山形国際ドキュメンタリー映画祭2019レポート【完全保存版】
こんにちは、チェ・ブンブンです。
先日、10/11(金)~10/15(火)まで山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下、YIDFF)に潜入してきました。本祭は、1989年から隔年で開催されるアジア随一のドキュメンタリー専門映画祭。トラヴィス・ウィルカーソン、ペドロ・コスタ、パトリシオ・グスマン、王兵といった世界最先端を疾走するドキュメンタリー映画監督をいち早く発見することでも有名な映画祭。その先見性からか昨年米国アカデミー賞が認める映画祭となりました。
ブンブンは高校時代に、NHKでYIDFFとのコラボ放送された9時間のドキュメンタリー『鉄西区』を観て衝撃を受けました。いつか行ってみたいという気持ちでいたところ、遂に行く機会を見つけました。今年も釜山国際映画祭に行こうと思っていた矢先、日韓情勢の悪化による飛行機減便により、釜山へ行けなくなってしまった私の前に本祭の存在が現れたのです。
今年は30周年の記念回だけあって、インターナショナル・コンペティションから凄いラインナップとなっています。王兵、フレデリック・ワイズマンといった巨匠に続けと言わんばかりにトラヴィス・ウィルカーソン、アナンド・パトワルダンといった常連作家が続く。そしてその牙城を崩そうと狙う、スマホだけで撮影されたドキュメンタリーやアート映画がしのぎを削っている。
コンペ外を除けば、ダミアン・マニヴェルやアッバス・キアロスタミの息子監督作品などが所狭しと並んでいて、濃密なラインナップとなっています。こんなラインナップを魅せられたら、ドキュメンタリー映画好きが行かない理由などありません。
下記がYIDFF2019で上映された作品一覧です。
下線からブンブンのレビューに飛べます。
(随時リンク貼り付けます。)
YIDFF2019ラインナップ
【インターナショナル・コンペティション】
※応募総数:123の国・地域より1,428作品
1.別離(監督:エクタ・ミッタル)
2.ラ・カチャダ(監督:マレン・ビニャヨ)
3.十字架(監督:テレサ・アレドンド、カルロス・バスケス・メンデス)
4.死霊魂(監督:王兵)
5.誰が撃ったか考えてみたか?(監督:トラヴィス・ウィルカーソン)
6.約束の地で(監督:クローディア・マルシャル)
7.光に生きる ― ロビー・ミューラー(監督:クレア・パイマン)
8.Memento Stella(監督:牧野貴)
9.ミッドナイト・トラベラー(監督:ハサン・ファジリ)
10.インディアナ州モンロヴィア(監督:フレデリック・ワイズマン)
11.理性(監督:アナンド・パトワルダン)
12.自画像:47KMの窓(監督:章梦奇)
13.トランスニストラ(監督:アンナ・イボーン)
14.これは君の闘争だ(監督:エリザ・カパイ)
15.ユキコ(監督:ノ・ヨンソン)
【アジア千波万波】
※応募総数:68の国・地域より943作品
1.アナトリア・トリップ(監督:デニズ・トルトゥム、ジャン・エスキナジ)
2.夏が語ること(監督:パヤル・カパーリヤー)
3.1931年、タユグの灰と亡霊(監督:クリストファー・ゴズム)
4.そして私は歩く(監督:ラジューラ・シャー)
5.山の医療団(監督:ジジ・ベラルディ)
6.セノーテ(監督:小田香)
7.消された存在、__立ち上る不在(監督:ガッサーン・ハルワーニ)
8.エクソダス(監督:バフマン・キアロスタミ)
9.愛を超えて、思いを胸に(監督:マリー・ジルマーノス・サーバ)
10.気高く、我が道を(監督:アラシュ・エスハギ)
11.駆け込み小屋(監督:蘇育賢)
12.海辺の王国で(監督:慶野優太郎)
13.見えない役者たち(監督:チェ・ヒョンシク)
14.ノー・データ・プラン(監督:ミコ・レベレザ)
