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村上陽一郎『ペスト大流行─ヨーロッパ中世の崩壊』

※2020年4月20日にCharlieInTheFogで公開した記事「見た・聴いた・読んだ 2020.4.13-4.19」(元リンク)から、本書に関する部分を抜粋して転載したものです。


 ヨーロッパ中世封建社会で3千万人もの死者を出した黒死病ことペスト。その流行の実態と、ペストの原因をめぐる神学、医学上の論争、そしてペストが人々にどのような動揺をもたらしたのかをまとめた書です。

 ペストがヨーロッパ社会をどう変えたのかについて触れた第7、8章を特に面白く読みました。感染症の隔離政策が歴史上公式に初めて行われたのが、レッジオ(現在のイタリアの都市)のベルナーボ公が1374年に発布した条例だったそうです。患者は人間の看護から離れ、原野に置き去りにして神の手に委ねる、というものでした。患者に付き添っていたものも10日間は町に立ち入ることが許されません。

 違反すれば重罪に処されるこの隔離政策は、実のところ、ペストの流行が一段落して終息した段階で導入されたというのです。当初から「『隔離』が病気の蔓延を防止するという名目における患者の遺棄に近い内容を持っていた」(138ページ)のが驚きでした。ユダヤ人が井戸に毒をまぜたのが原因だとして、ユダヤ人狩りが横行することもあったようで、感染症の歴史が差別や迫害と切り離せないことを改めて突き付けられた思いです。

(岩波新書、1983年)


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