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【短編】寒空を眺める二匹

ふと家にいると、どうにも落ち着かなくなって
ジャンパーを羽織って外へと飛び出した。

徒歩10分程の公園に向かう。
もう日も沈み、公園には誰もいなかった。

こじんまりとしたこの公園には、
小さな滑り台と砂場とベンチくらいしかない。

冷えきったベンチに腰を下ろす。
カシュッと途中で買った缶コーヒーを開けて、
どことも言えない正面のやや上方を眺める。

なにかしたいとは思っている。それでも
”何をやめて"
"何に手をつけなければならない" のかわからなかった。
そして、何よりもそれが分からない自分がどうしようもなく嫌いだった。

コーヒーを飲み干す。

ほう…っと息を吐き、漂う白い煙を眺めていると、
どこからともなく茶トラの猫が後ろからのそのそと歩いてきた。

私のことなど意に介さず、
目の前の滑り台の影にストンと落ち着き、
背を向けて空を眺めている。

猫の視野角はほんの少し人間よりも広いと聞いたことがある。

目先の滑り台の下にストンと座っているこの猫は
概ね私と同じ景色が見えているのかもしれない。

また目線を上に戻す。

…この猫は何に悩んでいるのだろうか。
私のように人生ならぬ猫生を考えているのか。

どれほど経っただろうか。

ふと目線を落とすと猫はもう帰っていた。
猫の悩みは自分より先に一段落ついたようだった。

考え事には慣れっこなのかもしれない。
きっと自分よりも多くのものを見てきたのだろう。

…自分はまだまだ経験も知識も足りていない。
方向だけでも決まっているならそれでいいのだろう。

私は空の缶コーヒーを捨てると足早に帰路に着いた。

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