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北野武監督『首』レビュー/自身のフィルモグラフィーを批評する徹底した茶化し

 昨今、年老いた巨匠が自らのキャリアを総括する作品を作る例が多い。宮崎駿『君たちはどう生きるか』、スピルバーグ『フェイブルマンズ』などである。

 北野武ももう後期高齢者である。前作『アウトレイジ最終章』(2017)は、枯れて枯れて最後には、やっぱり自裁したいのか……という、北野映画ファンにとっても悲しいものだっただけに、新作がキャリアの総括になったらどうしようという不安があった。

 不安は解消された。たけしは未だ現役である。

 とにかく、過去の自らの作品の引用がとても多いのだが、それらが批評的に引用されている。ここにたけしの現役宣言を見たい。

 最もわかりやすいのは信長(加瀬亮)が刀の先にまんじゅうを差し、村重(遠藤憲一)に咥えさせてぐりぐりやるシーン。

 『アウトレイジ』(2010)の歯医者のシーンの再演だが、あれはヤクザの抗争として、ぐりぐりされた村瀬(石橋蓮司)は引退を迫られていわば捨てられる身にある。

 今回は、ぐりぐりやって血を吐き出す村重に信長が口づけして血を拭うという、DVを極めたような偏執に使われる。過去作と同じようなシークエンスを全く違う文脈に置いて再演しているのだ。

 また、これまでの北野映画は、確かに死の突然さや理不尽さを強調しつつも、役によってはどこか美しい死に方が用意された。

 『ソナチネ』(1993)でケン(寺島進)は突如、南方英二扮する殺し屋に撃たれて死ぬが、そのあっけなさは儚く、死体を前に黙る村川(ビートたけし)、幸(国舞亜矢)の表情も添えられて、死には美しさすらあった。それはたけし自身の希死念慮を投影したものであっただろう。『アウトレイジ』における水野(椎名桔平)の残酷な死に方ですら、やはりかっこいい。

 ところが今作は、とにかくバッタバッタ死んでいくし、主要キャラクターであっても死は当然のように訪れ、意外性もなく、そこに美的価値はない。ラストには、秀吉(北野武)自ら、首の無価値を宣言し、本作にこれ以上ないオチをつける。

 あれだけ死にたかったはずのたけしが、こんなに死をこけにして、すべてを〈しょうもない〉ものとして描くようになるとは誰が思っただろうか。

 自らのフィルモグラフィーをも茶化す、その批評的な姿勢には瞠目するしかない。北野映画ファンにとって、本作はまさに福音である。

(2023.11.23 TOHOシネマズなんば本館、2023.11.25 TOHOシネマズ梅田本館)



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