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<お勧め本>ウクライナ侵略を考える―「大国」の視線を超えて 加藤直樹著

 2024年4月に発行された本書は、私がウクライナ問題で感じていた日本での違和感にきちんと応えてくれる内容でした。あとがきに「それでも、あまりに歪んだ議論が横行している中で、私の立場から言わなくてはいけないことがあると思ったのである。平和を掲げる人びとが、侵略されている国の人びとを侮辱し、軽視し、さらには無視するという倒錯が、私には耐え難かった。」とありますが、まさにそれは私の思いでもありました。
 著者の加藤直樹さんはけっしてウクライナやロシアの専門家ではありません。朝鮮・中国などの東アジア問題などにずっと関心を持ち、その関連の文章を書いてきました。その加藤さんがウクライナ問題に関心を持ったのは2022年2月24日のロシア軍のウクライナ侵攻以降でした。ロシアのプーチン政権によるウクライナ全面侵略に衝撃を受けましたが、それ以上にその後の日本での言説に衝撃を受けました。いつもは侵略や植民地主義に反対していたはずの人たちが、SNS上でウクライナ批判をし始めたからです。侵略したロシアを批判するのではなく、ウクライナを批判し、ウクライナに対し、冷笑、嘲笑、憎悪、蔑視を示したのでした。
 もちろんロシア擁護論は左翼や市民運動だけではなく、極右やレイシストの間にも広がっているし、さらにはロシアと何らかの利益関係を持つ政財界の間にも広がっていました。それでも進歩派や市民運動の中で侵略を擁護する人々が続々と現れたことは加藤さんにとって大きな衝撃であり、そのためウクライナを考え始め、この本を著すに至りました。それは「これだけの歴史と文化を持ち、たった今過酷な運命に直面しているウクライナの人びとに対し、にもかかわらず敬意を払わず、「主体」として無視する議論への怒りだった」と加藤さんは記しています。
 加藤さんは「ロシア擁護論」の根底にある思想的問題を、①大国主義②民族蔑視③日本的平和主義の傲慢の3つに見ています。その視点から本書ではさらに掘り下げて展開しています。特に侵略への反省不在の「平和主義」や被害当事者の不在の「即時停戦」運動への批判などにきちんと向き合っています。またウクライナを批判する「反米至上主義」や「ウクライナナショナリズム」などについての論考などもあります。ぜひお読みください。

ウクライナ侵略を考える―「大国」の視線を超えて
加藤直樹著 あけび書房 定価2200円
 
                      チェチェン連絡会議 代表 青山 正  (2024年5月6日)

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