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第2章, 学歴を超えるキャリアの創り方 ①



本記事は、高校卒で元バンドマンという異色のキャリアを持ちながら、現在は世界的な大企業である日本マイクロソフト株式会社で本部長を務める河田氏の“異色のキャリア”と人生観を、全5章に分けて紐解いていく。

前章では、彼のミッションが同社の提供するクラウドサービス「Microsoft Azure」の導入提案と活用促進であることについて触れたが、クラウドサービスとは、インターネットを通じてコンピューティングリソース(サーバー、ストレージ、アプリケーション、サービスなど)を提供するサービスのことである。

今やビジネスシーンには“なくてはならない”仕組みとも言えるクラウドサービスだが、世界的市場では、アマゾンのAWS(Amazon Web Services)、GoogleのGCP(Google Cloud Platform)、そしてMicrosoft Azureが3大サービスとして割拠している。

Azureのサービス開始は2010年で、3大クラウドサービスの中では最も歴史が新しい(AWS:2006年、GCP:2008年)。しかし、ここ数年で急速にシェアを拡大し、2023年度の世界シェアは23%にも到達している。この背景にはマイクロソフト社のスペシャリストチームの活躍があることは疑う余地がないだろう。

さて、第2章である本章では、高校卒でありながら世界的なクラウドサービスの発展に大きく貢献している彼が考える「学歴を超えるキャリアの創り方」をご紹介する。

「学歴を超えるキャリアの創り方」


近年、日本における大学進学率は5割を超える水準で推移している。文部科学省が発表した学校基本調査によれば、2023年の進学率は57.7%と過去最高値を記録した。

また、専門学校や短大などを含めた「高等教育機関」への進学率は84%にも上ることから、多くの若者は、高校卒業後も知識やスキルを身につけるため、あるいは社会に出る前のモラトリアム(準備期間)として、"進学の道"を選択していることがわかる。

近代以降の社会では、就職先の決定や、社会的立場の判断材料として「身分」や「家柄」に変わり「学歴」が用いられ始めた。さらに現代以降は"学歴社会"とも呼ばれるほど、「社会で成功するためには高い学歴が必要である」と考えられるようになった。

しかし一方、半数以上の若者が大学に進学するようになった今では「学歴のインフレーション」が進み、就職・転職市場における"学歴の価値"が相対的に下がっていることも事実だ。厳しい現代社会を生き抜くためには、学歴だけではなく、それ以外の"何か"を確実に身につけていく必要があると考えられる。

では、今すでに厳しいビジネスの世界で奮闘している若者や、これから社会に出ていく学生が、社会で成功するためには具体的には何をすれば良いのだろうか?

彼はその問いに対する答えとして「学歴を超えるキャリアの創り方」という表現を用いて、以下の5箇条を提示した。

(1) 自分の強みや魅力を表現すること
(2) 学び続けること
(3) 真摯に向き合うこと
(4) ネットワークを築くこと
(5) 転職活動をすること


これらのセンテンス一つ一つは決して目新しいものではない。むしろどれも、就職活動や転職活動、ビジネスシーンにおいて重要かつ一般的に知られているマインドセットと言えるだろう。しかし言葉の解釈は人によって異なるため、ファーストインプレッションだけで上記5箇条を本質的に評価するのは少々困難であろう。

本章を最後まで読んだ後に、ぜひもう一度この5箇条を見返し、それぞれの意図や関連性を検証してもらいたいと考えている。
それではここから、彼が掲げる5箇条の詳細を、読者(若者)に向けたメッセージとして、彼の言葉を借りながらそれぞれ解説していきたいと思う。

第1条「自分の強みや魅力を表現すること」


河田氏は「学歴を超えるキャリアの創り方」の1つ目として「自分の強みや魅力を見つけること」を挙げている。

就職活動を経験した人なら、一度は「自己分析」という言葉を耳にしたことがあるだろう。自己分析とは、過去の経験から自分自身の行動や思考のパターンを分析し、興味や関心、長所や短所などを見出す作業である。彼が提唱する「自分の強みや魅力を見つけること」は、まさに「自己分析の作業そのもの」と言える。

自己分析は、応募書類の作成や面接対策など、新卒採用、中途採用を問わず就職活動では必須とされている。自身の強みや特性を企業へアピールし、「他者(採用担当者)から良い評価を得るため」に有効な手段として、大学のキャリアセンターやハローワーク、転職エージェントなどが積極的に指導を行っているのだ。

しかし、彼が考える自己分析(自分の強みや魅力を見つけること)の目的は、単に他者から評価を得ることではない。彼は、「自身の「強み」や「魅力」を見出し言語化することで、「自分が社会から何を求められているか」が明確になり、同時に「社会に対してどのような手段で貢献できるか」も明確になる」と述べている。

