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CEOのチェックリスト

1. Outsider CEOたち 

ハーバード大学、スタンフォード経営大学院卒の投資家Thorndikeの『The Outsiders』という本を読んだ。原著で読んだが邦訳版(『破天荒な経営者たち - 8人の型破りなCEOが実現した桁外れの成功』)も出ているらしい。本書では8名のCEOが紹介されている。日本語で言う「破天荒」っていう印象は全く無くて、どのCEOも、周りに流されず戦略の一貫性があった。効率的に経営し、場当たり的ではなく、機を待って動く。

Thorndikeの評価軸・成功の定義は、「株価がどれだけ上がったか」ということ。シンプルでわかりやすいが、企業の一面にしかスポットを当てておらず、それをもって優れた経営者であるかどうかはわからない面もある。投資家から見たら株価こそ全てなのかもしれないが。本書に登場する8人のCEOは、ウォーレン・バフェットを除くどのCEOも一株当たり利益(EPS)を高めようと、積極的に自社株買いを行っている(拙記事『なぜ経営者は自社株買いをしたがるのか』『ウォーレン・バフェットは何がすごいのか』ご参照)。

2. CEOのチェックリスト

本書の最終章で「Outsider CEOのチェックリスト」が出てくる。10のポイントが非常に良くまとめられている。これはCEOだけでなく経営層、管理職、チームリーダーにとっても役に立つ部分もあると思われ、以下に自分の意見も含めまとめる。

1)資本配分はCEOが決める
どこに、いくらの資本を配分するか。資本配分こそがCEOの仕事。CFOやCOOなどに権限移譲すべきではない。

2)ハードル・レートを決める
資本配分を決める上で、最低限求められるリターン(ハードル・レート)を決めることから始めよ。これもCEOが決断する最も重要な仕事のひとつ。一般的には、企業の調達コストであるWACC(資本コストと負債コストの加重平均)以上で、企業に応じた様々な機会コスト・指標を考慮して算出する。

3)社内外の投資先候補のリターン・リスクを計算する
社内事業や社外事業にどのように資本配分するか。それぞれのリスク・リターンを計算する必要がある。しかし、厳密な計算は難しいので、完璧を目指す必要はない。CEOは、大まかにボールパークで計算する。一般的には、高いリスクの事業には高いリターンを求めるもの。

4)自社株買いのリターンを計算する
この本はどこまでも「自社株買い」崇拝主義。彼らのロジックは、自社株買いのリターンが、買収戦略を考える際のひとつのベンチマークになるというもの。つまり、自社株買いのリターンより魅力的な投資先があれば、そちらに投資し、無ければ自社株買いをしようということ。

5)"税引後"利益にフォーカスする
”税引後”にカギ括弧がついているのは、税金についてもよく考えてということ。税務メリットがある方法を常に選択しようと。投資家にとってみれば「税=悪」とまでは言わないまでも、「税=回避」ということだろう。それは正しいのか。変なことはしない方がよいと思う。あくまで正攻法で。

6)保守的なキャッシュと負債のレベルを決める
どの程度の借入であれば受け入れられるか。どの程度のキャッシュレベルが必要か。事前に適切な水準を考えておくことで、判断に迷わないということだろう。

7)権限移譲のストラクチャーを考える
とにかくオペレーションを効率的にするために、積極的に権限移譲を進めよと説く。全従業員のうち、本社機能に必要な人員は何人か。この比率は他社と比べてどの程度か。日本企業には耳の痛い話かもしれない。

8)資本調達は調達コストに見合うリターンが見込める場合に限る
資本の調達には、調達コストがかかる。上記で決めたハードル・レートを上回るリターンが見込める場合に限る。ウォーレン・バフェットは、外部調達をせず、保険事業などで得られた事業キャッシュフローを元手に投資を行っている。

9)良い投資先が見つからなければ、配当も検討
高いリターンが見込める事業(資本配分先)が見つからなければ「配当」を検討せよと。但し、配当は戻すことが難しく、税務上もメリット低い点には留意とのこと。

10)株価が非常に高ければ売却も検討可、不採算事業の撤退も可。
市場の株価が高ければ、売却して益を出すことも可だと。一方で、事業環境変化によりリターンが見込めなくなった不採算事業については、撤退することも検討せよと。とにかく効率的な資本配分を考えなさいということ。

3. まとめ

以上であるが、究極的にリターンを追求する姿勢が窺え、いかにも「投資家」目線だと思う。うがった見方をすれば、いかに株主・投資家にメリットを考えた経営をするかということ。ただ、企業、事業、チームのマネジメントをする上で参考になる部分もあると思う。人員もコストだとみれば、いかに人を配置するか。そのリターンはどの程度出ているのか。ハードルレートを超えるリターンを生み出せているのか。そういった視点で、企業運営、事業運営、チーム運営を考えてみてもよいかもしれない。

【参考文献】
William N. Thorndike "The Outsiders: Eight Unconventional CEOs and Their Radically Rational Blueprint for Success" (2012)

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