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映画評論の書き方講座

割引あり

 SNSの時代となり、誰しもが情報の発信者になれる時代が到来した。プラットフォームも充実し、Filmarksなど映画の領域に特化したレビューサイトが現れた。これにより、評論家やライターでなくても映画を観て見出したものを社会に発信することが可能となった。また、そうした自己表現が可能な社会においてブログサイトやYouTubeなどでより深く掘り下げた持論を展開する者も多数生まれた。一方で、昨今「考察」という言葉が独り歩きしある種、嫌悪の対象になっている。「考察」という言葉には、複数のベクトルが存在するように思える。まず、映画評論といった堅苦しい言葉を緩和する意味での「考察」だ。実際に、著者はCINEMAS+で映画評論を書く際にはタイトルに「考察」とつけている。これは、「評論」や「論考」といった堅苦しい単語よりも「考察」の方がアクセス数を稼げるマーケティング的な手法によるものである。ただ、実際には同義で使用している。一方で、嫌悪されている「考察」は、映画で提示されている情報を超えた範囲で持論を展開するところにあると思われる。

 たとえば『落下の解剖学』において、ザンドラ・ヒュラー演じる主人公の判決に対して、「実はこうだった」と別解を示す。それもフレームの外側で起こっていることに対して、さも本当かのように語ることは映画評論ではなく二次創作と思われ嫌悪の対象になるのではないだろうか?
個人的には、映画評論含め、映画を観てどのように感じたか、どのように解釈したかを語る行為はいずれも二次創作であり、作られること自体が悪いとは思わない。問題はこうした用語の整理が十分に行われていないことによる摩擦といえよう。Web記事は資本主義に取り込まれているため、誤用が紛れ込むことはしょうがないといえる。大事なのは、個々に明確な基準を設け、自分が読みたくないものから距離を置くことである。また、自分の基準に従い、それが評論なのか考察なのか、感想なのかを書き分けることも重要である。

 ここ数年、様々な場所でどのように映画の文章を書いているかを尋ねられる機会が増えてきた。自分の映画との向き合い方を省察するためにも、「映画評論の書き方講座」を書くことにした。

 第一章では、映画評論を始めとする文章の種類を定義していく。個人的に映画評論といった大きなフレームワークの中に考察や解説が内包されていると感じている。その点について言及していく。

 第二章では、著者が通常ブログで実践している映画感想文の型を提示したい。最初から映画評論を書くことは難しい。敷居が高いと腰が抜けて挑戦できないことはよくある。著者自身、中学生の時に書いていたものはまさしく映画感想文であり、簡単な映画の筋と観た感想を述べた簡単なものから始まっていた。基礎を固めることで自分の思索を深める道筋が整うであろう。

 第三部では、考察の中でも解説に近い部分に触れていく。つまり、あらすじに沿ってディティールを整理した上で登場人物の葛藤を紐解くといった技法である。映画で描かれていることを意識することで、「妄想」としての考察を回避することができるであろう。

 第四部では、映画解説について書いていく。映画内での事実、参考資料に基づく事実を手繰り寄せながら、自分の論を展開する。上記のフレームを応用することによって自由で豊かな映画評論を書くことができるのである。個人的に、自由ほど不自由だと思っている。文章はいくらでも自由に書けるが、一方でその自由さをどのように活用したら良いか分からず詰まってしまうケースが多い。執筆の型(=フレーム)を知ることで、その制約の中で応用が行われ人々は自由となるのである。

 僭越なる文章ではあるが、これから映画評論に挑戦しようとしている方や、文章を書くのが苦手な方の参考になればと思う。

※なお、本記事はkindle本「映画評論の誘い」のnote版である。


1.映画評論の定義


 まず、映画評論について定義するところから始めよう。これに関しては、人によって定義が異なる。重要なのは、自分の中で映画評論を分析することによって「フレーム」を作り出し、執筆へのハードルを低くすることである。そのため、自分が提示する理論を踏襲するだけでなく、それを参考に自分独自の区分を設けることも良いだろう。

 さて、まず大きな区分として「映画評論」と「映画感想」があると思う。映画評論は、映画内で描かれていることや周辺情報を整理し、自分としての考えをまとめていくことである。客観的、論理的表現が重要視される書き方である。一方で映画感想は個人としての感覚が重要視されるであろう。よく、入選する読書感想文が作品の内容と自分の体験を結びつけているケースが多いように、自分がその作品を前にどのように感じたかが重視される。つまり主観的表現が重要視される部分である。私自身、映画にはまり始めた中学2年生の時にアメーバブログで書いていたものは「映画感想」である。簡単な作品の説明に一言感想を述べるものから始まった。下記は実際に当時書いていたレビューである。

[映画感想例]『バニラ・スカイ』※中学3年生の時に書いたブログ記事

 父の会社を受け継ぎ、何一つ不自由がない完璧なイケメンのデヴィッドは、親友に紹介された女性ソフィアに恋をする。しかし、それに嫉妬したジュリーは、デヴィッドと一緒に車に乗り無理心中をはかる。奇跡的に助かったデヴィッドの顔は無残な姿となり、夢と現実の迷宮へ迷い込んでしまう......

 スペイン映画『オープン・ユア・アイズ』をリメイクした作品。
 強烈なトム・クルーズの顔にペネロペ・クルスとキャメロン・ディアスの対照的な演技が凄かった。『マトリックス』と『エターナル・サンシャイン』を融合させたような複雑難解な映画だった。

 Filmarks等の映画レビューサイトで感想アップに挑戦しようとする方は、「映画感想」から初めてみると良いかもしれない。本書では、そこから一歩踏み込んだ「映画評論」に着目する。映画評論は個人的に大きなカテゴリといえる。その中にいくつかのジャンルが存在する。SNSで頻繁に論争になるのは、カテゴリによるものだろう。音楽性の違いで対立が発生することと同じことである。自分の中で適切に言葉を定義しておくことで、論争が起きた際に冷静に事象と向き合うことができるであろう。次からは各映画評論ジャンルについて個人的な分類を提示していく。

なお、以下の分類で引用している記事はSEO対策や読者層を想定した戦略で「映画解説」なにもかかわらず「レビュー」とタイトルにつけている場合があることご了承ください。

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