食料自給率230%のオーストラリアからみると日本のレストランはうらやましい|吉野勝二さん
メルボルンでもインバウンド客が多いレストランは苦戦
――吉野さん、お久しぶりです! あ、ニット帽を被ってる。そうか、メルボルンは今冬ですものね! 今はどんな状況ですか?(藤川、以下同)
気温は11℃とかです。寒いですけど、まだ雪が降ったりするほどではないんですよ!
僕が働いているレストラン「アマル」(Amaru)は、メルボルン郊外のアルマデーレ(Armadale)という、日本でいうと白金のような高級住宅街にあるんですね。お城みたいのがドカドカ建っているようなところにあるので、普段使いな感じでみなさんに利用していただいてました。
もともと半分以上は現地のお客様なので、今のところ店はテイクアウト主体に切り替えていますが、あまり影響がないですね。日本円で1万円ほどのお弁当を持ち帰ってくださったり、記念日に利用してくださったりして、なんとかなっていますね。
東京のように同じようなお店が多くないというのもあるかもしれないです(笑)。メルボルンには、高級店がそれほど多くないですから。
――コロナによって失業などがあって、暫くの間は、海外旅行の行き先として治安のことも考えるとアメリカとかヨーロッパは怖くて行けないなって思っていて。メルボルンって治安っていいんですか?
海外だから治安が悪いかもってビビッてたんですけど、メルボルンはめちゃくちゃ治安がいいです。
ホームレスに対しての保証がすごくあついんですよ。住宅も手当されたり、国からお金もでて、毎月食事券も配布されます。シャワーも無料で利用できたりするんです。メルボルンは、気候が安定しなくて、27℃の次の日が13℃とか、ホームレスが生活するには厳しいはずなのですが、保証がいいので国中のホームレスがメルボルンに集まっている感じです。
そういうのもあって、犯罪もあまりないですね。スリとかもないです。
――日本とかシンガポール、台湾は治安がいいので、ビフォーコロナ・アフターコロナの世界では、そういうところから旅行者が増えてくるのかな、と思っているんです。レストランも立地によって、かなりでてくるんじゃないかと思っています。
そうですね、さっきの話にも関係しますが、アマルは住宅地にあるので、コロナ禍でもお客様に来ていただけましたが、友人が働いている「ブレエ」(Brae)という世界のベストレストラン50にランキングされるようなレストランは、市街地から車で2時間くらい行った平原のなかにあるポツんとあるんです。そういうところはどうしようもないみたいですね。村からも遠いので、テイクアウトを受けとりに来るような人たちがいないわけですから。
――メルボルンでも外出自粛令があって、アマルも最初の2週間は休業だったそうですが、その間、吉野さんは何をされていたんですか?
はい。3月23日の正午から持ち帰りと宅配は除く、レストランとカフェの営業停止処置が発表れました。
最初の2週間は、アマルのスタッフ全員が有給休暇を取らされまして(笑)。その間は、自宅にいました。ただ、市場に行くことはできたので、買い物して、時間がないとできないような料理をしていましたよ。
――どんな料理を作ってたんですか? 気になる!
