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ニューボーン革命! どこまでもウイスキー屋『イチローズモルト』

■イチローズモルトのすごいところ

引き続き、私が思う「肥土伊知郎さん=秩父蒸溜所=イチローズモルト」のすごいところについてです。
今回は、「ハンパないウイスキー愛」=『ニューボーンの発売』についてです。

・2008年に蒸溜開始
・ウイスキー氷河期に自らBAR回りで営業
・つくり方が基本に忠実かつ超本格
・クラフトならではの斬新な発想、スピード感ある実現
・ハンパないウイスキー愛
・とにかく実直


■ニューボーンという発想

現在、日本の新規クラフト蒸溜所は、蒸溜を開始すると
「熟成3年未満」のウイスキーを
【ニューボーン】
 = NEW BORN = 生まれたて

というネーミングで販売しています。

これはスコットランドにはない販売方法で、日本独自の売り方です。

そして、この「ニューボーン」というネーミングの名付け親が、ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎さんだと思われるのです!

ニューボーンという商品は、私が調べる限り、2008年に蒸溜を開始した秩父蒸溜所から発売された「イチローズモルト 秩父 ニューボーン ミズナラ ホグスヘッド」からはじまっているのです。
ちなみにこの商品は、秩父蒸溜所で蒸溜され、ミズナラ材の新樽で10ケ月熟成させたモルト原酒となります。

ジンはつくらずに、ウイスキーづくりに専念するベンチャーウイスキー秩父蒸溜所。
ウイスキーが3年熟成するまで、キャッシュを生み出すため、自社で蒸溜し3年未満の熟成したウイスキーを「ウイスキーの生まれたて=ニューボーン」で、売ることにしたのです!!

ちなみに、ウイスキーづくりの参入時には、
◇サントリー
 ↓
赤玉ポートワイン(現・赤玉スイートワイン) 

◇ニッカウイスキー
 ↓
 リンゴ果汁

を売っていました。

 ▽詳しくはこちら▽
パイナップル・ウォッカ!? お酒の「熟成」と「キャッシュ」の関係|チャーリー / ウイスキー日記|note


■ウイスキーの3年熟成

スコットランド「ウイスキー」と名乗るには「3年以上のオーク樽熟成」が法律で義務づけられています。

一方で、日本では「ウイスキー」と名乗って販売するのに熟成期間の法規定はありません。

やっと日本洋酒酒造から「ジャパニーズウイスキー」と名乗る際の定義が設定され、「ジャパニーズウイスキー」と名乗るには、世界基準の「3年熟成以上」が規定されました。

 ▽ジャパニーズウイスキーの定義▽
日本洋酒酒造組合|統計・法律関係 自主基準 (yoshu.or.jp)

この定義は2021年4月から施行されましたが、施行前から販売する商品については2023年3月までの3年間は経過措置がとられています。

ただしこの定義は、「ジャパニーズウイスキー」と名乗る場合であって、単に「ウイスキー」と名乗って販売するのには、日本では、今も熟成に関する法規定はありません。

現在、「ジャパニーズウイスキー」の定義に合致している商品は、日本のウイスキーメーカー各社が公表していますが、その銘柄数はかなり限られています。

したがって、日本のウイスキーメーカーから発売されているウイスキーの大半が、「3年未満の原酒(スピリッツ含む)がブレンドされている」or「輸入原酒が含まれる」ということになります。

これについては、

◆日本のウイスキー誕生時の時代背景
産業してはじまり、ブレンディッドウイスキーからつくりはじめた。

◆第二次大戦直後の極度のアルコール不足
メチルアルコールまでも飲んでしまうことによる健康被害から国民を守る。
(戦中戦後の極度の食糧不足の中、ウイスキーだけでなく、ビールや日本酒でも、原料穀物をなるべく減らした製法が研究・導入されました。)

といった日本の酒類産業史が複雑に絡み合ってきた結果なので、単に「日本のウイスキーはダメだ」と判断するのは早合点だと思います。

ただ、日本洋酒酒造組合という生産者自ら「ジャパニーズウイスキーの定義」を策定、発表し、適用をはじめたことは、大きな一歩と言えます。


■ニューボーン誕生の意義

イチローズモルト・ニューボーンが発売された当時、日本国内で「ウイスキー原酒の3年熟成」を肥土さんほど真剣に考えた人は、いなかったでしょう。

スコットランドでもウイスキーづくりを勉強された肥土さんは、「これからの本物志向の地時代に、ウイスキーの3年熟成はマスト」と考え、自社から発売するウイスキーについて「3年熟成」譲れない一線だったのだと思います。

しかし、3年間もつくったウイスキー原酒を現金化できないのであれば、正直、経営者としてキャッシュフローも厳しいです。
そこで、きちんと「3年未満の熟成ですよ」と宣言する形で『ニューボーン』と新たな名前をつけて発売するにいたったのだと思います!

これは、本当に画期的なことで、「ニューボーン」というカテゴリーをつくることで、今まで「最低熟成年数」に対する意識が希薄だった日本のウイスキー業界に対し、「世界は3年以上熟成が当たり前ですよ」ということが暗に示されたわけです。

また、当時はブレンディッドウイスキーが中心で「原酒の詳細は企業秘密なので開示しない」というウイスキー業界のスタンスがありました。
一方でこの時期はちょうど、シングルモルトも流行り出し、世界的にも原酒の詳細を開示する傾向が強くなってきた時期でもあります。

そんな時期に、肥土さんが堂々と「10ケ月熟成のニューボーンです」と宣言してニューボーンを販売したことは、日本のウイスキー業界における「原酒の情報開示」の先駆けでもあったと思います。

そして、現在、日本で次々と開業する新規のウイスキー蒸溜所に、「ニューボーン」という売り方の道を切り開いたことが、どれだけ参入障壁を下げ、また3年間を待ちきれないウイスキーラバーの救いになっているか、はかり知れません。

まさに、日本における本格ウイスキーの常識を変えたわけで、『革命』と言えるでしょう。

最後に、何よりも、ウイスキー原酒が3年熟成するのを待つ間、「ジン」をつくるのではなく、あくまで「ニューボーン」という「できたて=未完成品」の『ウイスキー』を販売しようとする姿勢。

日本にはウイスキーの熟成期間の法規定がありませんから、「ウイスキー」として販売しても問題ありませんでした。
しかし、

10ケ月熟成

3年未満の熟成なので世界基準ではウイスキーではない

ウイスキーの生まれたて=「ニューボーン」として販売

と、正面突破で「3年未満熟成のウイスキー」を、胸を張って販売するところに、ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所・イチローズモルトの『ウイスキー屋としての矜持』を感じるわけです!


■最後に

この「ニューボーン」という文言を、ベンチャーウイスキーさん=肥土伊知郎さんが、最初に使い始めたというのは、私が調べた範囲においてです。
もし、ベンチャーウイスキーさんより先にこの文言を使っている事例があれば、私の事実誤認なので、ご連絡をいただけると幸いです。

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