健康診断。透視能力者と出会う。
会社で毎年受けなければならないもの。「健康診断」。
これは働く者の義務らしいが、私はあまり好きではない。
「フヘへへへ!オマエの病気を見つけてやろうかぁ?!」
と全力で言われている気がするし、
自分の身体は自分が一番わかってる(はず)だし、
調子が悪ければ自ら病院に行けばいいだけの話と思っているからだ。
とはいえ、ここで行きたくない、行きません、は通用しない。
何より「メンドクサイ事務員」とレッテルを貼られるのが何よりも怖い。
だから今年も何かに負けたような気持ちを抱え、大人しく健康を診断されに行った。
例年通り受付をすませ問診表を提出。検尿のスティックを渡され
「採尿が終わったら聴力検査です。あちらの部屋へお願いします」
「次は採血ですね?あちらのホールへどうぞ」
など、事務的に検査は進んでゆく。血圧、採血、視力検査などなどを
なんなくクリアし、最大の難関であるバリウム(胃)の検査を終えれば
産業医の問診のみ。がんばれ、わたし。
バリウム検査を受けたことのある方ならご理解いただけると思うが
あれは拷問だ。よくわからない液体を修行だと言わんばかりに飲まされ、
変なポーズを取らされ、ぐるぐると回転を要求される。
終わるころには私はすっかり落ち武者のようになっていた。
(一度でいいから指示する側になってみたいものだ。)
バリウム検査技師からの辱めを終えた後、
なんとか気持ちと髪の毛を整え産業医と向かい合う。
「楽にしてくださいね、胸の音聞きますね」優しく言う産業医。
そう、年の頃58歳(たぶん)の眼鏡をかけたナイスミドル・・・
というかちょっとくたびれた感じの紳士だ(失礼)
そして彼は聴診器を2、3回、私の胸に当てたのち速攻で言った。
「アナタ、脂肪肝ね!」
え?っと
脂肪肝ってナンデスカ?
てか、アナタ聴診器を2、3回私の胸に当てただけですよね?
肝臓って胸にあるんですか?
そんな場所にないことくらい私にだってわかりますけど?
え?それって見た目で判断しちゃったんじゃないですかー--?
ハッ!!ちょっと待って!その時私は気が付いた。
ちょっとくたびれた感じの風貌(失礼)は彼の「本当の姿」を隠すためのカモフラージュで、そしてその曇った眼鏡の奥のよどんだ瞳(ほんと失礼すぎる)は本来の機能を知られないためであって、その瞳はきっと特殊なガラスで
できていて、体の中を即座にスキャンできる!?
あぁ、彼は能力者だったのねェェェ??
・・・んなわけ!
結局なぜ彼が私に「アナタ脂肪肝ね!」と言ったのか(しかも速攻)
はわからずじまいだったが後日私に再検査の通知が来た。
やはり彼は透視能力者だったのだ!ナントカの実を食べていたのだ!!
と思ったが違った。再検査の内容は肝臓じゃなくて貧血の項目だったから。
いつかまたあの能力者と出会ったら「脂肪肝やなかったですばい!」
と言ってやりたいが二度と会うことはないと思う。
きっと違う星で健康診断をしているだろうから。
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