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プロジェクトA_FRO(アフロ)全話考察:失われたアフロを求めて

私はここ最近、YouTubeやTwitter、TikTok動画に注目している。確かに、画作りはバラエティ番組の延長で、文字テロップに汚染された通俗なものが多い。YouTube時代を予言したであろう『デイヴィッド・ホルツマンの日記』のように、狭い空間を活かした構図はほとんど見かけない。

確かに、ガーリィレコードチャンネルのように、バキバキに長回しとクローズアップを用いたショットで面白い動画を作るものもあるがそれはごく一部だろう。

↑ガーリィレコードチャンネル論はcinemas PLUSさんに寄稿しました。

しかしながら、この手の動画クリエーターは映画ライター、批評家がじっくり分析していないだけで、実は高度な技術を使っているのではないかと思うようになった。

特にVTuberが顕著であり、物術有栖はアンディ・ウォーホルのように5時間寝ている様子を撮った動画を発表し10万再生を獲得した。森中花咲は3Dライブの中で、姿、大きさを変えたり、ゲストの剣持刀也が壁抜けをしながら登場したり、仮想空間ならではのスペクタクルに挑戦していた。

実験映画が高尚の座から中々、大衆の世界に降りてこないのに対し、動画クリエーターの作品は大衆に歩み寄りつつエッジの利いたパフォーマンスをする。これこそ分析の対象になるだろう。この手の演出から映画を捉えると新しい表現が見つかるかもと信じている。

閑話休題、株式会社おくりばんと会長の高山洋平( @takayamayohei1 )が2020年の『スペース・カウボーイ』を皮切りにTwitterで映画を発表している。これが観たこともないような斬新な演出の応酬であり注目している。

今回、第4作目の育毛映画『プロジェクトA_FRO(アフロ)』が発表された。これがまた面白かったので1作毎に考察を書いていく。

※Twitterの動画に「センシティブな内容が含まれている可能性のあるメディアです。」と書かれています。視聴される場合には「表示」をクリックしてください。

第1話:薄毛との別れ、アフロへの決意

何か新しいことを始める時、人は一歩境界を超える。それを高低差を用いたショットで繋ぐ。まずBARスミスの2Fのベランダで、ため息をつく高山氏が映し出される。彼は階段を降り、出会う人にインタビューをする。「髪が薄くなったかも」と思う自分のモヤモヤを、他者に言語化させることで確信に変えていくのだ。

そして彼は、男たちの美容外科のCMを見て興味を持つ。しかし、スマホというディスプレイに隔たれ、どこか遠い存在だ。そんな中、上からチラシが落ちてきて行動に繋がる。

高所にいた男が、下界に降り立ち放浪の末に、高所から救いの手が差し伸べられ、異界の扉が開かれる。CMは人々の背中を後押しして行動に繋げる存在だが、その過程を映画的高低差と偶然を用いて表現する。これがTwitterでさりげなく流れるところに痺れた。

第2話:はじめての薄毛治療 秘密のカルテ公開

第1話の終盤、自動ドアかと思い静止するが手動ドアだった停滞を継承し予約の必要性を訴える物語へと繋ぐ。そして通院における不安を癒すように個室要素を推す。PR映画としての軌道が華麗である。また、縦型撮影でありながら確実に文字や空間を捉えていく様が美しい。

ロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』以降、ポール・シュレイダーを筆頭に、紙に何かを書く描写にこだわった作品が作られるが、縦型画面ではなかなかみたことない。なんと、『プロジェクトA_FRO(アフロ)』ではこれが観られるのだ。美容外科のアンケートでアルコールを「年360日」飲むことを記している。「週 回」の欄に二重線を入れて「年360日」と書く、個人のプライドを画の中心に的確に収める。手と文字と、ギャグのバランスの取れた構図に驚きを隠せない。


第3話:はじめての薄毛治療その② 院長とアモーレ

ホン・サンス監督は、思わぬ場面で「これが決定的瞬間だ」とズームをする演出を発明した。これ自体は簡単そうであるが、安易に真似をすると火傷する演出である。明らかなドヤ顔演出なので、観客の気持ちを氷点下に陥れる危険性があるからだ。それでも上手くキマれば、心に残る名場面となり、『偶然と想像』では、クローズアップからの引きを通じて虚構から現実へワンカットで繋いでみせた。

さて、第3話だ。ここでは、高山氏と院長をクローズアップしながら切り返していく。この運動が面白い。映画だとありそうでない、サイレント映画的激しさをもって画が切り替わり、対話にリズムを与えているのだ。

