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なぜ、1970~80年代に酒蔵が一升瓶ウイスキーをつくったのか?《一升瓶ウイスキー③》

■昭和の地ウイスキーとは?

前回までのおさらいです。

◇昭和の地ウイスキー=一升瓶ウイスキーの特徴

①一升瓶に入っている。(当たり前・・・)

②日本酒の酒蔵が、副業的にウイスキー製造に参入したケースがほとんど。

③日本各地の酒蔵がつくっていたので、その「地方でだけ有名」になった商品が多いため、当時に流行っていた「地酒」に倣って、「地ウイスキー」とも呼ばれた。

④低価格な商品が多い。

⑤現在の小規模蒸溜所がつくるクラフトウイスキーも地ウイスキーと呼ばれることがあるが、低価格戦略が基本路線である「昭和の地ウイスキー(=一升瓶ウイスキー)」とは、分けて考える必要がある。

今回は、なぜ日本酒の酒蔵がウイスキーをつくることになったのか、その背景を考えてみたいと思います。


■なぜ日本酒の酒蔵がウイスキーをつくったのか?

《答え》
日本酒が売れなくなったから

日本酒は、からつくる醸造酒です。

稲作文化の日本では、昔から一般庶民から皇族・貴族まで、幅広く「米からつくった醸造酒=どぶろく・清酒」が嗜まれていました。

ビール出荷量が日本酒を抜くのは、第二次大戦後の1959年(※1)ですから、日本の歴史から考えれば比較的最近の話です。
(なぜビールがここまで伸びたのかについては、またいつか別途で記事化したいと思います。)

ただ、消費量としてはビールに抜かれた日本酒ですが、第二次大戦後に「酒類全体の消費」が伸びていたので、1961年に戦前の出荷量のピークを超え(※2)、1973年(※3)までは、その消費は右肩上がりで伸び続けました。

※1、※2
居酒屋の戦後史 P126 橋本健二(祥伝社新書)

※3
国内の20~30代の約7割が1年以上日本酒に触れてない/全国の男女に聞く「日本酒」の飲用実態調査を実施 | 楯の川酒造株式会社のプレスリリース (prtimes.jp)

こうして、

1杯目は、とりあえずビール。
喉の渇きが治まったら、日本酒へGo!

という超・昭和の日本的な飲み方が確立します。

しかし、右肩上がりだった日本酒は、1973年をピークに1974年からダウントレンドとなります。
そして、その落ち込みは留まる気配がありませんでした。

その時に、日本酒の酒蔵が「このままじゃヤベーぞ!」ということで打ち出した対策が、当時、右肩上がりでその消費量を増やしていた『ウイスキー事業への参入』だったのです!


■なぜ日本酒の酒蔵はウイスキーをつくることができたのか?

《答え》
スピリッツ(≒醸造用アルコール)の取り扱いに慣れていたから

第二次世界大戦の戦中・戦後から、日本酒には「醸造用アルコール」を添加(ブレンド)して、アルコール度数や味わいの調整をすることが一般的となりました。

もともとは、戦中の米不足の中で、「より少ない米で日本酒を仕上げる」ために編み出された裏技的な技術です。

ただ、導入時は「量のカサ増し」的にネガティブなイメージで用いられていた「醸造用アルコールの添加=通称:アル添」ですが、現在では目指すべき日本酒の酒質を実現するためポジティブに用いられていることが大半です。

(この日本酒の「アル添」については、解説をはじめると5話でも終わらないくらいなので、一旦はここまでとします。)

こうして、日本酒の酒蔵は第二次大戦後、醸造用アルコールを日本酒のブレンドに使っていたので、スピリッツの取り扱いはお手のものでした。


■醸造用アルコールの調達方法

また、その醸造用アルコール(=スピリッツ)は、「スピリッツメーカーから購入」する場合もあれば、大手の酒蔵では「自社で連続式蒸溜器を導入して生産」する場合もありました。

ちなみに、連続式蒸溜機というものは、基本的にはムチャクチャ大きい(まるでビルみたい)ですし、ムチャクチャ高価です。(最近はハイブリッド型の小型の連続式蒸溜機もあります)

◇連続式蒸溜機

・サントリー 知多蒸溜所(愛知県)

下記のサントリー公式ブログより引用

サントリーウイスキー「知多」のこだわり|サントリーウイスキー蒸溜所便り | SUNTORY 公式ブログ

ぱっと見、石油コンビナートみたいですが、原油の精製と理論上はほぼ同じものなので、一緒といえば一緒です。(石油コンビナートのものはもっとデカい)

また、知多蒸溜所ではスチルがむき出しになっていますが、スチルが建屋におさめられているタイプもあります。
ニッカ宮城峡蒸溜所:カフェスチルや、マルス津貫蒸溜所などは建屋内に入っています。

・マルス津貫蒸溜所(鹿児島県)

下記の南さつま市観光協会HPより引用

マルス津貫蒸溜所 | 南さつま市観光協会 (kanko-minamisatsuma.jp)

写真左側のデカい建屋の中に連続式蒸溜機が入っています。(現在は未使用)

連続式蒸溜機では醸造用アルコールだけでなく、甲類焼酎もつくることができました。(というか醸造用アルコールと甲類焼酎、そしてウォッカやグレーンウイスキーは、ほぼ同じようなものです。)

このように、無茶苦茶デカい連続式蒸溜機ですが、特に日本酒の他に甲類焼酎もつくっていた大手の酒蔵では、連続式蒸溜機を自社で所有していたケースも多かったのです。


◇醸造用アルコールを自社製造している酒蔵

・明利酒類
酒造り | 明利酒類株式会社 (meirishurui.com)

・宝酒造、合同酒精、協和発酵(現:第一アルコール)など
醸造用アルコール | 日本酒の原料 | おいしい日本酒・酒蔵紀行 (sakekiko.com)
 ちなみに、第一アルコールは現在はキリンホールディングスの傘下です。


このように自社で醸造用アルコールを製造していた酒蔵は、すでにスピリッツ製造のノウハウがありましたから

焼酎もウイスキーも、
穀物からつくる蒸溜酒という点では一緒でしょ?

ということで、「技術的」にも、「気持ち的」にも、特にウイスキー事業に参入しやすかったのだと思います。


■なぜ日本酒の酒蔵は、一升瓶にウイスキーを詰めたのか?

次回に続きます!

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