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あなたの知らないモンドリアンの世界

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皆さん、この絵をご存知でしょうか?

LOFTや街中でよく見かけると思うので認知度は高いことでしょう。しかし、この絵のタイトルは?と訊かれて答えられるでしょうか?恐らく、チェ・ゲバラの本名並みに「みんなが知っているけれども、みんな知らない」ものでしょう(チェ・ゲバラの本名はエルネスト・​ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナです)。

この絵の正式なタイトルは「大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション(Composition with Large Red Plane, Yellow, Black, Gray, and Blue,1921)」です。

この絵がなんと新宿のSOMPO美術館で観られるということで行ってきました。本美術館で2021年3月23(火)~2021年6月6日(日)まで開催されている「モンドリアン展」では、抽象絵画の巨匠ピート・モンドリアン(Pieter Cornelis Mondriaan,1872-1944)生誕150周年を記念して、「大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション」から彼の初期作まで50点もの作品が楽しめます。日本では23年ぶりにモンドリアン作品を生で拝める場となっており非常に貴重な美術展となっています。作品名も言えないミーハーなモンドリアン好きですが、とても面白かったので感想を書いていきます。

モンドリアンがトーロップに出会うまで

ピート・モンドリアンは1872年オランダ中部アメルスフォルトに生まれる。アムステルダムの美術学校で絵画の勉強をしていた頃のモンドリアンは、茶の薄暗い色彩と印象派絵画のような絵の具と筆の線を強調した我々の知るモンドリアンとはかけ離れたものでした。

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しかし、「牧草地の茶と白の雌牛(Brown and white heifer in the Meadow,1904-1905)」等、ピンクを使用した独特の陰影表現に彼の個性が表れていた。まだ、この頃は彼の中で「色彩」を掴めていなかったように見えるが、既に覚醒の片鱗は薄っすらと浮かびあがっていた。

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そんな彼は1908年、オランダ・ドンブルグでジャワ島出身のヤン・トーロップ(Jan Toorop,1858-1928)と出会う。

その時、歴史は動いた。

「ロンドンの橋(Bridge in London,1886)」をはじめとし、点描画法を得意としていたヤン・トーロップに影響を受けて、一気に色彩を帯び始める。

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「少女の肖像(Portrait of a girl,1908)」では、加工しまくったインスタグラム写真のように青ベースの光表現と赤の色彩が、少女の顔を強調しており、一度見ると忘れることのできないインパクトがあります。

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ヤン・トーロップの色彩に影響されつつも、独特な景色の抽象化を図った「日没後の海(Sea after Sunset,1909)」では、地平線を円形に凝縮することで、地平線の広がりを強調していた。個人的にエヴァンゲリオンっぽい世界観で一気にトーロップ影響下のモンドリアンの作風に夢中となりました。

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↑上:ピート・モンドリアン「砂丘Ⅲ(Dune Ⅲ,1909)」
下:ジョディ・マック『The Grand Bizarre』

ところで、彼の点描画法作品に「砂丘(Dune,1909)」シリーズがあるのですが、実験映画監督ジョディ・マック(Jodie Mack,1983-)The Grand Bizarreに影響与えている気がしました。

キュビズム、そしてデ・ステイル

ヤン・トーロップと出会って、新たな画法を習得しつつあった彼は、前衛的批評家コンラッド・キッケルト(Conrad Kickert,1882-1965)の「近代芸術協会」を通じ、また1912年からのパリ滞在を通じパブロ・ピカソ(Pablo Ruiz Picasso,1881-1973)等のキュビズム絵画に出会い、これがその後の飛躍に繋がっていく。

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目の前に見えるものを幾何学的に解体し再構築した「風景(Paysage,1912)」をはじめ、この頃のモンドリアンは積極的に自分の作風の外側に飛び込み、様々な手法を試していった。そして、どんどんと抽象化されていく中、第一次世界大戦が勃発し、暫く彼の創作活動は中断してしまう。

