見出し画像

佐藤信『日本婚活思想史序説 戦後日本の「幸せになりたい」』

※2019年11月4日にCharlieInTheFogで公開した記事「見た・聴いた・読んだ 2019.10.28-11.3」(元リンク)から、本書に関する部分を抜粋して転載したものです。


 主に女性が主体的に、恋愛感情や、属性や年収など相手に求める条件のすり合わせ、そして共働きといった結婚(独身脱出)後の生活像などを重視した結婚相手探しを行う現在の「婚活」は、21世紀になって突如現れたものではなく、それまでに準備されてきたものであることを主に雑誌などのメディアを追うことで論じた書です。

 1980年代半ばに平均24歳という若い編集部の手によって作られた雑誌『結婚潮流』は、現在の婚活と通じる価値観を提示していました。当時は、全盛は過ぎたとはいえ見合い婚が依然残っており、一方ウーマン・リブ運動の盛り上がりによる非婚・キャリア志向の女性への憧れも生じていた時代です。

 こうした中で、林真理子のように、結婚はネガティブな要素も含みつつ、しかしそれでも結婚を夢見るモデルがあり、このうち『結婚潮流』はそこからネガティブな要素を捨象して当時としては珍しかった、結婚相手を探す段階の女性が読む雑誌として人気を博しました。

 結婚に対する意識が当時から現代に至るまでどのように変遷していくのか、さまざまな大衆メディアを参照しながら軽やかに論じており、とても楽しく読めます。また本文の下には「副音声」と称して著者と編集者の対談文字起こしが載っており、一粒で二度美味しい本になっています。

 政治学者の手によって書かれた書だということもあるのか、フェミニズムや女性の権利に対して無理解な面があるのではと思う筆致もあります。ただ、多様性の担保としてさまざまな家族の在り方を法律婚制度の中に落とし込んでいく現在の流れは、一方で私的領域への国家の介入を促すものであり、国家は本来そういう意欲を持ったものであるはずだという痛烈な指摘にははっとさせられました。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?