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ロイヤルティプログラムを解説する"ディープニング"シリーズ Vol.1「ベネフィットエレメント」とは?


こんにちは、Marketing Strategistの丸山です。
今回から、長期的な顧客関係構築の手段として関心が高まるロイヤルティプログラムについて、その簡単そうで複雑なその本質に迫る"ディープニング"シリーズをお送りしていきます。やや専門的な内容になりますが、実務に活かせる知見を提供できればと思います。

はじめに

今回解説するのは「ベネフィットエレメント」です。
当社では、ロイヤルティプログラムにおける特典を「ベネフィット」と呼んでいます。例えば、ポイント進呈やクーポン提供などの経済的なメリットを「ハードベネフィット」、特別なサービスやイベント招待などの体験価値を「ソフトベネフィット」と分類しています。
これらの用語は業界内で徐々に浸透してきていますが、ロイヤルティプログラムが果たすべき本質的な役割については、まだ十分な理解が進んでいないように感じます。
実は、ロイヤルティプログラムは「体験型のブランディング」として捉えることができます。企業の理念やパーパスを、プログラムを通じてお客様に実感していただく。これは、通常の販促活動にはない特殊な役割です。では、具体的にどのような価値をお客様に提供できるのでしょうか?当社では、ベネフィット(特典)を二つの層で整理しています:

  1. ベネフィットエレメント:「なぜその特典に価値があるのか?」という本質的な価値を抽象化したもの。例えば「自分だけに提供される特別感」は「限定性」というエレメントとして整理されます。プログラムでは、複数の特典を進呈しますが、各特典のエレメントが、プログラム全体の価値として知覚されます。

  2. ベネフィットオプション:実際の特典の型。実例や、アイデアをデータベースとして豊富に蓄積しています。

エレメントは抽象的にどのような価値を提供するべきか、オプションは具体的に、そのような価値を、どう施策として提供できるかという構造でまとめることで、顧客心理やプログラムの目的に関連付けやすい特典を設計できるようにしています。
本日は、この「ベネフィットエレメント」に焦点を当て、特典の持つ本質的な価値とは何か、体系的に解説していきます。

第1部:ベネフィットエレメントの体系的解説

顧客価値を構成する要素を体系的に解説しています。
顧客差別化、価値提供、成長支援、相互作用促進の各要素について、その定義から具体的な実装方法まで詳しく説明していきます。ロイヤルティプログラムを通じて、どのような価値をお客様に届けるべきか、わかっていそうで言語化しにくい領域を整理していきます。

1. ベネフィットエレメント、顧客価値の要素の全体像

エレメントフレームワークは、以下の4つの核となる要素で構成されています:

  1. 顧客差別化要素(Customer Differentiation Elements)

  2. 価値提供要素(Value Delivery Elements)

  3. 顧客成長支援要素(Customer Growth Support Elements)

  4. 相互作用促進要素(Interactive Elements)

2. 各要素の詳細

  • 2.1 顧客差別化要素 - 特別な存在としての認知
    特別感を演出する要素の集まりです。VIP限定イベントや優先予約権、会員ランク制度など、「自分だけ」「自分が先に」という特別待遇を通じて、顧客一人ひとりの価値を高めていきます。他のお客様とは異なる特別な体験を提供することで、ロイヤルティを高めます。

    1. 限定性(Exclusivity)

      1. ・VIP専用イベントへの招待

      2. ・メンバー限定商品の提供

      3. ・特別なサービスへのアクセス権

    2. 優先性(Priority)

      1. ・優先予約権の付与

      2. ・先行販売へのアクセス

      3. ・優先的なサポート対応

    3. 地位性(Status)

      1. ・会員ランク制度の導入

      2. ・特別な称号の付与

      3. ・ステータスを示すシンボルの提供

    4. 認知性(Recognition)

      1. ・顧客表彰制度の実施

      2. ・ロイヤルカスタマーとしての紹介

      3. ・貢献度に応じた特別待遇

  • 2.2 価値提供要素 - 具体的なメリットの提供
    お客様に直接的な価値を届ける中核的な要素です。

    1. 利便性(Convenience)

      1. ・24時間対応のサポート体制

      2. ・ワンクリックでの注文システム

      3. ・パーソナライズされた情報提供

    2. 経済的価値(Economic Value)

      1. ・会員専用の割引制度

      2. ・ポイント還元プログラム

      3. ・特別価格の提供

    3. 体験価値(Experiential Value)

      1. ・ユニークなイベントの開催

      2. ・カスタマイズサービスの提供

      3. ・ブランド体験の機会創出

    4. 機能的価値(Functional Value)