表面的な魅力や場当たり的な強みではなく、自分自身が持つ本質的な可能性をしっかりと把握することこそが、学歴を超えたキャリア形成の第一歩となるのだろう。

プロフェッショナルとして求められる「高い品質」


昨今では、「仕事を楽しむ」という言葉をよく耳にする。ダイバーシティやインクルージョンといった"多様性"を重んじる概念が浸透しつつある現代社会において、若者の職業観や仕事に対する認識にも変化が起きている。

特にここ数年、YouTuberやVtuber、トレーダーなど、テクノロジーの進化に伴い次々に新しい職業が生まれ、フルリモートやスマートワークなど、時間や場所を選ばない柔軟な働き方も注目されてからは、その変化は加速しているように感じられる。

世の中が便利になり、職業選択の幅が広がることは歓迎すべき変化である。全ての人が活躍できる社会の実現は、我々が目指すべき目標、理想でもある。

しかし、テクノロジーの進化や社会制度が整備された現状に甘んじ、「自分のやりたい仕事を気が向いた時に好きな場所で行いたい。」「仕事は楽しんで行うべきものである。」という価値観が蔓延しすぎることに対し、彼は警鐘を鳴らしている。

彼は「報酬を得て働く以上は“プロフェッショナル”として期待に応えなければならず、仕事には“高い品質”が求められる。」と前置きをした上で、次のように語った。

「私は、“仕事を楽しむ”という価値観には共感していますが、世の中にはその意味を曲解している人が一定数いると感じます。 
本来、仕事は厳しいものであって、“楽しい仕事を探す”受動的な姿勢ではなく、どんなに困難な仕事や状況も“楽しめる”能動的な姿勢こそが大切なんだと思います


インタビューを受ける彼の表情からは、「自身のキャリアを楽しんでいる」ことが伺えた。これは、彼が「楽しい仕事を選択した」からではなく、多忙で厳しい仕事の中に、楽しさや喜び、そしてやりがいや誇りを見出しているからであろう。

自分の価値を表現できる人材になるために


彼はキャリア黎明期の自身のことを「根暗で人前で話すことができなかった」と振り返っている。彼がいかにしてソリューションセールスのプロフェッショナルとして活躍し、今日の地位を築いてきたのかについては、第3章で詳しく紹介するが、さまざまな仕事を経験する中で、「運よく」営業職としてキャリアを積み上げることができたのだろう。

「運よく」と述べたが、彼の成功は「偶然」ではない。
前章で紹介した通り、彼は運を「自ら手繰り寄せるもの」と捉えている。幾度となく失敗や挫折を経験し、その度に試行錯誤しながら一つ一つの課題を乗り越えていく中で運を手繰り寄せ、自らの意思と努力でキャリアを築き上げてきたことは、想像に難くない。

そして、ソリューションセールスのプロとして高い実績を積み上げてきた河田氏だが、組織の中で活躍し続けるためには、「それだけでは不十分だ」と語る。

世の中には一芸に秀でた人は数多くいる。優秀なセールスパーソンは組織にとって貴重な人材だが、より優秀な人材が次から次に入社してきたら、居場所を失ってしまう可能性もあるのだ。

彼の所属するマイクロソフトは言わずと知れた世界的な大企業であり、彼がリードするスペシャリストチームは、全国から優秀な人材が集まってくるスーパーヒーロー部隊だ。営業スキル一辺倒のキャリアでは、過酷なサバイバルゲームに敗れる日が来るかもしれない。

一方、「営業スキル」という能力は、なんとも抽象的な概念である。部下の指導方法を問われると「先輩の背中を見て覚えろ」と回答するセールスパーソンも少なくない。それほど育成が難しい職種でもあるのだ。

そこで彼は、自身の強みである営業スキルを「他者に伝える方法」を模索し始めた。抽象的で説明が難しい「営業で成功する」ためのノウハウを「可視化」し「言語化」することができれば、組織の営業力強化に大いに貢献できる「オンリーワン」の人材へになることができると考えた。
現在、彼は営業力を身につける方法を科学的なアプローチで紹介する「Solution Selling for Enterprise」などのトレーニングを開催し、後進の育成にも力を注いでいる。

かくして彼は、自身の強みを棚卸し、それらを実行・表現することで組織に貢献し、学歴を超えるキャリアを創造してきた。彼が如何にして「ソリューションセールスのプロ」としての手腕を獲得してきたかについては、次章でさらに詳しく紐解くとしよう。

