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『天魔恋玉(てんまれんぎょく)のコンペティション〜俺の魂は猫に奪われました〜』第21話

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第21話 永久に母なる大地イモータルスフィア

「しかし、ここまで舞台を整えるのに苦労したよ。今はこうして神として振る舞えているけど、群体にも劣る力しかなかったからね」

俺たちは黒天童の言葉を聞くことしかできない。
まるで床に貼り付けられたかのようで身動きすらできそうにない。

「いや、大変だったよ。この地にある都市伝説だとか噂を利用して力を集めていったんだ。黒い太陽の噂って知ってるかい? アレを広めたりね、最近だと3人組の顔なし男とかね。キミたち人間は面白いよね、欲求の赴くまま無意識に形ないものに形を与えてしまう。あやふやな存在を徐々に真実味を帯びさせていく。わかるかな? キミたちの邪魔をした泥の人形も我の力を高めたのも、キミたち人間なのさ」

どういう事だ。
噂や都市伝説なんて面白がったところで本当に信じるやつなんてほとんどいない。
大抵の人間はただ面白がって遊んでいるだけだ。それが現実になるわけじゃない。

「いや、いや、そんなわけがないと思っているでしょう? よく考えてみてよ、なぜエクソシストの連中が群体っていう分身体を祓えるのか。聖別なんてものはまさに信仰による力さ、言い換えれば願いの力だ。こうあって欲しいという願いの力が、我らの力を減衰させて祓ってしまうんだよ、まぁ大体は追い出してるだけだけど。わかるかい? キミたちの願いの力はこの世界のルールなのさ。我々のような他の世界からの来訪者はこのルールの力をしっかり受けてしまう」

黒天童は大袈裟に胸を押さえるポーズをとっている。
かと思えばくるくるとバレエのように回転し始める。

「力が高まった後は天使や悪魔の群体を取り込んだり、この地の霊脈に細工したりしてね。天使の宿主を口説くのも大変だったよ、昔のことを突いたら精神がぐらついたから、サクッとやっちゃたけど」

天使の宿主ってニコのことか、こいつふざけたことをしやがって。
怒りで筋肉が強張るのがわかる。

「ああ、そういえば、ここが霊脈の力を組み上げるのにピッタリだって神社の蔵を漁ったらわかってね。それからはここでも人を操って噂を広めたりね、そういえばキミが引きこもった原因の噂あったろ? アレもここの女生徒を煽ったら勝手に広がっていってね。そう考えると運命的だよね、あの時の小僧と小娘が玉の守護者と天使の宿主になっちゃうんだから」

ケラケラと黒天童は笑う。
こいつ何言ってるんだ、あの噂の原因はコイツだっていうのか。

「いやーでもあれは参ったな。人間を操って、玉城を捕まえたってのにキミに邪魔されて逃がされちゃうし。まぁ、玉城に我の力を少し流し込めたから大丈夫だろうって思ってたら、今度はキミに玉が渡っちゃうし。まったく余計な手間が増えちゃったよ、タマちゃんのおかげでさ!!」