15.非正規家族(監督:許慧如)
16.あの雲が晴れなくても(監督:ヤシャスウィニー・ラグナンダン)
17.私の家は眠りの中に(監督:ハラマン・パプア)
18.ここへ来た道(監督:張齊育)
19.さまようロック魂(監督:崔兆松)
20.ソウルの冬(監督:ソン・グヨン)
21.ハルコ村(監督:サミ・メルメール、ヒンドゥ・ベンシュクロン)
【アジア千波万波 特別招待作品】
22.自画像:47KMのスフィンクス(監督:章梦奇)
23.美麗少年(監督:陳俊志)
【日本プログラム】
1.王国(あるいはその家について)(監督:草野なつか)
2.空に聞く(監督:小森はるか)
3.アリ地獄天国(監督:土屋トカチ)
4.沖縄スパイ戦史(監督:三上智恵、大矢英代)
5.東京干潟(監督:村上浩康)
【AM/NESIAアムネシア:オセアニアの忘れられた「群島」】
多くの島々が連なる太平洋。オセアニアと呼ばれるその広大な海洋地域は青い“大陸”とも呼ばれ、世界でもっとも広い人間居住地域である。しかし、20世紀初頭から今日にいたるまで日本および米国の帝国支配を受け、地球上でもっとも植民地化、軍事化の進んだ地域のひとつともなっている。
「AM/NESIAアムネシア」はこれまで日本と米国によって声を奪われ忘れられ辺境に追いやられてきた土地と人々、その交流を描いた作品群を特集する。そのうち「土地ランズ」では、人々のアイデンティティと密接に結びついている先祖代々の土地や海の、まさにその場所で行われる核実験や気候変動の影響に粘り強く抵抗を続ける人々の姿を描いた作品を取り上げ、「身体ボディーズ」では、変わりつつあるジェンダー観や島民男性の高い収監率、兵役問題など、オセアニア地域の人々の身体や暮らしが植民地政策によっていかに周辺化され消し去られ、変容させられてきたかを追う。
また「交差クロッシングス」では、顧みられることのない移民問題、文化交流、そして日本列島と太平洋諸島地域の間に位置するオセアニア中間地域の問題などを展望。戦前のプロパガンダ映画から元入植者や軍人たちの証言、そして国籍の曖昧な人々の状況、フラダンスの広がりといった事柄まで、幅広く批判的に検証し、古くから日本と近隣太平洋地域とを結んできたルート(経路)とルーツ(起源)を探りたい。
※YIDFF2019より引用
<交差クロッシングス>
1.海の生命線 我が南洋群島(監督:不明)
2.潮の狭間に(監督:フォックス雅彦)
3.トーキョー・フラ(監督:リゼット・マリー・フラナリー)
<土地ランズ>
4.核の暴虐 ― 機密プロジェクト4.1の島々(監督:アダム・ジョナス・ホロヴィッツ)
5.ねえ、マタフェレ・ペイナム(監督:キャシー・ジェトニル=キジナー、ナタリア・ヴェガ=ベリー)
6.かごから落っこちた島々(監督:キャシー・ジェトニル=キジナー、ラッセル・トゥーラグ、ユウ・スエナガ)
7.聖なる力(監督:キャシー・ジェトニル=キジナー、ダン・リン)
8.立ち上がって 島から島へ(監督:キャシー・ジェトニル=キジナー、ダン・リン)
9.アノテの箱舟(監督:マチュー・リッツ)
<身体ボディーズ>
10.戦場の女たち 英語版(監督:関口典子)
11.島の兵隊(監督:ネイサン・フィッチ)
12.遠く離れて(監督:シアラ・レイシー)
13.クム・ヒナ(監督:ディーン・ハマー、ジョー・ウィルソン)
<REEF REELSリーフ・リールズ 1(短編集)+トークセッション「スイミング・レッスン:カメラで太平洋の歴史を巡る>
14.オセアニア讃歌(監督:ジャスティン・アー・チョン)
15.マゼランはここの住人ではない(監督:マリキータ・デイビス)
16.POW! WOW! グアム:ありのまま(監督:カイル・ペロン、ニコ・セルニオ)
17.イ・マタイ(死体)(監督:カイル・ペロン、ニコ・セルネオ)
18.ナナの言葉(監督:レオナード・“レニ”・レオン)