      1. ・製品のアップグレード

      2. ・専門家によるサポート

      3. ・機能の拡張提供

  • 2.3 顧客成長支援要素 - 共に成長するパートナーシップ
    お客様の可能性を広げる要素です。目標達成プログラムや専門セミナー、スキルアップ支援など、成長をサポートする機会を提供。
    単なるサービス提供を超えて、お客様と共に成長する関係性を築きます。

    1. 自己実現性(Self-Actualization)

      1. ・個別の目標設定と達成プログラム

      2. ・パーソナルコーチングの提供

      3. ・成長の可視化と達成感の共有

    2. 知的価値(Intellectual Value)

      1. ・専門家によるセミナーの開催

      2. ・業界トレンドレポートの提供

      3. ・知識習得プログラムの実施

    3. スキル向上性(Skill Enhancement)

      1. ・実践的なワークショップの開催

      2. ・段階的な学習プログラムの提供

      3. ・認定制度の実施

    4. 自己表現性(Self-Expression)

      1. ・ユーザー生成コンテンツの場の提供

      2. ・創造的活動の支援

      3. ・成果発表の機会創出

  • 2.4 相互作用促進要素 - コミュニティの形成と価値の共創
    お客様同士、そしてブランドとの間の関係性を深める要素です。単なるサービス提供を超えた、共に創り上げる価値を実現します。

    1. 社会性(Social Connection)

      1. ・メンバー専用コミュニティの運営

      2. ・交流イベントの開催

      3. ・相互学習の機会提供

    2. 共創性(Co-creation)

      1. ・新商品開発への参加機会

      2. ・サービス改善への意見反映

      3. ・アイデアの共有と実現

    3. 信頼構築性(Trust Building)

      1. ・透明性の高い情報開示

      2. ・双方向のコミュニケーション

      3. ・継続的な関係性の強化

    4. ゲーミフィケーション性(Gamification)

      1. ・達成度の可視化システム

      2. ・段階的な報酬プログラム

      3. ・チャレンジ企画の実施

3. 各要素の役割

 実利的か否か、社会的か否かなどの軸で分類をして、各エレメントに分類しています。

 ロイヤルティプログラムは、マーケティング政策なので顧客便益になる範囲の中で、ブランド・事業側が求める状態を顧客に違和感のない状態で到達してもらう必要があります。顧客便益は、顧客の期待を背景にした嬉しさに立脚します。顧客に喜んでいただける範囲の中で、自社ブランドのマーケティング上の目的をいやらしくなく伝えていく必要があります。

 例えば、顧客成長支援要素などはバランスが肝要です。ブランドへの熱量が高く一定程度の役務を顧客がいとわない代わりに期待も大きい場合、学習コンテンツを通して自社のファンになっていただくこと自体を特典とするという考え方です。成立すれば、ブランドやブランド体験を学習いただくという貴重なマーケティング目的を達成できます。
また、ポイントや値引きなどは代表的な特典です。顧客の熱量はあまり問いませんがクーポンを利用した再購入という目的を達成します。

 各特典は、異なる顧客価値の要素を満たすので、各特典を組み合わせてプログラムを形成することが重要です。また総体としてプログラム全体がどういった目的を達成すべきかという戦略や、コンセプトが特典を決定するために必要になります。

第2部:単価帯別ファッション業界の例

 高級アパレルブランドとファストファッションでは、顧客との関係性構築において異なるアプローチが必要です。高級ブランドは、商品単価が高く購買頻度が低い特性から、一回一回の購買体験を特別なものとし、ブランドの世界観を深く理解してもらうことが重要です。 

 一方、ファストファッションは、商品単価は低いものの購買頻度が高い特性を活かし、日常的な顧客接点を通じて気軽に参加できるコミュニティ形成とトレンド情報の共有に重点を置きます。両者とも、それぞれの顧客層の行動特性とブランド価値に合わせたロイヤルティプログラムの設計が求められます。それぞれにどのようなエレメント(価値要素)を踏まえた施策が良いか考えてみましょう。

1. 高級アパレルブランドの場合

商品単価が高く購買頻度が低い特性を活かし、一回一回の購買を特別な体験として演出します。限定性と優先性を重視し、ブランドの世界観を深く理解してもらうための体験価値提供に重点を置いた施策を展開します