「ぐっ!」とか細い声が聞こえる。
タマの頭を踏みつけてやがる。
俺は全力を振り絞って口を動かした。

「足をどけろ、エセ神様よぉ」

「んー?」
ガッと衝撃が走る。
今度は俺の頭を踏みつけてやがる。

「まだお話の途中だよ? もっと、シュンお兄ちゃんやタマお姉ちゃんに私が頑張ったって話聞いて欲しいんだけどなぁ?」

「ノーセンキューなんだよ、そんな胸くそ悪りぃ話しはな。大体、黒幕のくせにキャラぶれすぎなんだよテメェ」

「ええー? この状況でそんなこと言う? もしかしてシュンお兄ちゃんMなの? 女神様の足に踏まれて喜んじゃってる?」

「だとしたら、さすがのワシもドン引きじゃぞ、お兄ちゃん」

「んなわけねぇだろ、後で覚えとけよタマ」

「……(なんだ? この重圧でどうしてコイツら話してるんだ。息をするのもやっとのはず)」

俺は静かになった黒天童の足を掴んだ。

「そろそろどけろや、この足をよぉ。変な誤解されちまうだろうが!!」

黒天童は足をどけると飛び退いた。

俺はゆっくりと立ち上がる。
身体が重いがそんなこと言ってる場合じゃねぇ。

横目にタマもゆっくりと立ち上がるのが見える。良かった、少しだけホッとしたぜ。

「さっきも言ったが、俺はお前を神とは認めねぇ。キャラぶれまくりの黒天童さんよ」

「じゃな、妹ポジションはタマだけで十分なのじゃ。一昨日来やがれなのじゃ」

「き、貴様ら!!(玉の力がこいつらの願いの力を高めてるのか!?)」

「さて、じゃあこっからは」
「「反撃開始だ」なのじゃ」

その瞬間、何かが割れる音が響いた。


第21話ー2

【割れる音が響く少し前の煉玉神社】

煉玉神社の宮司ぐうじ天外牧夫てんがいまきおは地域の人々を神社に避難させていた。

「マキオさん、本当にここは大丈夫なんでしょうか?」

「ここは神域です。いかなる不浄の者も入り込むことは敵いません。ですが、念のため皆さんを本殿へ」

「わかりました」

マキオの指示に従い男は走って行った。

マキオの言う通り、町を闊歩する怪物たちはここに近づきもしていなかった。
ただマキオにも気がかりがあった。怪物たちはわずかな神気を放っていたのだ。

「ありえないはずですが……(もし、あれが神の使いなのだとすれば、この鳥居をくぐり中に入って来るかもしれません)」

以前、マキオが留守の際に何者かに蔵に侵入されたことがあった。
そこにはわずかな神気と邪悪な気配が残っていた。

「もしもあの時と同じ者がこの事態を起こしてるのだとすれば、ここにもいずれ……」

マキオの予想は的中していた。
乗用車くらいはありそうな中型の怪物が神社の階段をのぼり迫って来ていた。

「この鳥居をくぐると言うなら覚悟しなさい。私が居る以上、世を乱す者は一歩足りともこの先には進めません!!」

マキオが声を張り上げたその時

「どけどけどけぇ〜!!」

軍用ジープが階段を駆け上がる。怪物はジープに次々に跳ね飛ばされ泥になっていく。

「どけぇ〜!!」
「ひぃいいいい!?」

そのまま突っ込んで来るジープをマキオはギリギリで躱した。
ジープからマイとハヤテが飛び降りると、瞬く間に神社に入り込んだ怪物を蹴散らした。

「おい坊主危ねぇだろ!! この車を事故車にする気か!!」

レインはマキオを怒鳴りつける。

「レイン、神社の宮司は坊主ではないぞ」

「オヤジは黙ってろ!! こっからどうすんだマイ?」

「私が霊脈を叩き起こすまで、邪魔な奴らの相手を頼む」

「おっしゃ!! 任しとけ!!」

突然雪崩れ込んできたマイたちにマキオは戸惑っている。

「え? ここは私の見せ場では」

そんなマキオにハヤテが声をかける。

「心中お察ししますが、手を貸していただけますか。あと、ウチの娘がすみません」

「あ、いえ」

「おい! さっきのマイの言ったこと聞いてたろ!! 口じゃなくて手を動かしやがれ!!」

マイは集中し霊脈の流れを掴む。

「ここだな」

大きく息を吸うとマイは意識をより集中させた。
心を沈め、大きな流れを感じ取り、それに語りかける。

「邪なる者よ見よ、わたしはあなたの敵となる。
わたしはあなたを引きもどし、押しやり、上らせ、導く」

マイの身体が青白い光に包まれる

「あなたの剣を打ち落とし、あなたの盾を打ち砕く。
邪なる者は倒れ、獅子と鳥に引き裂かれる。
天上の火に昼も夜もなく、その罪を悟らせる」

光は地面へと伸び広がっていく。

「我らは母なる大地と共にある、我らは母なる大地を穢させない」

光はたゆたい波へと変わっていく。

「見よ、約束の時は来たれり、この願いは成就する

返転再起リブート永久に母なる大地イモータルスフィア

青白い光が霊脈を走り波のように町に広がる。
広がった波は引き潮のように、学園に向かって一気に戻っていく。

学園に波が戻った瞬間、何かが割れる音が響いた。

神社に居た怪物や町を闊歩していた怪物が徐々に消えていく。
異変に気づいたレインはマイに駆け寄っていく。

「マイ、これ何が起こってんだ!?」

「霊脈を通じて叩き起こした。今、この土地、煉玉市は夢から覚めているところだ。……この土地はずっと夢を見せられてた、それがこの終末の景色の正体。人の噂や願望、そういう願いの力を使って世界の終わり見せられてた」

「ゆ、夢?」

「そう、土地そのものが見せられた夢さ。人の持つ破滅願望、日常が退屈だ、もうこんな日々は終わりにしたい、こんな世界なら終わってしまえばいい。そういう願いを利用して、1つの終わりの形を見せられてたのさ。もし、この土地が夢から覚めなければ、終末は煉玉市の外へ漏れ出して世界が終わってたかもな」

「じ、じゃあ、夢から覚めたなら、もう元に戻るんだな!?」

「ああ。(だが、正直言って賭けだった。夢と現実、どちらを取るかはこの土地の意思に選択権があった。この土地が人間を、煉玉市がここで暮らす人々を拒絶していたら、あの終末の景色の方が現実になってただろうな)」