19.草履(監督:ジャック・ニーデンタール、スザンヌ・チュタロー)
<REEF REELSリーフ・リールズ 2(短編集)+トーク>
20.レディ・エヴァ(監督:ディーン・ハマー、ジョー・ウィルソン)
21.タマトア(監督:タヌ・ガゴ)
22.装置(アーティスト:タヌ・ガゴ)
23.ファーゴゴ(寓話)(アーティスト:パティ・ソロモナ・ティレル)
【リアリティとリアリズム:イラン60s-80s】
1.あの家は黒い(監督:フォルーグ・ファッロフザード)
2.髭のおじさん(監督:バハラム・ベイザイ)
3.放つ(監督:ナセル・タグヴァイ)
4.ホセイン・ヤヴァリ(監督:ホスロ・シナイ)
5.借家(監督:エブラヒム・モフタリ)
6.第1のケース…第2のケース(監督:アッバス・キアロスタミ)
7.白と黒(監督:ソフラブ・シャヒド・サレス)
8.ありふれた出来事(監督:ソフラブ・シャヒド・サレス)
9.静かな生活(監督:ソフラブ・シャヒド・サレス)
10.女性刑務所(監督:カムラン・シーデル)
11.女性区域(監督:カムラン・シーデル)
12.テヘランはイランの首都である(監督:カムラン・シーデル)
13.雨が降った夜(監督:カムラン・シーデル)
14.水、風、砂(監督:アミール・ナデリ)
15.バシュー、小さな旅人(監督:バハラム・ベイザイ)
【Double Shadows/二重の影 2――映画と生の交差する場所】
1.ショウマン(監督:アルバート&デヴィッド・メイズルス)
2.マーロン・ブランドに会う(監督:アルバート&デヴィッド・メイズルス)
3.富士山への道すがら、わたしが見たものは…(監督:ジョナス・メカス)
4.メカスの難民日記(監督:ダグラス・ゴードン)
5.ある夏のリメイク(監督:セヴリーヌ・アンジョルラス、マガリ・ブラガール)
6.ある夏の記録(監督:エドガール・モラン&ジャン・ルーシュ)
7.あの店長(監督:ナワポン・タムロンラタナリット)
8.チャック・ノリス vs 共産主義(監督:イリンカ・カルガレアヌ)
9.さらばわが愛、北朝鮮(監督:キム・ソヨン)
10.アンジェラの日記 ― 我ら二人の映画作家(監督:イェルヴァン・ジャニキアン、アンジェラ・リッチ・ルッキ)
11.パウロ・ブランコに会いたい(監督:ボリス・ニコ)
12.声なき炎(監督:フェデリコ・アテオルトゥア・アルテアガ)
13.木々について語ること ~ トーキング・アバウト・ツリーズ(監督:スハイブ・ガスメルバリ)※ようこそ、革命シネマへ
14.革命の花 ― ヴェトナム・ローズの日記(監督:ジョン・トレス)
15.イサドラの子どもたち(監督:ダミアン・マニヴェル)
【「現実の創造的劇化」:戦時期日本ドキュメンタリー再考】
〈現場の呼吸〉
1.造船所(監督:ポール・ローサ)
2.機関車C57(監督:今泉善珠)
3.知られざる人々(監督:浅野辰雄)
〈労働を綴る〉
4.炭焼く人々(構成:渥美輝男)
5.和具の海女(演出:上野耕三)
6.流網船(監督:ジョン・グリアスン)
〈土地と鉄路〉
7.白茂線(演出:森井輝雄)
8.トゥルクシブ(監督:ヴィクトル・トゥーリン)
〈言葉・響き・リズム〉
9.石炭の顔(監督:アルベルト・カヴァルカンティ)
10.夜行郵便(監督:ハリー・ワット、バジル・ライト)
11.信濃風土記より 小林一茶(演出:亀井文夫)
12.土に生きる(演出・撮影:三木茂)
13.石の村(構成・監督:京極高映)
〈生活を撮る〉
14.住宅問題(監督:アーサー・エルトン、エドガー・H・アンスティ)
15.医者のゐない村(監督:伊東寿恵男)
16.農村住宅改善(監督:野田真吉)
17.或る保姆の記録(監督:水木荘也)
【ともにある Cinema with Us】
1.心の呼び声(監督:蔡一峰)
2.カナカナブは待っている(監督:馬躍比吼)
3.春を告げる町(監督:島田隆一)
