介させていただきます。
YouTubeの動画内で詳しく調理工程を説明しておりますので、気軽に遊びに来てください。
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Chef ichi
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