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プレミアム系クラフトジンの開拓者「ヘンドリックス」 《ジン⑫》


■ヘンドリックスとは?

グレンフィディック蒸溜所をはじめ、スコットラントの多数のモルトウイスキー蒸溜所と、グレーンウイスキー蒸溜所を所有するスコッチ界の巨人:ウィリアム・グラント&サンズ社が発売していている、プレミアム・クラフトジンです。

ウィリアム・グラント&サンズ社は、スコッチウイスキーにおいて、ディアジオ、ペルノリカールに続く、第3位の生産量・販売量を誇ります。

ちなみに、以前に3回にわたって記事にしています ↓

ウィリアム・グラント&サンズ社 凄いぞ列伝① 《創業期の奮闘編》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

ウィリアム・グラント&サンズ社 凄いぞ列伝②《成長期:メーカーへの事業拡大編》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

ウィリアム・グラント&サンズ社 凄いぞ列伝!③《成熟期のチャレンジ編》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

では、このヘンドリックスというジンの何がすごいのか?
細かいところを挙げたらキリがないので、2大スゴいポイントはこちら!

◇ヘンドリックスの凄いところ

①$30以上のプレミアムジン市場において、ぶっちぎりの1位の販売量!

②それまでのジンの概念をブチ破った「原材料」「製法」を採用することで、今に繋がるクラフトジン・ブームの先駆けとなったチャレンジシップ!!

それぞれについて、解説します。


■ぶっちぎりの1位!

世界の$30以上のプレミアムジン市場において、1位のヘンドリックスと、2位のサントリーROKUを比べてみます。

◇$30以上のプレミアム・ジン市場(2021年)

◾️ヘンドリックス
 <売上順位>           1位
 <2021年販売量>  125万ケース

◾️ROKU 
 <売上順位>           2位 ※1
 <2021年販売量>   34万ケース

IWSR2022(2021年1~12月データ)
※1 データの集計・分析方法によっては、
3位となる場合もあります。

ヘンドリックス、凄いですね。
2位に約4倍の差をつける圧倒的1位。

最初にこのプレミアムジン市場を開拓したという先行者優位もあると思いますし、もちろん味の良さもあると思います。

そして味とともに秀逸なのが、ブランディング戦略で、「不思議な国のアリス」的ミステリアスなイメージで広告展開をしていて、そのイメージがすでに定着しています。

◇ヘンドリックスHP
ヘンドリックのジン |キュウリとローズを注入したスコティッシュジン (hendricksgin.com)

このあたりのブランド・イメージのつくり方は、1997年の経営者変更後に「秘密結社」的な雰囲気を醸し出し、コアなファンを増やすことに成功しているアードベックのイメージ戦略とも似ていると思います。

そういう意味では、ヨーロッパの酒類企業は10年や、20年といった長期スパンでのブランド・イメージ戦略が上手なんだと思います。


■革新的な中身設計 《原材料》

これが本当に凄いです。

ヘンドリックスは、ジュニバーベリーなどの伝統的なボタニカルに加え、

・キュウリ
・バラ

・エルダーフラワー
・カモミール      など

を加えています。

これは、それまでのジンの既成概念を打ち破ったと言っても過言ではない、革新的なことでした。

これが、ジンという飲み物に、より可能性多様性を与え、今のクラフトジン・ブームに続くパイオニアになりました。

あらためてスゴいな、ヘンドリックス。

ちなみに、この中でも主に「キュウリ」「バラ」の2つが、ヘンドリックスの原材料の特徴としてアピールされています。

◇キュウリ
オランダ産のキュウリをグレーンスピリッツに浸漬。このスピリッツを減圧蒸溜によって再蒸溜して、キュウリの新鮮な緑の香りのついたスピリッツをつくり、それをブレンド。

◇バラ
ブルガリア産のバラの花のエキスをブレンド。

ヘンドリックスといえばキュウリ!なので、ヘンドリックスがカクテルとして提供される際は、キュウリをデコレーションで飾り付けるのが、定番となっています。

このキュウリのイメージを、カクテルを通じても発信できている観点は、もはやアッパレですね。


■革新的な中味設計 《製法》

ヘンドリックスは、ジュニパーベリーなどの一般的なジンのボタニカルを浸漬法によって再蒸溜して、ジン原酒①をつくっています。

それに加え、ヴェイパー法によって再蒸溜してつくった別の原酒②もつくっています。

浸漬法とヴェイパー法については ↓
ジンの香りづけ 2種類の製法 《ジン⑧》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

つまり、浸漬法とヴェイパー法を、素材によってどちらも採用し、その原酒をブレンドしているのです。

ただ、これでは何か足りませんよね?
そう、先ほど書いたキュウリバラです。

最後に、浸漬法によって再蒸溜してつくったキュウリ・スピリッツと、バラの花のエッセンスオイルをブレンドします。

ヘンドリックス | SANYO CO., LTD. (sanyo-brands.jp)

かなり手間暇をかけてつくっているのがわかります。

そしてこれらの手間以上にすごいと思うのが、この製法にすることで、「ロンドン・ドライジン」とは呼べなくなるのに、そこに果敢に挑戦していったということです。


■ロンドン・ドライジンにこだわらない挑戦心

◇ジンの分類①(EUの法律上での規定)
 ①ジン(≒コンパウンド・ジン/バスタブ・ジン)
 ②蒸溜ジン=ディスティルド・ジン
 ③ロンドン・ドライジン

法律の規定により、ロンドン・ドライジンは、再蒸溜後には香料などを加えることができません。また、ボタニカルごとに別々に蒸溜することもしません。

「こういう味のジンをつくるんだ!」というチャレンジ精神のもと、敢えて、ロンドン・ドライジンのカテゴリーに入ることにこだわらなかったわけです。

これって、超すごいなと。

例えば、日本のビールで、ビールの副原料として認められていない素材を、ビールづくりで使うとします。

美味しいビールになると思ったので、この副原料を使いました!
でも、法律上でビールとは言えないので発砲酒として発売します。
こだわり素材をつかった本気の発泡酒、350ml缶で700円!!

こんなチャレンジをして、さらに20年以上売れ続けていて、ブランドを確立できている日本のビール(発泡酒)ってないですよね?

ヘンドリックスの発売時は、こんな感じだったはずです。

こういったチャレンジするウィリアム・グラント&サンズ社。

やりますね。

■おまけ

ちなみに、超マニアックな話になりますが、日本では2018年4月に酒税法改正があり、ビールに使える副原料が増えました。

昆布とかコーヒーとか色々と追加になったのですが、その中には、

・カモミール、セージ、バジル、レモングラス、その他のハーブ

・かんしょ、かぼちゃ、その他の野菜(野菜を乾燥させ、又は煮詰めたものを含む)

とあります。

なので、「バラの花」や「キュウリ」をビールの香りづけに使用しても、現在の日本では、発泡酒ではなく「ビール」として販売できる(はずです)。


◾️次回は

日本国内からよりも、むしろ海外からの評価が高くて、世界的にメジャーなROKUについて、ご紹介します!

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