4.この空を越えて(監督:椎木透子)
5.洪水の後で ― 家についての12の物語(監督:許慧如)
6.故郷はどこに(監督:許慧如)
7.未来につなぐために ~ 赤浜 震災から7年(監督:小西晴子)
8.台湾マンボ(監督:黄淑梅)
9.子どもたちへの手紙(監督:黄淑梅)
10.帰郷(監督:黄淑梅)
11.飯舘村に帰る(監督:福原悠介)
12.二重のまち/交代地のうたを編む(監督:小森はるか、瀬尾夏美)
【やまがたと映画】
1.映画の都(監督:飯塚俊男)
2.映画の都 ふたたび(監督:飯塚俊男)
3.O氏の肖像(監督:長野千秋)
4.O氏の曼陀羅 遊行夢華(監督:長野千秋)
5.O氏の死者の書(監督:長野千秋)
6.雪国(監督:石本統吉)
7.最上川のうた ―茂吉―(監督:不明)
8.若い力(監督:不明)
9.やまがた 水とくらし(監督:不明)
10.世界一と言われた映画館(監督:不明)
11.やまがた舞子 ~ 受け継がれる伝統芸能(監督:佐藤広一)
【春の気配、火薬の匂い:インド北東部より】
1.秋のお話(監督:ピンキー・ブラフマ=チョウドリー)
2.僕らは子どもだった(監督:ムクル・ハロイ)
3.老人と大河(監督:ゴータム・ボラ)
4.田畑が憶えている(監督:スバスリ・クリシュナン)
5.マニプールの蘭(監督:アリバム・シャム=シャルマ)
6.ライハラオバの踊り(監督:アリバム・シャム=シャルマ)
7.アルナーチャル州モンパの民(監督:アリバム・シャム=シャルマ)
8.こわれた歌、サビンの歌(監督:アルタフ・マジッド)
9.ルベン・マシャンヴの歌声(監督:オイナム・ドレン)
10.森の奥のつり橋(監督:サンジェイ・カク)
11.浮島に生きる人々(監督:ハオバム=パバン・クマール)
12.ナガランドの胎動(監督:プレム・ヴァイディア)
13.ミゾ民族戦線:ミゾの蜂起(監督:ナポレオン・タンガ)
14.新しい神々に祈る(監督:モジ・リバ)
15.めんどりが鳴くとき(監督:タルン・バルティア)
16.禁止(監督:タルン・バルティア)
【特別招待作品】
1.ニッポン国古屋敷村(監督:小川紳介)
2.満山紅柿 上山 ― 柿と人とのゆきかい(監督:小川紳介、彭小蓮)
3.サンクタス(監督:バーバラ・ハマー)
4.ナイトレイト・キス(監督:バーバラ・ハマー)
5.トム・ジョビンの光(監督:ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス)
【クロージング上映】
1.アンジェラの日記 ― 我ら二人の映画作家(監督:イェルヴァン・ジャニキアン、アンジェラ・リッチ・ルッキ)
【YIDFFネットワーク特別上映】
1.夜明け前の子どもたち(監督:柳澤壽男)
2.わたしの季節(監督:小林茂)
3.陸軍前橋飛行場 私たちの村も戦場だった(監督:飯塚俊男)
4.ごちゃ混ぜこぜ(監督:無冠のTO)
【フィンランドサウナ × 映画】
1.サウナのあるところ(監督:ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン)
2.起業家(監督:ヴィルピ・スータリ)
料金
YIDFFは昔ながらのチケット制度で運営しています。鑑賞者は、チケットまたはフリーパスを購入し、入り口でもぎってもらうシステムとなっています。ここ近年の映画祭はオンライン販売&座席指定のところが多いのですが、敢えてそれを行わないところに好感を抱きました。
東京都に住んでいる映画ファンは御察しの通り、毎年東京国際映画祭のチケット争奪戦でサーバーダウンを体験します。オンラインチケットは観客同士のトラブルを軽減させる、観客は事前にどの席に座るのかわかっているので安心するというメリットはあれど結局、長所はそこだけ。
