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「日本人はお茶を飲む」って言われた...

結婚して韓国に住み始めた頃。義母が家に来ると、私は緑茶や紅茶を淹れて出した。お客さんにはまずお茶を、というのが当然の習慣だと思っていた。
一回目、義母は「お茶か?」と珍しそうに言って飲んだ。日本から持ってきた自慢の静岡茶だった。
二回目の来訪には、アールグレイの紅茶を淹れた。美味しいお茶を出すのがもてなしだと思っていた。
三回目に、やや迷惑そうな顔で「もういいよ(됐어・テッソ)」と言われた。驚いて出すのをやめた。向こうを向いた義母は義姉に、
「日本人はお茶を飲む」
と言った。
「毎回来る度にお茶を淹れるんだ」
私はお客さんにお茶を出さないなどあり得ないと思っていたのだが、それ以来出すのはやめた。そして自分の分だけ淹れて飲むようになった。

韓国の壁にぶち当たった件は、他にもある。
義母が、私に何か小言を言った事があった。韓国語がまだよく分からない時で、しかし一生懸命聞いているふりをしなければと、義母の目をじっと見ていた。
義母は話を終えると、今度は横にいた夫に向かって何かを言った。少々気分を害したような口調だった。夫が通訳してくれた。
「目上の人に叱られている時は、目を伏せて相手の目を見ないように」
「目を見ていると、不遜であると受け取られる」
一生懸命「聞いています」アピールをして礼儀正しくしていたはずが、逆に無礼だったのである。
もう無理だ、と思った。韓国に適応など、私には一生できないことであろう。
2週くらい後で、また義母に小言を言われた。今度は私は白けて、横を向いたり下を向いたりしていた。全く聞く気が無かった。すると義母は笑顔で何かを言った。夫が通訳してくれた。
「前に私が言ったことを、ちゃんと守ってるね。叱られている時、目を伏せて、私の方を見ないでいたね」
私は無言でいた。一体何が言えるだろうか。
礼儀正しくあろうとすれば叱られ、そっぽを向いていれば褒められる。私の諦めはさらに強固になった。これからはもう絶対、韓国に適応する努力などはしない!と決意したのだった。

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