【東京都同情塔】言語コミュニケーションの限界を垣間見る#1
今年の芥川賞受賞作『東京都同情塔』が個人的に刺さりすぎてエキサイトしてしまったのでその勢いでnoteを書いた。
タイトルのキーワード、”同情”という言葉が、わたし的に簡単に脳を素通りさせられない言葉の一つで。そんな短絡的な理由で読み始めたんだが。
やはり芥川賞は芥川賞。
これまで言語化されてなかった世の中の事象にに、すぱすぱと言葉が当てはめられていく。ジグソーパズルのピースが埋まってくような爽快感。まさに快。ドーパミンが大量放出。
数ページで、これは絶対に何度も読みたくなるやつだ・・というか読むべきだ。
みたいな確信、使命感、運命的な出会い?神の啓示?
まあつまりは破壊的な衝動に駆られて、気付けば会計を済ませていた。
どんな話なのか:バベルの塔の再現
この本はどんな物語か、というのは、本を開いて最初の一行に書かれている。
"バベルの塔の再現"。
物語の中心的存在である「シンパシータワートウキョウ」とバベルの塔が重なっている。
バベルの塔の話では「言葉が通じなくなる」という流れがあるが、この小説の大テーマも”言葉”であり、かつ”言葉が通じなくなる”というところ。
その言葉の周りで、同情、多様性、格差、平等、理解と誤解、人間の尊厳、みたいな話が出てくるわけである。
ここからは、私の頭のどこかしらかに突き刺さって抜けなくなった言葉たちをピックアップしていく。
大独り言時代の到来
最初のページに君臨する圧倒的ワード、大独り言時代。
こんなに綺麗に、シンプルに言語化できるんだ・・と感動。
お互い同じ日本語を話してるはずなのに、なんか話噛み合ってないなって感じるやつ。
なんか互いに話してること違くない?
我々同じ道走ってたつもりだったけど、実はハイウェイと国道を並走してる今?みたいな。(こういうのをネタの中で言ってた芸人がいた気がしたけど誰だったか思い出せない)
仕事上は特にこれを感じることが多くて。
最近の事例だと、リクルーティング活動における”優秀層”という言葉の使い方。
こういう曖昧な表現こそ認識齟齬の源泉だよな、、って思うけど、それぞれにそれぞれの優秀定義があるから、みなが言う優秀層の属性がちょっとずつ違って。でも優秀とはをちゃんと定義してないまま、皆がそれぞれの思う優秀で勝手に話す挙句、結局優秀層って誰のこと言ってんねん!っていうオチ。
皆それぞれが使っている言葉は、それぞれの勝手な前提や文脈で使ってるもの。
でも、このことをいつも簡単に忘れてしまう。
自分の伝えたいことを文字の羅列に乗せて伝えれば、その文字の羅列は全部を伝えてくれる?
NO。
その文字の羅列は、その人の脳内で、その人なりの意味に絶妙に変換される。数式以外は。
人間が言語を通じて本当の意味で理解し合うのって、結構不可能に近い話なんだなってことか、この小説を読んで最も強く感じたことだった。
主人公の沙羅(建築家でありシンパシータワートウキョウの建築に携わった)が言っていた、理解と誤解はそこまで変わらない、という言葉が頭の中にすっと入ってくる感じがする。
その人がイメージできる世界はその人の語彙の範疇内
これは、沙羅が、彼女にとっての建築とは?を、マックス・クライン(アメリカのジャーナリスト)に伝えた時の彼の返答。
この文章を読んでハッと思ったのは、「人間がイメージできる範疇というのは、その人の語彙の範囲内に限られる」、というところ。
沙羅の語彙で発言した内容は、マックス・クラインの頭に入る時必ずマックス・クラインの語彙に変換される。必ず。
語彙が100ある人Aさんの話を、語彙が10の人Bさんが聞くとする。
すると、Bさんはその語彙10の範囲内でしかAさんの話を理解することはできない。解像度が低い状態で理解したり、一部が欠け落ちた状態で理解したりという具合である。
人と人がすれ違ったり、認識齟齬が起きるメカニズムを垣間見たように思う。
[Appendix]相手の言ってることがわからない時、どうするのがベスト?
関わるの諦める?
理解しようとすることを諦める?
いろんな考え方があると思うが、個人的に少なくとも共感力を発動できる人間でありたい。
綺麗事であることは重々承知の上で。
ブレイディみかこさんの小説の中に、共感とは何か?をこう表現してる一節がある。
東京都同情塔の中には、犯罪者が登場する。(シンパシータワートウキョウはイコール刑務所)
例えば犯罪者の言ってることが理解できない時、
イライラするだろうし、怒りとかいろんな感情が湧いてくるだろうし。
でも、とりあえず、その人の靴を履いてみるだけ履いてみる。
その人の目の奥にはどんな世界が映し出されているのか。どんな世界に生きてるのか。
その人の世界はどんな語彙で構成されているのか。
それは相手の靴を履いてみないと分からない。
次に続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?