断食しかすることない。

断食しかすることない。
断食は本当に暇だ。
なぜならごはんを食べる時間とごはんの後にぽーっとする時間の両方を明晰とも焦燥とも無感覚ともいえぬ、とてもごはんを食べてきた経験の範疇では形容できないような感覚で、なにか袋のなかにとじ込められているように過ごすしかないからだ。

からだという物がふくろのようになっている。
なかみがないと自立しないものであったか。
だとすれば、おれはごはんさまをていねいていねいに体内でおもてなしするためだけの入れもののりものだったみたいだ。

別に食べるものがないわけでもない。家にはコメとサバとミソとダイコンがある。作ろうと思えばダイコンノミソシルだってつくれる。
でも、食べない。
なんでだろう。
食べたくないからかもしれない。家にあるものの味はもう知ってしまっている。そして味を知っているものは食べなくてもいい。だから、ごはんを食べる必要はない。
今まで、そうやって食事をしてきた。食べたいから、食べる。あるから、食べる。気になるから、買う。買ったから、食べる、飲む。
カフェインも、コーヒーも、砂糖も、ジュースも、ラーメンも、肉も、野菜も、豆腐も、大豆も、納豆も。
「試したい」から買っていたんだ。「料理してみたい」から買ってきただけだった。味がわかればもう要はない?
おなかが空いたなら、今すぐ冷蔵庫の中にあるタッパーを取り出し、玄米をあたため、ミソをつけて食べればいい。
台所の棚においてあるサバ缶をあけて食べればいい。水煮の味がうすいならそれこそミソをつければいい。
どうして?食べないのだろう。

断食というもの?
もしくは、絶食と呼んだ方がいいのかもしれない。

最後に食べたのは昨日の昼、15時くらいだとしておこう。そしてそれからだいたい30時間くらいたっている。
昨日の夜はなんだか、寝つけなかった。眠くないわけじゃないのに、もの言わぬ子どもがただずっと肩を揺すってきてるみたいに、ふだんはひとつだけの「眠る」という位置に「なにか」がかさなって位置がふたつになったような。ねむけとおんなじ大きさくらいの「なにか」がずっと寝るのを見させてくれなかった。

それでも、思ったより早くは起きれたし、目覚めも今日のすごしかたも寝られなかったなんてなかったみたいだった。睡眠って必要ないんじゃないの?
睡眠=不動+飛意識 だとすると、飛意識のほうは必要ないみたい。寝るってことは条件がととのったときに夜をスキップするゲームのルールでしかないから。考えたくなくないのであれば、ずっとおきてていいんだよ。

ごはんを食べないからといって、今日といういちにちがなにか変わったわけでもない。おなかだって空かないし、水だって飲みたくない。今くちびるをなめてみたら、意外と乾燥してた。
でも水を飲むとおなか減るから飲みたくない。

あたまがすごくはたらくというわけではないけど、ひまな時間がふえたような気がするよ。
おきて、書いて、よんで、スマホみて、すわって、勉強して、あるいて、勉強して、つぶせって、すわりあがって、書いてる。
ただ、さっきも言ったように、ごはんとぽーっがなくなっただけ。
それだけなのに、なんかいちにちがながい。
いや、それも嘘かもしれない。
たいくつだ。暇だ。

ようやく最後の課題を出せたのに、ようやくノートを使いきれそうなのに、ようやく連絡を返せそうなのに、ようやく本を読み終えれそうなのに。

やらなきゃいけないことを終わらせるくらいすごいはずなのに。
なんにも、すごくない。

うれしくないわけじゃない。
やる気がないわけでもない。
むしろ今までよりぜんぜんうまくいってるはずなのに。
記憶にみずをながされてるみたいだ。
いろもかたちもうすまってるみたいだ。
「なにか」が不足している感じがする。
それはドーパミンかもしれない。血中の糖分かもしれない。塩分かもしれないし、カフェインかもしれない。
そしてすべてが終わったいま、焦りすらなくなった。
あるのは、漠然とした予定だけ。
したいことも、やらなきゃいけないことも、すべてが締め切りから解放され宙をういてる。
おだやかだとでもいうのだろうか。

課題が終わったから、ようやく弟からおかねをもらえる。
さて、自分はおかねを手にしたら、いったいなにを買いにいくのだろうか。
また、食べたいものを、味の濃いものを、ネットでみたものを、自販機にあったものを、コンビニの新しいものを、作りたいだけの料理を、材料を、買ってくるのだろうか。

だって、食べなくてもいいのに?
ありえないほど食べて、おぼえられないほどだして、興奮と抑うつの内にいちにちが終わるのか?
いまのこんなアタラクシアなきもちは、かんかくは、カネと物質のカラフルでポップなパッケージで包装されてしまうのだろうか?

こんな気分ですごしてる。

さもなくば、この経験のひとかけらでもふくろの内にのこしておけることを。

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