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寒い朝の大人ココア

10月上旬。
むせるような暑さはどこへやら、涼しくなってくるこのころの山が大好きだ。
私と友人はゆっくりと山の上で過ごしたいと思って燕岳に向かった。燕岳はテント場まで3〜4時間ほどで登れるので、ゆっくり過ごすには最適だ。早朝五時ごろ、日が昇る前に出発し、九時前にテント場に到着した。テントを谷側の特等席に張って1日が始まる。

谷側の区切られた特等席
朝は寝袋から出ずに朝日が拝める

その日は青空が広がり、風もなく山日和だった。
朝早く出発して少し寝不足だったので、テントの横にシートを敷いて、暖かい陽を全身で感じながらお昼寝をした。早く到着するとこういうゆっくりとした時間を過ごせるのが良い。
お昼前に起き出して、サコッシュだけを持って身軽に燕岳に向かう。テント場から燕岳は30分弱歩く。テント場からは燕岳で隠されている向こうの景色が見える。山頂で男の人たちが向こうを眺めながらあれは何岳、何々山脈と満足げに教えてくれる。正直ほとんど覚えていないが、大天井岳の方に伸びる稜線、横に見える穂高、紅葉で色づいた北燕岳、遠くに見える峰々、安曇野の街と景色は抜群だ。次は北燕の方に行ってみるのもいいかもしれない。

燕岳からみる北燕岳

その日はゆっくりと過ぎていき、夕方になったら北アルプスの女王は威厳を増していく。名物おでんを買って食べて、雲海を見ながらご飯を作って、夜は同じくテント泊に来ていた男性2人に声を掛けてもらいワインで晩酌をした。この方たちとは仲良くなって以来最高の山仲間になったというのは別の話。20時ごろには床に入り朝までぐっすりと寝た。

テントの前に雲海が出ていた

山の朝は早い。縦走するならば3時ごろに起きて4時ごろには出発したところだ。私たちはできるだけゆっくりと過ごしたかったのでピストンにした。下りは3時間かかるかかからないかというところだから、9時に出発すれば十分すぎる。4時過ぎに起き、朝日をみて、日が昇って暖かくなってから良い眺めとともに朝ごはんを食べて下山するという計画だった。

テントからの朝の景色

朝は私たちが想像していたより寒かった。アラームがかけられないのに起きられるものかといつも心配になるが、朝日を見るために周りが起きだすからやっぱり時間通りに目が覚める。4時過ぎに起き出してテントを開けてみた。そうしたらもうこの眺めである。思わず声が出た。右に見える富士山と、対照的に左に見える月もいい。友人はまだ寝袋の中でゴソゴソと寝返りをうっていたが、早くこの気持ちを共有したくて叩き起こしてしまった。

テントの中から朝焼けを眺める

でもまだ20分は日が昇らない。この朝ヘッデンの灯りの中、私たちが前日から一番楽しみにしてた「大人ココア」を作った。『山と食欲と私』のエピソードで、主人公がダンディーなおじさんと出会って大人の山のおやつを教えてもらうという回がある。それを読んで以来ずっと「バナナのソテー」と「大人ココア」を山で飲んでみたかった。純ココアパウダーを少しのお湯に溶かして、牛乳を足して温める。蜂蜜と小さじ1杯のウィスキーを足したら出来上がりだ。ウィスキーの良い香りがテントの中に充満する。寒い朝はコーヒーよりもこの濃厚で甘くてほろ苦い「大人ココア」がおすすめだ。寝袋にくるまってあつあつのココアをすすりながら1日の始まりを見届けた。

ほろ苦い「大人ココア」

日が昇るとたちまち暖かくなってくる。ココアで暖まった身体でやっと寝袋から抜け出して、山小屋の隣のベンチで昨日の2人と4人で朝ごはんを食べる。だし巻き卵の缶とサバの味噌煮缶を缶のまま温めて炊き立てのご飯といただく。
11日が誕生日だというと、昨日の2人がケーキとコーヒーを買ってきてくれた。山の上でケーキが食べられるなんて!今思うと最高のグルメ旅だったなぁ。

燕山荘のケーキ

走るように下山して、降りたら温泉までがセットだ。露天でのんびり山行を思い返す。次の日からの上高地からの山旅が決まっていたから、次はどんな出会いとどんな素敵な時間が待っているかと思いを馳せる。最高な山行だったからこそ次が楽しみで楽しみでならない。

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