第2条「学び続けること」


河田氏が掲げる「学歴を超えるキャリアの創り方」の2つ目は、「学び続けること」だ。

ここで言う「学び」とは「学術的な学び」だけを意味するのではなく、自身のキャリア形成に必要な新しい知識やスキルを身につけるための行動を指す。

「VUCA」と言う言葉をご存知だろうか。「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭字語で、技術革新や感染症の流行などにより変化が著しく、先々の予測が難しい現在の社会情勢を意味している。

想定外の事態に見舞われた際、これまでの常識や経験がそのまま通用するとは限らないが、これはビジネスの世界でも同じである。例えば新型コロナウイルスの感染拡大が全世界に多大な影響を及ぼしていた2020年から2022年、われわれの生活様式は一変した。今まで当たり前に"できていたこと"ができなくなり、さまざまな制約の下で新しいビジネスが生まれては淘汰されていった。試行錯誤の末に生き残ったものの、新型コロナウイルスの5類感染症指定に伴い衰退し、方針変更を余儀なくされた事業形態も多い。

組織がVUCA時代を生き抜くには、目まぐるしく移り変わる環境に適応していけるだけの観察力、決断力、行動力などを持ち合わせることが重要だが、これは経営者や管理者層のみが意識していれば良いわけではない。組織に所属する個人、全てが常に新しい情報をキャッチし、学び続け、吸収していく姿勢が重要であり、裏を返せばそのようなマインドを持つ者でなければ、VUCA時代に主体的なキャリアを形成していくのは難しい。

つまり現在では、固定概念にとらわれ新しい情報やアプローチに目を向けようとしなければ、高いスキルや知識を持っていてもいずれは陳腐化し、組織から高い評価を得続けるのは難しいだろう。

学歴は過去のもの、学びは未来のもの


河田氏は、学び続けることの重要性について次のように述べている。
「学歴は過去のものだが、学びは未来のものである。常に新しい知識やスキルを身につけることで、自分の可能性を広げることができる。」

輝かしい学歴は社会人としてスタートする際のアドバンテージにはなるが、「学生時代の学びだけ」ではビジネスパーソンとして大成するのに必要な知識やスキルを全て網羅することはできない。

本書のタイトルである「学歴を超えるキャリア」を創造するには、履歴書上の「学歴」を通過点として、未来に向かって学び続ける必要がある。

前章から幾度となく紹介しているが、大学を2年で中退した彼の最終学歴は「高校卒」である。しかし彼は"時価総額世界一の大企業"の本部長として主要事業をリードする立場であり、彼のチームには東大、早慶をはじめ国内外の一流大学を卒業した、いわゆる"高学歴者"がずらりと名を連ねている。
そのような環境下で氏が現在の立場に上り詰めることができた理由は、彼が「学び続ける」ことで「学歴を超えるキャリア」を築き上げてきたからに他ならないだろう。

日々の業務に忙しい社会人にとって、少ない余暇時間を自己研鑽に充てるのは容易でないかもしれない。また、ゼミや研究、アルバイトなどを行いながら就職活動を行っている学生も、自由に使える時間は多くはないだろう。

しかし、「学び」は未来の自分への「投資」でもある。学歴を超えるキャリアを創造したいと考えるのであれば、学び続ける姿勢は尚更重要なのである。

マイクロソフトが大切にする価値観


今回のインタビューで、河田氏は幾度となく「グロースマインドセット」という言葉を口にした。

"Growth Mindset" とは、スタンフォード大学のキャロル・デュエック教授が提唱した、「人の能力は固定されたものではなく、経験や努力によって伸ばすことができる。」という発達心理学の理論である。

マイクロソフト社の現CEO兼会長であるサティア・ナデラ氏は、2014年のCEO着任以降、「クラウドファースト・モバイルファースト」の戦略展開など、ビジネスモデルの大幅な変革を行うことで、業績が停滞していた同社を"時価総額世界一の大企業"に成長させてきたが、彼が最初に手掛けたのは「組織文化の改革」であった。

ナデラ氏はこの文化を社内に取り入れ、「何でも知っている文化(know it all)」ではなく「何でも学ぶ文化(learn it all)」を目指した。彼自身が率先してこれまでの学びを振り返り、社内に共有することで、社員一人一人が「学び続ける」風土を醸成してきた。その結果、長期にわたり持続的に成長できる組織を築き上げてきたのだ。

彼はマイクロソフト社の急成長の礎とも言える企業文化 "Growth Mindset" に心から共感しており、行動指針として大切に取り入れている。また、ブログへの執筆やセミナーなどを通じて社内外への啓蒙活動も行っているのだが、これらの詳細については、第4章で詳しく述べることにする。


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