そんなに凝った料理はしてないですよ。ふだんだったら「ひと晩ワインに漬けて」みたいな時間がかかるような料理をしましたね。たとえばタンシチューとかブルギニヨンといった煮込み料理とか。それを奥さんと二人で食べてました。
けっこう料理人の方って家で料理する人としない人で分かれるんですが、僕は料理をする方なんですよね。普段から週末に奥さんのご飯を作って冷凍しておくみたいな感じなので、そんなに変わったことはなかったですね。
それとオーストラリアのスーパーは、日本と違って、肉も部位ごとじゃなく丸ごと売っていますし、骨付きの肉もふつうに買えるので、それほどレストランとやること変わらないなって思いますね(笑)。
日本に帰るとよく「オーストラリア料理ってなんですか?」と聞かれるんですけど、アマルのシェフからは「バーベキューしたらオーストラリア料理だ」とわれています(笑)。ただ、基本的ンはブリティッシュ・カルチャーなので、いろいろなものに燻製かけるのが特徴かもしれません。ハムとかの塩蔵食品は多いですね。ローストチキンなんかも塩漬けして干してから焼きますので。1
――メルボルンはイタリア移民も多いって聞きますよね。
そうですね、イタリア移民と、あとギリシャ移民が多いですね。
なので、コーヒーは深入りが基本で、フラットホワイト(エスプレッソとスチームミルク)やラテ、マジック(ダブルスプレッソとスチームミルク、泡立てたミルク)とかオーストラリアならではのカフェ文化が生まれた背景になっています。
アマルでも、シェフがスタッフを引き連れて、産地や市場をまわるときにコーヒーをおごってくれんですが、全員選ぶ権利なくマジックにされて「ほら、アマルのスピリットだぞ」といわれるんです(笑)。
ヴィーガンチーズが作られる背景にある意識
――メルボルンの郊外には、水牛モッツァレラを作っているところがあるそうですよね。CHEESE STANDをオープンする前、2008年頃に研修したいとメールしたことがあるんです。けっきょく叶いませんでしたが、そこにも行ってみたいって思っています。
ちなみに、CHEESE STANDみたいに、メルボルンの街中でフレッシュチーズを作っている店ってありますか?
最近、出来てきましたね。
メルボルンにもあるんだ! 最近はパリにも出来ていたり、イタリアの駅裏とかにも出来てたりするみたいで、広がってきましたよね。
水牛のチーズもかなり出回ってきた印象です。オーストラリアのプロダクトで、ブッラータもみかけます。ストラッチャテッラ(ブッラータの中の繊維状のフレッシュチーズ)とかもありますよ。
――2年半くらい前にシドニーに行ったときに、街でフレッシュチーズを作っている店に行ったんです。2階で製造して、1階がレストランになっていました。オーストラリアは、チーズよく食べそうですよね。
ヴィーガンチーズというのもあって、今日はフェタ(山羊乳のチーズ)ってのを買ってきたんですよ!
これは、乳製品100%フリーなうえに、ソイ(豆)フリー、ラクトース(乳糖)フリーというチーズです。ココナッツオイルと水分に、いろいろなスターチ(でんぷん)を混ぜてチーズっぽくしているんですね。
――食べてみてどうですか? 僕もいずれ作ることになるのかなぁ。
触った感じは、フェタっぽい。チーズっぽい香りがするのはフレーバーを混ぜているんでしょうね。繊維っぽい感じは、オート麦ファイバー(不溶性食物繊維)を使ってますね。
味はフェタっぽさが意外と出ています。味は、すごい安い量販店で売っているようなフェタのような感じがしますね。
――オーストラリアは、ベジタリアンやヴィーガンの方って多いんですか?
多いですね。日本では、ベジタリアンやヴィーガンは、「肉を食べられない人の料理」ようなイメージなんですけど、オーストラリアでは、ベジタリアンやヴィーガンな人は、じっさいのところは肉を求めているように感じます。でも、動物のことを考えると食べることができないという考え方なので、なるべく肉に近いものが開発されているというのが実情のようです。
ベジタリアンやヴィーガンだからサラダを食べたいわけでもなくて、じっさい、ソイミートのバーガーとか人気で、ヴィーガンの人が食べるのはハンバーガーとか高カロリーのものも多い。揚げ物ばっかり食べてもいるので、痩せているというわけではないんです。
あとは、ヴィーガンフードって、日本だと野菜料理だから安いイメージがあるんですが、オーストラリアは普通に高い。野菜料理に手間をかけていますからね。どのお店でもそれなりに値段をとってます。
輸入食材が使えないので日本がうらやましい
――日本に帰ってくる予定はありますか?
