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ウォーレン・バフェットは何がすごいのか

1. ウォーレン・バフェットとは

ウォーレン・バフェットは投資の神様と呼ばれている。細かい説明はウィキペディア(「ウォーレン・バフェット」)に任せるが、とにかく運用実績が尋常じゃない。1965年にバークシャー・ハサウェーという紡績会社に出資してからM&Aを繰り返し世界最大の投資会社にしてしまった。2019年の総資産は約82兆円、売上高は約25兆円。当社アニュアルレポートの2ページ目に1965年から2019年までの株式価値が記されているが、約50年以上に亘り、平均毎年20%超のリターンを出している。ちなみに、ソフトバンクの孫正義はバフェットの経営戦略を真似している。(日経記事「孫氏、バフェット流に活路」

2. 投資戦略の変遷

1952年コロンビア大学でMBAを取得(ハーバード大学は落ちたらしい)。そこで、グレアム教授から投資セオリーを学び、卒業後1954年から彼の元で働くことになる。グレアムの戦略は、いわゆる「バリュー投資」戦略であった。「ネットネット株(Net-net value investment)」つまり、時価総額がネット流動資産より小さい割安の企業に投資しようというシンプルなもの。

1956年には故郷のネブラスカに帰り、約1千万円の手元資金で自分の事業を始める。その後1969年までの13年間で毎年30%近くのリターンを上げた。この時は、主にバリューアプローチだった。とにかく資産に比べ割安の企業を買う。仮に出資先が倒産しても資産価値で元が取れる、値上がりすればさらに儲かるというもの。

しかし、1960年中頃に戦略が変わる。American ExpressとDisneyの株を買ったのだ。これはグレアムのバリュー投資戦略に反するものだったが、これを機に、バフェットは、ハイクオリティで競争力(参入障壁)の高い企業に投資する戦略へのシフトしていった。

バフェットは、1965年34歳の時に、バークシャー・ハサウェー(紡績会社)の経営権を獲得する。低PBRが魅力的だった。(当時は約18億円程度の時価総額、今では約14兆円!)。その頃はマネジメントの経験も全くなかった。当時、ケン・チェイスをCEOに据え、事業を再編縮小してキャッシュを生みだした。その資金で、National Indemnityという小さい保険会社を買う。保険会社はキャッシュフローが安定的に稼げる。そのキャッシュを元手にさらに投資をする。この時の戦略がいまも続き、安定した事業経営に繋がっている。

1970年代、チャーリー・マンガーという法律家・投資家と出会い、彼の投資戦略の影響を受ける。マンガーは後にバークシャーの副社長になる。この人のことだけは常に信頼しているらしい。1970年代から高いインフレに直面し、グレアムの戦略からシフトする。マンガーのアドバイスの影響もあり、バフェットは、資本が必要なく、商品価格に決定権を持つ(市場シェアの大きい)企業に投資するようになる。コンシューマーブランドやメディアなど、フランチャイズ経営で、マーケットシェアを持ち、ブランドネームのある企業への長期的な投資という戦略へのシフトだった。

1980年代からは、100%出資の完全子会社化をするケースも増えた。永続的に保有する株式も増えていった。1987年株価暴落の際には、保険事業を売却するなどして資金を工面した。1989年にはコカコーラに総資産の4分の1をつぎ込み、7%のシェアを獲得した。1990年代は出資先ソロモンブラザーズの経営危機に際し暫定CEOとして当局との折衝を行う等、苦労も多い。その後、1996年から改めて大きな保険会社(GEICOとGeneral Re)を買収する。

2000年代は、マーケットの下落局面で、割安の機会を見て買っていった。株だけでなく、ジャンク債や海外企業(イスラエルの企業)等、投資の幅を広げていった。しかし、当時成長し注目されたIT企業への出資はしなかった。なぜか。彼は自分の理解している業界だけに絞って投資しているからである。IT企業は彼の理解の及ばないことを彼は理解していたからだ。それが奏功し、その後のITバブル崩壊でも痛手を被ることはなかった。2008年のリーマンショックでも、最もアクティブに投資を行っていた。

3. CEOとして学ぶべきポイント

バフェットがCEOとして優れていたポイントは3つある。
1) Capital Generation (資本調達)
2) Capital Allocation(資本配分)
3) Management of operations(オペレーション)

1) Capital Generation (資本調達)
バフェットが長期に亘って成功した秘訣は、資本を安く調達できたことだと、マンガーは語っている。3%で調達して13%で運用する。こうした資本調達力がバフェットの強みだという。どうやって安く調達したのだろうか。借り入れも、増資も殆どしていない。ほぼすべて内部のキャッシュフローを原資としてきた。安定的な保険事業や投資先から回収したリターンを原資としていることが強みだという。

