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『メディアミックス化する日本』感想

先日、図書館で面白そうな本『メディアミックス化する日本』を読んだ。メディアミックスといえばKADOKAWAが得意とする手法で、『犬神家の一族』、『時をかける少女』といった小説と映画を交えていくビジネスモデルである。

本書を読んでいくと、角川春樹と角川歴彦とではメディアミックスに対する立ち位置が異なる点や二次創作文化におけるメディアミックスの考え方が掘り下げられており興味深い内容となっていた。

まず角川春樹の場合、『犬神家の一族』などといった作品を幅広い層に届けるために複数のメディアでもって展開していくアプローチを取っていた。角川歴彦の場合、物語ではなく物語を生成するシステムとオタク市場を重ね合わせるメディアミックスの在り方を模索していた。これにはベースがあり、最近日本でも公開されて話題となった『ダンジョンズ&ドラゴンズ』である。これはTRPGであり、用意された世界に対してサイコロなどの偶発的要素を取り込みつつユーザが物語を紡いでいくもの。ユーザが生成した物語は「リプレイ」といった形で本や動画などにまとめられていく。この独特なコンテンツに惹かれた角川歴彦はTRS社から版権を獲得しようとする。その過程で、派生作品である『ドラゴンランス戦記』の版権を勝ち取った。そして『ロードス島戦記』が誕生した。それをふまえて『涼宮ハルヒ』シリーズを考える。まずハルヒがいる世界、各キャラクターの設定があり、そこから幾らでも物語が生成できる。つまり作品が無限生成できるシステムによる作品であることが分かるのである。

角川歴彦の物語生成を担うインフラ作りはSNSや二次創作文化でも確認できると大塚英志は語っている。ドワンゴはコンテンツ企業として装っているが、彼らにとって重要なのはMAD動画を始めとする二次創作であり、ユーザーが投稿したくなる環境を作ることを重要視していると語っている。

彼は次のように語っている。

Web企業は、あくまでもユーザーには「遊び場」「自由な表現の場所」というファンタジーを与えることによって、彼らの投稿が企業に貢献するシステムを設計していく方向にあります。
 これは二次創作サイトに限ったことではなくて、Facebook、Twitterも含めて言えることです。多くのソーシャルサイトが投稿サイトであり、あたかも自分が自由な表現をしているつもりでも、サイトにアクセスすること自体が、広告媒体としてのサイトの価値を高めることになっているわけです。

p142より引用

時として、ユーザの発信によって炎上する場合がある。「場」としての提供者は、「メディア」であることを隠し、法的責任は場の使用者にあるとするロジックがまかり通る。そして我々は自由に投稿しているようで、投稿させられているのではないかと彼は批判的に捉えている。

確かにこれは思い当たるところがある。例えば、Twitterである投稿が炎上したとしよう。タイムラインには、その炎上に関する意見が飛び交う。そして、ついつい自分もその件について当事者でもないし、実際に全貌を把握したわけでもないのに語ってしまう。これはプラットフォームに行動が誘導されているようにも見える。

ただ、個人的にはこの世界観から物語生成されるインフラは興味深いものがある。例えば、YouTubeを漁っていると、VOICEVOXのキャラクターである「ずんだもん」がビジネスについて解説する動画が多いことに気付かされる。「〜なのだ」といった独特な口調と公式が提示している不幸属性を継承しながら、ずんだもんは様々な会社で働いたり、闇堕ちしたりする。

わたし自身もこの文化に乗っかり、自分の黒歴史を語らせたことがある。いずれはウィリアム・キャッスルの伝記をずんだもんに語らせようとしている。

大塚英志はさらに次のような面白い言及をしている。

政治家をキャラクター化していくことで、ゆるキャラには政治的、社会的なものを脱臭化、無害化するという機能があります。

p199より引用

本書ではオウム真理教を例に語っていたが、これはTwitterでよく見る光景である。10年ぐらい前に、顔出しのアイコンでやっていた胡散臭いサロン系の人が、5年ぐらい前に自身の顔をイラスト化したものをアイコンにしはじめ、ここ数年では動物のイラストに変更している。また暴露系だったり、人々の邪悪な心を引き出しバズろうとするアカウントがこぞって人気アニメキャラクターをモチーフにしたアイコンを適用しているのもこの機能を悪用しているのだろう。

この理論自体は既に自分も気づいており、VTuberとして映画紹介する理由にも繋がっている。自分が映画系VTuberをやろうとしたのは、もちろん自分の観たい映画系VTuberのコンテンツが圧倒的に少なかったというのがある。日本未公開だったり、難解な映画を解説するようなもの。町山智浩レベルの分かりやすさをもったチャンネルはなかなか見つからない。あっても、年齢層高めの方が顔出しでやっており敷居が高いものがあった。

映画にハマりある程度観ている人が、次の次元に行くための中間スポットを補うYouTubeチャンネルを探していたのだが、良いものがなかったので自分で立ち上げたのである。

実際、手応えは感じている。チャンネル登録者数200人程度のアカウントであるが、月に1回のペースで再生回数1,000回を突破する動画が生まれる。そして、雑談配信では日本未公開作品やマニアックな映画の話を中心に行うのだがコメントをいただくこともあり、着実に愛聴者を増やしていっている。

シネフィル領域の作品への敷居を下げることに成功しつつあるのだ。

このように『メディアミックス化する日本』は映画や動画、SNSを読み解く際に役に立つ一冊であった。


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