2020年の9月に契約更新があるんですね。そうすると、次が永住権になるんです。永住権が取れたら日本に帰ろうと思っています。そのあと、3年後とか4年後とかに自分のお店を持てたらと思っています。
やっぱり、日本にはいいプロダクトや生産者さんがたくさんいるんで、オーストラリアから見ていて、いいなぁと思いますね。使いたい食材を国外からも取り寄せられるじゃないですか。オーストラリアは輸入が厳しいんです。輸入制限は世界有数の厳しさと思います。だからオーストラリアにいて輸入食材ってまずないんですね。
それに生産者さんにこだわらなかったら一年中同じものを作れちゃうんです。大陸のどこかしらが夏だったり冬だったりするので。アマルがあるのはヴィクトリア州のものでやっていますが、そうじゃなければ、一年中オーストラリア・プロダクトで同じ料理がだせるんじゃないかと思います。
そもそもオーストラリアが輸出国ということもあって、食料自給率はカロリーベースで230%くらい(2017年、農林水産省の試算)なんです。ですから、基本的に食材は貯蔵されるので、産直の野菜とかはあまりない。なので、アマルでも地元のもので何とかしようということになるんですね。
そういうことを考えると、日本はいろんな国のいいとこどりができますよね。ヨーロッパの肉を使って、日本のいい魚も使える。そういうメリットは大きいと思いますね。
――帰国したらまたポップアップレストランをやってほしいです。今後、その在り方も、コロナの影響でかわってきそうですね。
形態はかわっていくと思います。
といってもポップアップレストランはイベント屋さんみたいなものですから。そこで自分の実力をすべて出し切ることは難しいと思うんですよ。僕の場合は、「こういう目的のこういうイベントなんですよ」、そして「こういう考え方がありますよ」というのを伝える場なのです。実力の30~40%が出せればいい。
知らないスタッフと営業して、自分が厨房にこもりっきりにもなれないので、ある程度まかせなければいけないわけですから。たぶんフリーランスとか出張料理している方は、みんな抱えている問題だと思うんですよね。
けっきょくは、自分の店舗をもって安定して料理を出すことが、一番自分の実力を出せる場なんじゃないかと思いますね。
――コペンハーゲンの世界的レストラン「noma」のシェフ、レネ(レゼッピ)さんが、今後、レストランで長時間すごせなくなるんじゃないかと言っていました。お客様同士の距離も含めて、グランメゾンのあり方って、どうなっていくと思いますか?
コロナで人との繋がりについて考えさせられました。人と会わないけど、連絡はとっていたり。レストランは社交の場。本来の使い方をしてほしいな、というのはあります。アマルでも昼は地元の婦人の方々集まってくださったり、クリスマスは、お客様のご自宅にいって料理をすることもあります。社交の場として集まる場であり続けてほしいですね。
――最後に、家庭でCHEESE STANDのチーズを使って楽しめる料理があったら教えてください!
オーストラリアには、「チキンパルマ」っていう定番料理があるんですね。要は、チキンのカツレツです。トマトソースをかけて、チーズをのせてトースターで焼くんですね。
これをCHEESE STANDのモッツァレラとかのフレッシュなチーズをかけてたら、もっとおいしくなると思います。
チキンパルマのレシピは、僕のインスタにあげていますので、見てみてください!
Katsuji Yoshino
1987年、東京都出身。「トロワグロ」や「グランヴェフール」といったフランスの名門レストランで修業し帰国。2019年には「Bistaurant RNSQ」(麻布十番)のシェフに29歳の若さで就任。1年限定で「RNSQ by katsuji yoshino」として営業した。日本滞在中は、さまざまなテーマのポップアップイベントを頻繁に開催。2017年に渡豪。現在は、メルボルン郊外のレストラン「Amaru」でスーシェフを務める。
https://www.instagram.com/katsji0430/
文・構成=江六前一郎
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「with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」の第6回は、渋谷のモダンタイ料理「chompoo」の森枝 幹さんです。CHEESE STAND公式noteをフォローしていただいて、次回もお見逃しないようにしてくださいね!
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