2) Capital Allocation(資本配分)
バフェットは、オペレーションに関しては権限委譲していたが、資本政策に関しては全ての権限を彼に集中させていた。投資先の余剰キャッシュは全て本社に集中し、バフェット自身が資本配分を決定していた。バフェットが見ている幅広いオプションの中から投資先を決定する。「CEOの仕事は資本配分」と言い切っている。

また、彼のアプローチはユニークだった。配当や自社株買いはしない。株主還元はしないというもの(後に自社株買いは多少行っている⇒『なぜ経営者は自社株買いをしたがるのか』参照)。集めた資本は新たな投資に集中する。リターンの小さい投資は回収、事業撤退することも厭わなかった。バークシャーの創業事業(紡績事業)でさえ1985年に閉めた。

バフェットのポートフォリオマネジメントは卓越している。いくつの株をどのくらいの期間持つかによってリターンが大きく変わってくる。バークシャーは、集中して投資し、長期間に亘って保有することが特徴。トップ5の投資先で、総資産60-80%を占める(普通は10-20%程度)。また、トップ5の投資先は、それぞれ平均20年以上保有している。

それを可能にしているのは、強力で厳しい選別フィルター。彼の見識眼というフィルターを通った数少ない銘柄だけが投資対象となる。また、彼は投資先の経営者に経営を任せていた。それがこれまでの色々な失敗を踏まえた彼のスタイルだった。そうした点は、5年程度でExitを考えているような一般的なPEファンドとは決定的に異なっていた。

彼はオークションには参加しなかった。常にプライベートで決める。価格の交渉は避け、オーナーに価格を言わせる。そして5分以内に回答を出す。そうすることで、すぐに売り手から下限価格を引き出すことができた。非常に効率的に話が纏まる。典型的なデューデリジェンスは殆どしない。最初にコンタクトしてから数日で答えが出る。出資前に投資先のマネージメントに会うことすらない。それは、バフェットは良く理解している業界にしか手を出さないからできることだった。「買収する」のではなく、「機会を待っている」ということらしい。

上段のインタビュー画像では、「ビジネスを見ること、それが一番重要なのです」と言っているが、一般的に言うようなデューデリジェンスで会社を見ているわけではない。投資前から業界を徹底的に調べ、企業を既に理解しているということだろう。

3) Management of operations(オペレーション)
バフェットは、オペレーションに関しては非常に効率的なアプローチ。殆ど権限移譲で他の人に任せている。予算の定例ミーティングも無い。出資先の社長にも、バフェットからは連絡することはない。”hire well, manage little”(いい人を採用して任せる)ということらしい。権限移譲によって人を減らし、機動力を高める。バフェットは、自分のスカスカのスケジューラを自慢している。オフィスにはパソコンもない。ブルンバーグ端末で株価を見ることもない。投資銀行と会うこともしない。

では彼は何をしているのか。1日の80%は読書にあてるといわれているが、彼はバークシャーの株主との対話に力を入れている。バークシャーのアニュアルレポートは、一般的なものとは毛色が異なる。コアになるものは、バフェットによる長いエッセイ。会社の様々な事業における実績について、バフェットの詳細なレビュー、コメントが書かれている。株主総会も非常にユニーク。15分程度の事務的な説明の後、約5時間もかけてQ&Aをやる。バフェットとマンガーが丁寧に答えてくれる。2011年は25,000人、2018年には45,000人になったらしい。(東洋経済の「87歳バフェットに学ぶ億万長者への9つの視点」という記事にも株主総会の様子やQ&Aの内容がよくまとめられているのでおすすめ)

4. まとめ

バフェットは、特異なひとである。でも、本質を見ている。誰かのモノマネではなく、流行に流されることもなく、物事の本質を見ている。それが見えるから、投資が上手く行くのだろう。戦略を聞くとシンプルで当たり前のように思えるが、実行することは難しい。いい人を採用して任せる。CEOは資本配分に集中する。株主との徹底した対話。自分のフィロソフィーがなければ到底できない。徹底的に考え抜かれたフィロソフィー、それに基づく行動力・実行力。正しいと思えば戦略も柔軟に変えている。それに結果が付いてきて、ひとが付いてくる。CEOに必要なことは、ぶれることのない芯の通ったフィロソフィー(経営哲学)ではないかと思った。稲盛和夫を思い出した。

【次回以降のテーマ】
稲盛和夫の経営哲学

【参考文献】
William N. Thorndike "The Outsiders: Eight Unconventional CEOs and Their Radically Rational Blueprint for Success" (2012)





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