  • 業態特性

    • 商品単価が高く、購買頻度は低い

    • ブランドの世界観と体験価値を重視

    • 顧客の社会的ステータスへの欲求が強い

    • パーソナライズされたサービスが重要

  • 主要施策例

    • 1.顧客差別化要素

      • メゾンコレクション先行予約権

      • プライベートショッピングルーム

      • VIPメンバー専用フロア

      • パーソナルスタイリスト専属制

    • 2. 価値提供要素

      • AIスタイリングレコメンデーション

      • グローバルワードローブ管理

      • メンテナンスサービス無償提供

      • 自宅への出張採寸・フィッティング

    • 3. 顧客成長支援要素

      • スタイリング講座の提供

      • サステナブルファッション勉強会

      • パーソナルカラー診断

      • ファッション史・文化セミナー

    • 4. 相互作用促進要素

      • VIP顧客限定ソーシャルイベント

      • デザイナーとの対話セッション

      • コレクションショー招待

      • メンバー専用SNSコミュニティ

2. ファストファッションの場合

商品単価は低いが購買頻度が高い特性を活かし、日常的な顧客接点を通じてエンゲージメントを高めます。経済的価値の提供とコミュニティ形成に重点を置き、SNSを活用した相互作用の促進とトレンド情報の共有を重視します。

  • 業態特性

    • 商品単価が低く、購買頻度が高い

    • トレンド性と価格の手頃さが重要

    • 幅広い顧客層へのアプローチ

    • デジタルとリアルの融合が必須

  • 主要施策例

    • 1. 顧客差別化要素

      • 新作アイテム24時間先行購入権

      • メンバー限定価格の提供

      • ポイント2倍デー優先案内

      • 限定コラボアイテム先行予約

    • 2. 価値提供要素

      • アプリ会員特別クーポン

      • デジタルクローゼット管理

      • 店舗在庫リアルタイム確認

      • コーディネート提案アプリ

    • 3. 顧客成長支援要素

      • トレンドコーディネート講座

      • サステナビリティ活動参加

      • スタイリングアドバイス配信

      • ファッションアプリでの学習コンテンツ

    • 4. 相互作用促進要素

      • SNSスタイリングコンテスト

      • コーディネート投稿コミュニティ

      • インフルエンサーコラボイベント

      • ユーザー参加型商品開発

3.カスタマージャーニーの本質的な違い

  • 高級アパレルブランドの場合

    1. 商品との出会いから購入までのプロセスは、まるで良質な関係構築のようです。じっくりと時間をかけ、ブランドの世界観を理解し、商品の価値を深く知る。その過程で、お客様の期待値も高まっていきます。一回の購買には慎重な検討と熟考が伴い、それだけに購入後の満足度も重要な要素となります。

  • ファストファッションの場合

    1. トレンドとの出会いから購入までがスピーディ。SNSで見かけたスタイルを即座に取り入れたい、という気軽な購買動機が特徴です。頻繁な来店と複数アイテムの購入が期待できる分、その都度の小さな感動や発見が重要になってきます。

4.4つの要素をどう活かすか

  • 顧客差別化要素の工夫
    高級ブランドでは、プライベートショッピングルームでの専属スタイリストによる接客など、まさに「特別な存在」として扱われる体験を提供。一方、ファストファッションでは、会員ランクに応じた先行セール案内や限定アイテムの優先購入権など、より多くの顧客が参加できる形での差別化を図ります。

  • 価値提供要素の工夫
    高級ブランドは、グローバルワードローブ管理やパーソナルフィッティングなど、きめ細やかなサービスを通じて付加価値を創出。ファストファッションでは、アプリクーポンやポイント還元など、即座に実感できる経済的価値と、使いやすさを重視します。

  • 顧客成長支援要素の工夫
    高級ブランドでは、ファッション史や素材知識、サステナビリティに関するセミナーなど、文化的価値の共有に重点を置きます。対してファストファッションは、最新トレンドの紹介や、手持ち服との組み合わせ提案など、実用的なスタイリングスキルの向上を支援します。

  • 相互作用促進要素の工夫
    高級ブランドは、VIP顧客限定のソーシャルイベントや、デザイナーとの対話セッションなど、選ばれた顧客同士の深い交流を重視。ファストファッションでは、SNSでのスタイリングコンテストやユーザー投稿型のコミュニティなど、誰もが参加できる形での相互作用を促進します。

  • まとめ:価格帯に応じた戦略設計の重要性
    このように、同じファッション業界でも、価格帯によって最適なロイヤルティプログラムの形は大きく異なります。重要なのは、その違いを理解した上で、各要素を適切に組み合わせ、一貫性のある顧客体験を設計することです。

最後に

今回は、ベネフィットプログラムを構成する4つの要素について、その要素と例をご紹介しました。
では、これらの要素を具体的にどのように特典として展開できるのでしょうか。次回は、具体的な施策例としてベネフィットオプションをご紹介します。

Author

丸山 和人 (Kazuto Maruyama)
Marketing Strategist
ロイヤルティプログラム構築や、MAコミュニケーション戦略など顧客育成に関わるコンサルティングサービスを提供


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