映画館のように長期運用するならともかく、1年に一度レベルの映画祭でシステム運用にコストをかけるのは実は割に合わないのであります。ましてや2年や一度、各会場の座席も潤沢に取り揃えているYIDFFにおいてシステムにコストをかけるよりも、それを良質な映画周知に掛けた方が良いのは明白である。
webサイトも凝ったものではなく、Simple is the bestを貫き通すあたりに好感度を抱きました。
そんなYIDFF2019のチケット料金は下記です。私は、事前にぴあにて7,500円の10回券で挑みました。
また、未来の映画ファンを増やすために高校生以下無料にしているところにも好感度を抱きました。山形在住の高校生で王兵やフレデリック・ワイズマンを無料で観られるなんて贅沢すぎます。残念ながら、ブンブンが観測した感じ高校生以下だと思われる人が『ミッドナイト・トラベラー』で数人見かけたくらいなのはちと残念。やはり、高校生以下に周知させる努力は2年後必要なのではと思ってしまいます。
【YIDFF2019料金表】
・1回券:前売り券→1,100円 当日券→1,300円(シニア1,100円)
・3枚つづり:前売り券→2,700円 当日券→3,200円
・0枚つづり:前売り券→7,500円 当日券→9,000円
フリーパス:
・公式カタログ、YIDFF 30周年記念グッズ引換券つき 1次販売:11,000円
・2次販売:12,000円
・当日:14,000円
※高校生以下無料
会場リポート
YIDFF2019は全6会場9スクリーンで開催されました。会期中、ブンブンは山形美術館、山形まなび館 多目的ルームを除いた4会場に訪れましたので各会場をリポートしていきます。
1.山形市中央公民館ホール
山形駅徒歩20分のところにある山形中央公民館ホールは、初めてYIDFFに参加する者にとっては結構分かりづらいところにあるので要注意。複合施設ビル《アズ七日町》の6階にあります。現地の人もこのホールの正式名称を知らないようで、同祭に参加した映画仲間がこの場所をバス運転手に訊いたところ、「知らないなぁ」と言われてしまったそうです。場所自体は、国道112号線を真っ直ぐ進むだけなのですが、意外と距離があるので、2年後来る方はしっかり時間に余裕を持って行動しましょう。
このホールは、よくある公会堂といった感じです。600人収容できる会場で、段差もそれなりにあるので快適に映画を楽しめます。ここで『インディアナ州モンロヴィア』を鑑賞しました。写真では分かりづらいのですが、最終的に7~8割近い席が埋まっていて、流石はワイズマンでした。
2.山形市民会館
山形駅から徒歩10分のところにあるメイン会場山形市民会館ではコンペティション部門を中心に上映されていました。
大ホールと小ホールがあり、それぞれ入り口が違うのでそこは要注意。
300人が収容できる小ホールはパイプ椅子タイプ。椅子は互い違いに配置されておらず、傾斜もないので、前に背の高い人が座っていると字幕が見えません。なので最前列か、中心を外した左側の席に座ることをオススメします。主に大学生のボランティアスタッフが配置される劇場となっていて、初々しい方がチケットをもぎってくださいました。
大ホール前ではマルシェが開催されていました。ドキュメンタリー映画関連本や、YIDFFアーカイブ資料を購入することができます。ブンブンも執筆に必要な本を数冊購入しました。
また、会場では国連大学前のマルシェさながら、コーヒーやホットドッグ等の《こだわりフード》の販売も行われていました。
映画と映画の幕間に山形のスパークリングワインや抹茶のラテアートを楽しんだりして時間を潰しました。
1202人が収容できる大ホールは、傾斜が十分あり、快適に映画を楽しめる空間となっていました。
実は最前列がアリーナ席で、足を伸ばしながら王兵8時間レースに挑むことができました。
コンペティション作品は上のような投票用紙を千切って評価します。
