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原酒交換!? 秩父蒸溜所『イチローズモルト』&マルス信州蒸溜所『駒ヶ岳』

■イチローズモルトのすごいところ

引き続き、私が思う「肥土伊知郎さん=秩父蒸溜所=イチローズモルト」のすごいところについてです。
今回は、「クラフトならではの斬新な発想、スピード感ある実現《商品編》」『秩父・駒ヶ岳 原酒交換』についてです。

・2008年に蒸溜開始
・ウイスキー氷河期に自らBAR回りで営業
・つくり方が基本に忠実かつ超本格
・クラフトならではの斬新な発想、スピード感ある実現
・ハンパないウイスキー愛
・とにかく実直


■異なる会社の蒸溜所がウイスキー原酒を交換?

2021年、大変面白い商品の発売がありました!

プレスリリースの記事はこちらです ↓
イチローズモルトとマルスウイスキー 原酒交換による共同企画ウイスキーを発売 | 本坊酒造のプレスリリース | 共同通信PRワイヤー (kyodonewsprwire.jp)

▼イチローズモルト
 (ベンチャーウイスキー・秩父蒸溜所)

▼マルスウイスキー
 (本坊酒造・マルス信州蒸溜所)

がすでに数年前に、お互いにウイスキー原酒を交換。

それぞれの会社が「交換してもらった他社のウイスキー原酒」を自社熟成庫で熟成後に、「自社のウイスキー原酒」とブレンドし、別々に商品化したのです!

▼イチローズモルトから発売
ダブルディスティラリーズ 秩父×駒ヶ岳 2021

▼マルスウイスキーから発売
モルト デュオ 駒ヶ岳×秩父 2021


■原酒交換という文化

本場スコットランドでは、一般的に行われている商慣習です。
というのも、歴史のあるスコットランドの蒸溜所では、蒸溜所ごとに「味わいのハウススタイル」が確立されていて、「1蒸溜所」につき「1タイプのウイスキー原酒」をつくっていました。
そして、いくつもの蒸溜所の原酒をブレンドして、ブレンディッド・ウイスキーとして販売するのが普通の商売の流れでした。

そもそも、ブレンディッド・ウイスキーが、1909年に裁判所の判決で「正式にウイスキー」として認められると、

ウイスキー = ブレンディッド・ウイスキー

という構図が確立され、世の中で飲まれるウイスキーは基本的にすべて、いくつもの蒸溜所の原酒をブレンドした「ブレンディッド・ウイスキー」となります。

再び、ひとつの蒸溜所の原酒(モルト原酒)だけで商品化した「シングルモルト・ウイスキー」が発売されるのは、1963年のグレンフィディックまで待たなければなりません。
このグレンフィディックのシングル・モルトも、最初のうちはなかなか売れなかったので、1909年~1970年くらいまでは、基本的に、商品化された=販売されたウイスキーは、すべてブレンディッド・ウイスキーだったということになります。

そのため、「うちにはアイラ・モルト的なスモーキーな原酒がないけど、欲しいなぁ」を思えば、原酒交換をしてGETしてくるわけです。

こうして「各農家が余剰穀物からウイスキーづくりをはじめ」て蒸溜所となり、それぞれに「味わいのハウススタイル」が確立され、その後に「ブレンディッド・ウイスキーが誕生した」というスコットランドでは、原酒交換が行われてきたわけです。


■日本におけるウイスキーのつくり分け

しかし、日本の場合、ウイスキーづくりの出発点が違います。
農家が余剰穀物からつくりはじめたわけではなく、鳥井信治郎が竹鶴政孝を工場長に据え、「産業」として、ウイスキーづくりを始めました。

そして、鳥井さんがウイスキーづくりを発表した1923年当時、すでに「ブレンディッド・ウイスキーしか、世界では飲まれてない」状況でした。
原酒交換しようにも、日本に他に蒸溜所がないわけで、「じゃ、自分で色々な原酒をつくるしかねーか」というわけで、スコッチウイスキーにはない、「1蒸溜所」で「色々なタイプのウイスキー原酒」をつくり分ける、こととなります。

逆説的になりますが、「こういう原酒が欲しいなぁ」となれば自社でつくってしまうわけで、スコットランドのように『原酒交換』という文化は、日本には存在しませんでした。


■クラフトならではの斬新な発想、スピード感ある実現

サントリーやニッカのように、蒸溜所が大きく、色々なタイプのポットスチルを持っていれば、自社でバンバンつくり分けができます。
(スコットランドでは、ポットスチルの形状は「1種類だけ」という場合も多い。)

そもそも、スコットランドの結構有名な蒸溜所でも、ポットスチルは2ペア(=4基)が普通で、3ペア(=6基)あると「多いなー」という印象です。
(マッカランなんかは、36基もありますが、それは特別中の特別です。)

サントリー山崎蒸溜所8ペア(=16基)、ニッカ宮城峡蒸溜所4ペア(=8基)です。

これなら「つくり分け」もできますが、新興の蒸溜所では1ペア(=2基)でウイスキーづくりを開始します。

日本が世界に誇るクラフトウイスキー界の雄「ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所」でさえ、2008年に小型の1ペア(=2基)の小さいポットスチルでウイスキーづくりをはじめ、2019年にやっと第二蒸溜所に5倍サイズのポットスチル1ペア(=2基)を増設して、やっと合計2ペア(=4基)となった段階です。

自社での「原酒のつくり分け」だけではバリエーションの広がりは限られますから、スコットランドに倣い、同業他社との原酒交換をおこなったわけです。

これは「クラフト蒸溜所ならでは」の発想ですし、社長同士の話し合いで、すぐに実行・実現できてしまう『スピード感』というものは、大手には真似できないでしょう。

私がこの「秩父・駒ヶ岳コラボ」のニュースを聞いた時には、「すでに数年前に原酒交換をしていたとは!」と本当に驚いたとともに、「日本のウイスキーの可能性が大きく広がる予感」がして、とても嬉しく思いました!


■原酒交換におけるジャパニーズウイスキーの多様性

日本国内で、1ペア(=2基)のポットスチルでウイスキーづくりをはじめる新規蒸溜所の開設ラッシュが続いています。
このようなクラフト蒸溜所が、「秩父・駒ヶ岳コラボ」のように、「自社にはない原酒」を活用できれば、とても面白い商品ができると思います!

また、色々な蒸溜所からの原酒を仕入れて、独自で熟成・ブレンド・瓶詰め・販売する「ボトラー」という会社がスコットランドには数多く存在しますが、日本でも、「T&T TOYAMA」という会社が立ち上がりました。

T&T TOYAMAとは - T&T TOYAMA (tt-toyama.jp)

この「秩父・駒ヶ岳コラボ」の原酒交換は、もはや必然の流れだったのかも知れませんが、それを最初にやるということに、「やっぱりイチローズモルト(ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所)は、凄いなぁ」と感じるわけです。

ちなみに、今回の原酒交換は、樽熟成させていない「ニューポット」の状態で交換しています。
スコットランドでは、ある程度、樽熟成させた後で交換することが多いようなので、そのあたりの違いも、今後の日本の原酒交換文化に影響してくるかも知れませんね。

最後に、本坊酒造さんも、駒ヶ岳ブランドの「マルス信州蒸溜所(長野県)」と、津貫蒸溜所(鹿児島県)」と2つのモルト蒸溜所と、洋酒づくりの伝統を持つ超本格派です。
本坊酒造さんについても、いつか記事化したいと思います!


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