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「表現者・三浦春馬」の舞台裏が詰まった『日本製』

「47都道府県の47メイド・イン・ジャパン」がまとめられたこの本は、日本の文化や産業、芸能、自然を知ることができて興味深い。ファンじゃなくとも、日本や自分の故郷を知ったり、働くことや仕事について考えるきっかけとして、日本人のみならず海外の方にもおすすめしたい1冊だが、三浦春馬さんが好きな人にとっては、俳優としての「表側の活動」を支える「裏側」が詰まった、とても興味深い1冊だと思う。

月刊誌で4年にわたって連載されていた記事を1冊にまとめたものなのだけれど、一緒に発売されたフォトブックと合わせると2015年9月から2020年1月までの旅紀行、ドキュメンタリー記録のようでもある。


まず感心したのは、編集部から提案された場所に取材に行くのではなく、春馬さん自身がテーマを考え、取材先を見つけていること。時々編集部が提案したり、知人に聞いた場所もあるけれど、ほとんどの場所が「なぜここか」「なぜこのテーマか」という思い入れが彼自身にある。

漆や染物、織物、和紙、陶芸など伝統工芸は一通り網羅した上で、トヨタのような大企業(だけど車じゃなくて織機)や、うどんや天然の炭酸水、カツオ漁、町民全員が関わる歌舞伎など、とにかくジャンルが幅広くて面白い。

そして、取材の中でそれぞれ人の働き方や、人柄、生き方にまでスポットを当てているのも興味深い。

旅館の客室係がお部屋に何度も出入りする際に「一度も畳のヘりを踏んでないこと」に感心したり、和蝋燭が消える時に「1本の映画を観たみたい」と拍手を送ったり、道の駅で実演に見入って購入したのは手作りのお手玉!

目の付け所が面白く、20代後半男子とは思えない感性に溢れている。そして、一つの話題からどんどん興味が広がって、分からないことは素直に聞いて学び、なんでも面白がってチャレンジしてみる。
さらに、どんな話題からもエンターテイメント業界や演じることに繋がるエッセンスを見出す。この感性と好奇心と吸収力があるから、細やかな役作りができるんだろうな、と思う。

スタッフさんによる「裏・日本製」コラムからは、晴れ男ぶりや、わずかな時間でも温泉に入りに行ったり、チラシや看板で面白そうなことを見つけると寄りたがる好奇心旺盛な姿や、道の駅好き、食事に限らずとにかくよく食べる様子(せかほしで美味しそうに食べていた姿が目に浮かぶ)、スタッフへの差し入れやお土産をたっぷり買う、自分の買い物には随分迷う、といった「半分素」のエピソードが満載でほっこりする。

取材中の写真からは「わー!!」とか「おっ!」「へぇー」と言った言葉が聞こえてくるよう。漫画みたいな驚いた顔や、湯上がりにほわっとした顔など、本当に表情豊か。

そして、服装は、もしや私服?
ある程度固定ファンが読む俳優専門誌の企画だから、あえて私服にしたのだろうか?キャップに眼鏡というオーラ消しの街歩き用姿のような写真もある。なんとまあ、飾らない姿だこと。

白黒のフォトブックの方は、2019年の舞台の控室の様子や、殺陣や乗馬の稽古の様子、ドラマ撮影の様子などが収められている。こちらはメイク中や、ラフな姿でストレッチや、おそらく歌やセリフの練習をしている姿など、完全に裏側の姿。

メイクも照明もない真剣の練習姿は、このシーンだけで1本の映画のような空気感が漂っていて、恐ろしいほどかっこいい。どれだけ素がいいんだろう。

舞台の日は、会場入りから準備して役になり、演じ終わって普段の姿に戻り食事して、と、『舞台の日は決まったルーティーンで生活していた 』様子が伺える。

しかし、、、カツラ用のネットを被って、ローラメイクして上半身裸の写真には「そこまで出す?」と驚いた。
いつだったか、『俳優だから変な顔があってもいい。』『見せられないものはない』と言ったニュアンスのことを言っていたことがあったけれど、このオープン度というか、拘らない度はすごい。


最初の取材地、種子島に訪れた2015年9月は進撃の巨人のキャンペーンが終わり、世の中の風あたりが今までとはちょっと変わった時期。そのタイミングで外の世界を見る機会が持てていたと分かってちょっと安心した。(まるで親心)

2008年から2015年までと比べて、ややスケジュールに余裕があったと思われる2016年、2017年。天外者の五代さん役の話をいただいたのが2017年。
この頃を境に一気に大人になった感があったのだけど、その裏側にはこの取材や留学を経て、芸能界以外のいろんな人と関わり、刺激や学びがあったのだと思うと、とても納得が行くし、感慨深い。

世の中の報道では「繊細」と言われているけれど、私の中で春馬くんの印象は18歳の頃から変わらず、負けず嫌いで芯の強い人。繊細なのは役作りとか表情、ここ数年は周囲の人に気を遣うことや、人から言われたことを真面目に受け止めて考えることくらいで、彼自身の生き方や考え方に弱さ的な繊細さを感じたことはなく、報道を見るたび「そうなのかな??」と思っていた。

この「日本製」を改めて読んでみて、まるで武士のような人だと感じた。仁義に厚く、多くは語らず、技を磨きながら文化教養も磨く、質実剛健、文武両道の精神。

武士の時代も五代さんの時代も、当時の人はその時代その家に生まれた宿命を受け入れて生きる覚悟のようなものがあったように思うのだけど、彼自身も自分の宿命を覚悟して受け止めていたのかな、と思う。

ちょうどこの冬、春馬くん12歳の時の初主演映画「森の学校」や、子役時代のドラマを見る機会があり、本当に役者になるために生まれてきた人だったのだな、と思っていたところだった。

この本の中で「天外者」についてと、今後の展望を語り、出版後のイタンビューでは『いつか子供が出来た時、パパは47都道府県に行ったことがあるんだよ、と自慢したい』『まったく嘘のない僕を詰め込みました』と話している。

この本の後何があったのかはわからないけれど、少なくとも1年前の2020年1月までの作品と、作品の裏側の姿に嘘はなく、未来を見ていた。

この姿を信じて、大切にしていきたい。



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