上映作品や休憩のある作品は張り出されたスケジュールを確認して動きます。
大ホールでは上映後のQ&Aをホール外の特設ブースで行なっていました。このスタイル、フランス・アンジェの映画祭にいった時を思い出して懐かしくなりました。大ホールだとマイクの受け渡しに時間がかかってしまうためだろう。英断だと思います。
【特設サウナブース】
本祭では、サウナ企画と称して、金曜日から市民会館前で特設サウナが作られていました。
猛威をふるった台風19号に負けず日曜日には服を着て入れるテントタイプ(左)と水着で入るタイプ(右)のサウナがオープンしました。
テントタイプは、まるでモンゴルのゲルのような雰囲気を醸し出していました。意外にも中はほんのりと暖かく、台風一過の肌寒さを忘れるほどの快適さを持っていました。私は大学時代に北欧研究会というサークルに所属していたのですが、OBとして是非とも後輩に学祭でサウナをやってほしいなと思いました。
隣から木の癒しの薫りが漂ってくる。そこには、水着で入るタイプのガチサウナがありました。実際に水着を持ってきて入る方もいる盛り上がりっぷりを魅せたこのサウナは、側にいるだけで癒しを与えてくれます。本当は水着を持って私もリポートしたかったのですが、水着を以前断捨離で捨ててしまったのでその夢は実現しませんでした。
3.フォーラム
山形には2つ映画館があり、ミニシアター路線の劇場がこの《フォーラム山形》であります。
定員200席のスクリーン5でバフマン・キアロスタミの『エクソダス』を鑑賞したのですが、なんとこれが満席。沢山の立ち見が出るほどの盛況となっていて驚きました。メインのコンペ作品でなく、しかもバフマン・キアロスタミがアッバス・キアロスタミの息子であることも十分告知されておらず、予告編すらない本作がここまで盛況するとはある種の感動を覚えました。会場にはイラン映画の巨匠アミール・ナデリもいて大盛り上がりでした。
4.ソラリス
惑星...と思わず言ってしまいそうな名前の山形駅徒歩2分に位置するシネコン《ソラリス》では各企画上映が開催されていました。
248席ある大スクリーンでサウナ映画『サウナのあるところ』を観るという贅沢な体験をしてきました。
YIDFF2019総評
私と映画祭の関係は波乱に満ちており、嵐を呼ぶ男という称号が必要であるのではと思うほどに呪われている。思い返せば、2011年沖縄国際映画祭に行った際には、直前に東日本大震災が起きた。2014年のレイキャビック映画祭の時は、身体が浮くほどの暴風の中街を彷徨ったし、2018年の釜山国際映画祭は韓国に台風25号が直撃し、街が破壊される中映画を観ました。
さて、今年最強クラスの台風19号が山形入り1週間前に太平洋にて発生した。その時は、ヘラヘラジョークのように《嵐を呼ぶ男》と言っていたのだが、段々と日本にその怪物が近くにつれて笑えなくなってきた。
大規模な計画運休が発生する、電車では駅員が不要不急の用事で外に出ないでと呼びかけている。明らかに異常事態だ。これは土曜日に山形に行けないかもしれない。釜山行きを潰され、山形の夢も潰されてしまうのか...?不安で夜も眠れない日々が続く。
山形は、24時間営業のファストフード店はなく、ネットカフェも存在しない。カラオケ屋も朝の5時には閉まってしまう。前乗りしようと、土曜のチケットを捨てて、金曜夜20:45東京発の新幹線自由席を確保したブンブンは、山形事情を知り絶望する。ただ、幸運なことに同じく前乗りする映画仲間が宿舎を押さえており、私を招いてくださりました。
というわけで台風に怯えつつ無事に山形入りした私であったのだが、初日から波乱だった。2本目の『理性』を観ている最中、会場のあちこちのスマホから警報が鳴っているのです。YIDFFは2年に一度というビッグイベントなのだろうか?ドキュメンタリーという闘いの映画専門の祭なのか、公式Twitterでは全く上映中止のアナウンスがない。不安になる私であったが、遂に『死霊魂』以外の最終回は上映中止となってしまった。
