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『家政婦の歴史』書評に著者からリプライを頂きました

 昨夜、『家政婦の歴史』の書評を公開しましたが、これを受けて著者・濱口桂一郎さんがブログ「hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)」にて、拙文へのリプライをしてくださいました。ありがとうございます。

 濱口さんは本書の終盤で、問題の解決策として家政婦紹介所が、自らのビジネスモデルに立ち返って派遣事業化することを提唱しています。しかし、法律上それができるのにそうしていない紹介所が多くある以上、拙文では「あまり処方箋としての筋が見えない」と書きました。

 今回のリプライで濱口さんは「現実に存在する家政婦紹介所がそう簡単に派遣事業に移行するとは思っていません」とした上で、一見、最も筋の良い手段に見える、家事使用人適用除外条項の削除という策が、むしろ筋の悪い道であることをあらためて強調しています。

たぶん、世間の圧倒的に多くの人々は、労基法116条2項の家事使用人の適用除外規定を削除すれば、現在の家政婦たちに労基法や労災保険法がめでたく適用されることになると思っているのでしょう。

しかし、残念ながらそうは問屋が卸さないのです。なぜなら、家事使用人であろうがなかろうが、労基法の適用対象は「事業」に限定されているからです。本書の241ページから242ページに引用してあるように、労基法の第9条と第10条は、「労働者」の定義においても、「使用者」の定義においても、「事業」であることを要件としています。

(中略)

労基法施行時には、派出婦会の派出の事業というれっきとした「事業」に使用される者だから、家政婦は労基法の適用対象だったのです。

それが紹介所に紹介されるだけで事業ならざる一般家庭に使用されるようになったため、家事使用人であろうがなかろうが、労基法の適用から外れてしまったのです。

なので、そこを改めるためには、家事使用人の規定を削除しても仕方がないので、家政婦の使用者を「事業」にしなければならないのです。

なので、私は「だったら派遣事業にしたら?」と言っているわけです。

POSSEの人をはじめ、この問題で運動している人々は、ここのところの構造がどこまで理解されているのか、いささか懸念されるところです。

hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)「ココナツ・チャーリイさんのたっぷり拙著評」(2023年9月18日)

 本書中でももちろんこの点は指摘しており、私ももだえながら読んだところです。「事業」に使用される者を対象にするという点は、労基法の根幹に当たる部分です。条文はもちろんのこと、解釈や運用の変更となっただけでも一大事ですから、まず手を付けられない規定だろうと思います。

 ゆえに法改正も、法の解釈や運用の変更も必要ない形での落とし所として、濱口さんは派遣事業化を訴えたわけであり、その趣旨はよく理解できます。

 私は、介護ヘルパーとしては「派遣」しておきながら、家政婦としては「紹介」しかしない事業所があるということ自体に驚きを感じました。家政婦紹介専業の会社が派遣事業化を嫌がるならまだしも、既にねじれた兼業をしていてそれを継続する事業所が少なくないという実態に接すると、いやはや解決の困難性を感じざるを得ず、拙文を書いたのでした。

 しかし法改正による解決の道のほうが困難な中では、確かに運動側にとっての攻め所は、むしろこのねじれの解消の要求のほうなのかもしれません。

 それでも、一般的に非正規労働への印象が悪い中で「派遣に転換せよ!」という主張が分かりにくいのは否めません。「家事使用人除外規定は憲法違反」のような「正義」のほうがまだ、直感的には分かりやすい。「派遣じゃだめだ! 正社員じゃないと意味がない!」のようなハードルの上がり方さえあり得そうな気もします。コレット的な態度というのはかくまでに、魅惑的で困ったものなのですね。


(追記:2023年9月19日23時53分)

 濱口さんが再度、応答してくださいました。併せてご覧ください。


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