高山氏と院長をクローズアップすることで頭皮の差を強調する。そして酒が頭皮に影響を与えるという事実を突きつけられた驚きを引きのカメラで増幅させる。高山氏の豪傑なリアクションに、豪快なカメラワークをぶつける。それもホン・サンスのような強烈なクローズアップを使いながら表現する。この業に感銘を受けた。


第4話:はじめての薄毛治療その③ 緊急出動!毛穴潜入24時

よく美容外科の広告では、毛穴を推しがちだが、敢えてそれを見せない。 毛穴を3人が見つめる中、カメラは3人の頭へと眼差しを向ける。その焦らし方から我々の興味を引き出し、やがて院長の的確な分析と患者の純粋な反応を目撃する。視線の物語となっているのだ。

余談だが、YouTube動画でHikakinの作品よりも多く再生されている動画に「ほくろの毛を引っこ抜く!part9 Hair of a mole!」がある。これは2022年6月現在2,269万再生されている。人気YouTuber、VTuberの動画や歌手の動画ですら100万再生を超えるのはなかなか難しいにもかかわらず、この動画は多くの人を虜にしている。実際に観てみると、毛が抜けるか抜けないかのサスペンスとしての焦らし方が超絶技巧であり、この再生数には納得がいくものであった。

育毛をはじめとして、毛に関心がある者にとって関心は毛穴であろう。そのためか育毛剤や育毛の広告では、毛根の図を提示したり、ビフォーアフターの毛根を提示したりするのだが、それを敢えて封印することで、興味を持続させているといえる。

第5話:はじめての薄毛治療その④ 極楽浄土ヘッドスパゲッティー

この話では、縦画面に奥行きを与えている。映画において縦画面はSNS描写で使用され、それは顔によったものが多い。縦画面に奥行きを見出そうとするレベルに映画はまだ到達していないのではと考えている。そこに可能性を提示している。L字になっている医院の空間。浅い奥行きに高山氏、深い奥行きに担当者を配置することで絵画のような計算された空間造形を、映画に呼び起こさせている。しかも高山氏は横たわろうとしている。奥行きを活用とする気概を感じるのだ。

また、美容外科に足を踏み入れることは異界の扉を開くこと。SF映画のように器具を取り付けられた高山氏と彼を覗き込む担当者のユニークな構図でワクワクドキドキを表現している。このユニークさ、観客の心を代弁するように彼は『マーズ・アタック!』だと語る。観客の心情を代弁する表現は広告映画において重要な要素と考えることができる。


第6話:はじめての薄毛治療その⑤ 天使と悪魔の毛穴交互浴

お気づきだろうか?

毛穴が綺麗になっていることに?

不純物が取り払われるミクロな運動をいかにして描くのか、見えないものを表現するために時として「ことば」が使われる。

高山氏の場合、ラーメン、チャーハン、唐揚げ、などといった呪文で表現する。高カロリーな不純物が取り払われる。新しい自分になると共に、過去に後ろ髪を引かれる気持ちになる。過去と未来の境界線に立ち、戸惑う気持ちを食べ物の連呼で表現する慧眼に驚かされた。


第7話:はじめての薄毛治療その⑥ 怒涛の頭皮注射VS高山

長閑な音楽を背に、物騒なマシンガン型の注射が出てくるクローネンバーグ映画のような世界観に爆笑。注射を打つ者、空気を送る者、司令官としての院長が高山氏を見守る。異様ながらも絵画のように高山氏に向かって集中線が引かれていく構図が笑いを誘う。

笑いには真面目さが必要だ。Mr.ビーンもそうだが、真面目さの中で生まれる非日常に人は思わず笑ってしまう。注射という恐怖を和らげるための笑い。それを真面目にやることに意味があるのである。

そして音楽にも注目してほしい。頭に注射を打つ非日常を対位法で表現している。コミカルな音に合わせて注射が出てくる。これは「痛くない世界」を音楽が先取りすることで未来を観ている気にさせる演出といえる。実際に、後に高山氏の口から「痛くない」と出る。

まさに理論による桃源郷、大傑作だ!

第8話:第1シーズン最終回 はじめての薄毛治療その⑦ お薬上手に飲めるかな?

異次元の注射体験をした高山氏。序盤の構図を踏襲し、高山氏と院長の対話をシンプルに捉えることで、ギラついた彼とサッパリ悟りをひらいた彼の関係性を強調する。ビフォーアフターのユニークな魅せ方で第2章へと襷を繋いだ。

2作目「どうした ファイヤーラード?Macho your name?」以降は、企業とタイアップで広告×Twitter映画の可能性を模索してきたこのシリーズ。この手があったかと毎回インスピレーションを掻き立てられる。

果たして高山氏の毛根はどのように進化を遂げるのか?シーズン2が楽しみである。

高山氏の映画シリーズ考察記事


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