恐らくギリギリまでスタッフは議論していたのであろう。Twitter告知よりも先に映画仲間から「『イサドラの子どもたち』上映中止になったよ」と連絡来たのには、もう少しSNS業務を頑張ってほしいと思った。中止が決まった段階でそれを迅速に伝えるのが映画祭の一業務です。上映中止になった作品の振替上映日を、短い時間、深夜になっても議論し対応するスタッフのスマートな対応は賞賛に値するが、どうもSNS告知が毎回ワンテンポ遅いのが今回気になってしまったところであります。
↑『イサドラの子どもたち』が上映中止になりホテルキャッスル地下1階にあるラーメン椿で海老味噌ラーメンと食べました。
さて、台風後は何事もなく映画を鑑賞したしました。
やはり山形地を這って来てよかったです。王兵と出会い、ドキュメンタリー映画にハマってから10年。山形の大地で王兵集大成の8時間マラソン『死霊魂』を鑑賞できたことは今年最大の映画体験であります。
本祭におけるドキュメンタリー映画全体についてですが、アカデミー賞公認の映画祭になったとは言え、かなりラインナップがマニアックということもあり、長編ドキュメンタリー賞にノミネートしそうな作品が『ミッドナイト・トラベラー』くらいしかなかったという印象があります。裏を返せばYIDFFはアカデミー賞公認になっても軸はブレずに最先端の映画、世界各国に散らばる《今》を捉えていると感じました。
フィルムを使っていた大きなカメラが、ビデオカメラになり、スマホに移り変わる。それによって人々は誰もが現実を捉えられるようになった時代、映像の奥行きがさらに広がった時代。それだけにジャーナリストが文章で書けない世界、あるいはテレビマンが辿り着けない世界を描けるようになった時代が来たと言えます。
『ミッドナイト・トラベラー』はスマホ3台でタリバン政権に暗殺予告された映画監督がヨーロッパに難民として逃げる過程が描かれる。難民がどのように発生し、どういった経路でヨーロッパにたどり着くのかのサンプルを提示することで、今までジャーナリストですら捉えることのできなかった現状を掴んだと言えよう。
『インディアナ州モンロヴィア』は2016年大統領選重要拠点となったインディアナ州にフォーカスが置かれたドキュメンタリーだ。銃所持も合法化された州なので、野蛮な保守派が多いのだろうという偏見をワイズマンの静かなポートレートが覆す。何もなく、ひたすら平和な情景。カメラがそこにあることも知らないように振る舞うモンロヴィアの人々を観ると、今やカメラに撮られるのは人々にとって自然なことなのではと思ってしまう。
カメラに撮られるといえば、バフマン・キアロスタミの『エクソダス』は秀逸な問題作であった。イランの貨幣価値がトランプ政権によって暴落し、不法移民としてアフガニスタンへ渡ろうとする人々とイミグレーションの関係を捉えた本作は、難民申請者に事情を一切伝えずに撮影が敢行された倫理的にアウトな作品。被写体はイミグレーションに置いてあるカメラだろうと思い込んでイミグレーションとの議論に励む。彼らはこの映画を観ることができないとたかを括って撮影したという監督の姿勢に危険を感じるものの、そうでもしないと捉えることのできない経済移民の最前線がそこにあり、2010年代における肖像権とドキュメンタリーの構造について考えさせられた。
こればかりは自分の中で結論が出ていない。あまり使いたくない言葉であるが容易に結論を出してはいけない映画なので「考えさせられる」と言わなきゃいけない。
YIDFF2019私的星評
そんなYIDFF2019で観た全10+2(映画祭前鑑賞)作品の星評を下記に記します。
1.イサドラの子どもたち:★★★★★
2.インディアナ州モンロヴィア:★★★★★
3.王国(あるいはその家について):★★★★★(映画祭前鑑賞)