短いパリ滞在後、オランダに留まっていた彼はキュビズムの衝撃を忘れはしなかった。遂に、彼は「新造形主義」を提唱し、テオ・ファン・ドゥースブルフ(Theo van Doesburg,1883-1931)と共に美術雑誌『デ・ステイル』を立ち上げた。「新造形主義」は簡単に要約すると次のようになる。

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↑「コンポジション(プラスとマイナスのための習作)(Composition,1916)」

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↑「線と色のコンポジション:Ⅲ(Composition with Lines and Color:Ⅲ,1937)

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↑「大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション」

1.赤、青、黄の三原色と白、黒、灰色の非色の平面または直方体を使用する。
2.建築においては材質が三原色で表現され、それ以外が非色で表現される。
3.色彩を等しく扱うこと。
4.構成において対立構造(二元性)を取る必要がある。
5.直線と位置関係で均衡を保つこと。
6.配置と生き生きとしたリズムでもって造形手段を無力化する。

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「新造形主義」はハンス・リヒター(Hans Richter,1888-1976)「色のオーケストレーション(Orchestration of Color,1923)」等アート界に影響を与え、その勢いは建築家にまで及んだ。

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↑体重40kgまでですが、「赤と青の椅子」は実際に座ることができます。

ヘリット・リートフェルト(Gerrit Thomas Rietveld,1888-1864)は「赤と青の椅子(Red and Blue Chair,1818)」や世界遺産にもなった「シュレーダー邸(Rietveld Schröderhuis,1924)」でこの理論を応用させた。

モンドリアンの「コンポジション」シリーズはLOFTで大量生産大量消費のグッズ販売(MoMAのせいでもあるが)されているせいで陳腐化してしまったように見えるが、実際に彼の人生を追いながら鑑賞していくと、次々と新しい画法を身につけて唯一無二の色彩を獲得していく生き様に感動を覚えました。

体系的にアーティストを追える美術館ならではの楽しみ方を満喫することができました。こうしてみるとエリック・ロメール(Éric Rohmer,1920-2010)『満月の夜(Les nuits de la pleine lune,1984)』でモンドリアンの絵が象徴的に使われていた意味が薄らわかってくる。パリと地方、登場人物を均一に描いていることの記号としてモンドリアンの絵が使われていたのではと考察することができるのです。

ミュージアムショップでコンポジションマスク購入

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美術館を訪れたらミュージアムショップに心踊るものです。モンドリアンの幾何学的な作品は商品化しやすいものがあり、トートバックからピンバッジ、枕カバー、さらには箸置きとバラエティ豊かなギフトがありました。

・「近代絵画史(下)」(高階秀爾)¥946
・A4ファイル¥440
・モンドリアンマスク¥1,200

を購入しました。

一昔前なら幾らマスク大国とはいえありえなかったであろうマスクもこうやってギフトになるんですね。映画仲間との会食につけていこうと思いました。

最後に......

いかがでしたでしょうか?

ピート・モンドリアンは決してコンポジションだけの人ではないことがわかったことでしょう。フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Willem van Gogh,1853-1890)のように茶ベースの暗めの色彩から、印象派に転じ、そこからキュビズムを経て「コンポジション」シリーズを確立させた唯一無二の轍に私は興奮しました。SOMPO美術館ではコロナ禍を踏まえて入場制限を行なっているのですが、これがまた良かったです。2020年以前は、東京の美術館特有の狭い通路、狭い空間に沢山の人が詰めかけ、メガ密な状態となっていた。芸術作品を観ているのか人を観ているのか分からないよくない鑑賞環境でした。それがネット予約で定員性となっているので快適に鑑賞を行える。これはこれでいいなと思いました。

「モンドリアン展」は2021年6月6日(日)まで開催中。

皆さん、是非挑戦してみてください。

「モンドリアン展」概要

・期間:2021年3月23日(火)~2021年6月6日(日)
・休館日:月曜日(2021年5月3日は開館)
・料金:
 【オンライン】一般:1,500円、大学生:1,100円
 【当日窓口】一般:1,700円、大学生:1,300円

・場所:SOMPO美術館
・サイト:https://www.sompo-museum.org/


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