4.死霊魂:★★★★
5.ミッドナイト・トラベラー:★★★★
6.エクソダス:★★★★
7.誰が撃ったか考えてみたか?:★★★(映画祭前鑑賞)
8.島の兵隊:★★★
9.ラ・カチャダ:★★★
10.理性:★★
11.サウナのあるところ:★★
12.別離:★
YIDFF2019受賞結果
まあ、順当に受賞といった感じでしょう。王兵とワイズマンの力強さにはなかなか新鋭監督は歯が立たないもの。『ラ・カチャダ』や『理性』といった、長い時間かけて魂をぶつけた作品もあったが、『死霊魂』の12年を8時間に積み込み、観客に強制的に没入させるチートには勝てるわけがありませんでした。それでも、『ミッドナイト・トラベラー』の《スマホ》という代物がドキュメンタリーにおいて最強の武器であることを証明し、優秀賞に輝いたのは嬉しいところ。YIDFFの常連監督だけに賞を与えないところに、映画祭としての意志を感じさせました。
ノーマークだった『十字架』や『これは君の闘争だ』はいつか観てみたいなと思いました。
個人的に注目しているのは奨励賞を受賞した『エクソダス』。アッバス・キアロスタミの息子という下駄を履かせなくても、十分ドキュメンタリー作家として鋭い視点がありました。被写体に許可を取らずして撮影するという倫理違反をしているのだが、それをしないと撮ることのできない不法移民をコントロールするイミグレーションの姿をワイズマンに劣らないユーモラスでキレッキレな繋ぎで描く快作でした。これは日本公開してほしいし、なんならドキュメンタリー映画を学ぶ者全員に観てほしい問題作である。
【大賞】
・死霊魂(監督:王兵)
【最優秀賞】
・十字架(監督:テレサ・アレドンド、カルロス・バスケス・メンデス)
【優秀賞】
・ミッドナイト・トラベラー(監督:ハサン・ファジリ)
・これは君の闘争だ(監督:エリザ・カパイ)
【審査員特別賞】
・インディアナ州モンロヴィア
【小川紳介賞】
・消された存在、__立ち上る不在
【奨励賞】
・ハルコ村
・エクソダス
【市民賞】
・死霊魂
【日本映画監督協会賞】
・気高く、我が道を
YIDFFもう一つの祭《香味庵》
もう一つ映画祭に参加して楽しかったイベントがある。
それは毎晩のように開催される香味庵の打ち上げである。
2日目に訪れた香味庵では一般の映画ファンから、映画上映のプログラマー、映画ライター、監督など様々な方と和気藹々映画について芋煮を片手に語り合えたのが凄く楽しかった。イラン映画が熱い!とバフマン・キアロスタミやアミール・ナデリについて熱く語れる場が、会社や学校にあるだろうか?それが簡単にできてしまうのがこの香味庵であります。実際にTwitterのフォロワー/フォロイーさんとも初対面する場面もあり充実していました。
最後に...
YIDFFはマニアックすぎるラインナップのせいか、毎回がっつりこのように記事にしている人が少なく、謎に包まれた映画祭でありました。今回、地を這って訪れてみて、非常にレベルの高い映画祭であることを噛みしめました。これは2年後も行ってみたいし、もしこのリポートを読んで《来たい!》と思ったのであれば、是非挑戦してみてください。意外と東京駅から3時間くらいでパッと行け、尚且つ会場も駅から近いので行こうと思えば簡単に行けますよ。
また、台風の中毎日運営を務めた映画祭スタッフに感謝したい。と同時に、次回はもう少し映画祭の魅力の発信に力を入れて欲しいなとも思いました。例えば上記のような、上映中止等のSNS発信もそうですが、上映作品の中にはFilmarks等の映画SNSサイトに登録されていない作品もありました。上映作品が決まった段階で、こういったSNSサイトに作品登録するのも大事だと思います。
ということで、以上私からのリポートを終わります。
余談
書く場所がなかったので、最後に忙しい映画祭期間中に食べたものの写真ツイートをここに貼っておきます。