マイは町の様子を眺めながら、地面に仰向けに倒れる。
そして棒付きアメを取り出すと口に咥えた。

「(だが)」

そのアメをガリっと噛み砕くとニヤリと笑った。

「(今回は私たちの勝ちだ)」

目を閉じて学園にいる教え子たちの姿を思い浮かべる。

「私にできるのはここまでだ。あとは頼んだぞ」


第21話ー3

【割れた音が響いた直後の学園屋上】

「おい、なんだ今の音」

シュンの問いかけにタマはニヤリと笑った。

「マイたちがやったのじゃ! 今、霊脈と黒天童とのリンクが切れた。いずれこの学園の異界化も解けるのじゃ!」

「おお、つ、つまり?」

「ええい! 霊脈からの供給が無くなった以上、奴はガス欠になる。そうなれば、もう神でもなんでもなくなる。つまり、簡単に祓えるってことじゃ!!」

「おお!! だったら後は?」

「当然、決まっとるじゃろ」

タマは猫の姿になるとシュンの肩に乗った。

「奴がガス欠になるまで、のらり、くらりと躱わすのじゃ。気配を消してな!!」

シュンとタマの姿が薄くなり消える。こうなってしまえば、シュンとタマは不可視になったも同然であった。

しかし、実際には気配を断ち、存在感が極限まで薄くなっているに過ぎない。
今だに神威しんいを放つ黒天童の眼からは逃れることはできない。
黒天童にはシュンとタマが何やら小声で話している姿がはっきりと見えていた。

「まさか、霊脈の細工の方を先に潰されてしまうとは。あのエクソシストどもを甘く見ていた。だけど、あまり意味はないよね。もうそろそろ、気づいてるんじゃないタマお姉ちゃん?」

黒天童の問いかけにポツリとタマがつぶやく。

「おかしいのじゃ。なぜ、奴はあれほどの神威を放っておるのじゃ。それになぜ、学園も元に戻る気配がないのじゃ?」

「霊脈からのリンクが切られることぐらい想定してるよ。だから、あれはあくまでスターターでブースターに過ぎない。この学園はもう自立できる祭壇、終末の聖域になっているんだよ。外の異界化を解いても無駄、この学園の異界化は解けない。後はこの手に玉さえあれば世界の境界を破壊できるんだから」

黒天童はシュンを指差す。
この学園は既に終末の女神の聖域と化していた。
その聖域の中で黒天童の眼から逃れることはできない。

「それにシュンお兄ちゃんにとっても、タマお姉ちゃんにとっても悪いことじゃないんだよ? 世界の境界を壊すっていうのは死後の世界もなくなるってこと。既存の世界のルールは全て破壊されて1つの世界になるんだ。それがシュンお兄ちゃんとタマお姉ちゃんが助かる唯一の方法なんだよ?」

「な、なにを言ってるんだ? た、助かる方法くらい、こ、こうなんとかして見つけるさ!!」

「無理だよ〜、だってもう玉の力は臨界状態だ。どういう状態かわかってる? コンペティションは高まった力を発散させるって言ったけど、何も初日から最大なわけじゃない。日に日に高まる力を儀式を通して逆転させて天に返すんだ。今の状態はコンペティションの最終日と同じ状態」

「ま、まさか、そんななのじゃ」

「つまり、このままだと明日の朝には玉の持ち主は消える。元々、タマお姉ちゃんの魂の代わりになってたのがその煉玉なんだ。このままだと、魂の代わりに玉の持ち主になっているシュンお兄ちゃんが。もしタマお姉ちゃんに玉を戻せば、魂の代わりを失うタマお姉ちゃんがね」

「お、おい、本当なのかタマ!?」

タマは意識を集中して玉の状態を感じとった。

「あ、ああ、どうやら本当のようじゃな……」

「そ、そんな」

玉が天へと帰るということは魂の代わりの機能が失われるということである。
シュンが助かるには、タマからシュンの魂を返してもらうしかない。
だが、そうなれば玉が天へ帰るとタマという存在は消えてしまう。

「創世神さまはそもそも、その玉を封じる物として作ってないんだよ。それをわざわざ、天界、魔界の連中が封じたりするから、玉城が消えることになるんだよ」

黒天童はシュンに微笑みかける。

「シュンお兄ちゃん。もしタマお姉ちゃんを助けたいなら、その玉を私にちょうだい? そうすれば、世界の境界を無くして、魂がなかったら死ぬなんてルールそのものを無くしてあげられる」

「ほ、本当か? 本当にそんなことできるのか?」

「もちろん。今の私は神様だからね。神の私に創世神の力が加われば、それくらいは簡単だよ」

「シュン、そやつの言葉に耳を貸すななのじゃ!」

「もし、世界が変わるってんなら、他の連中は。サキやニコ、ユイやウイたちはどうなる?」

黒天童はシュンの目を覗き込んでくる。

「もちろん、シュンお兄ちゃんが望むなら助けることはできるよ。そもそも全ての世界が1つになって新世界になるだけだから、旧世界の人が死んじゃうわけじゃない。まぁ、世界が1つになった余波で死んじゃう人もいるかもしれないけど、それもある程度はコントロールできるよ」

「シュン! ダメじゃぞ!! こんなことをした奴は信用できんのじゃ。魂はちゃんとシュンに返す」

「けど、そしたらタマは……」

タマは猫の姿のまま、シュンに笑顔を向ける。

「だ、大丈夫じゃ。元々、そういう運命だったのじゃ、気にするななのじゃ」

「……わかった」

シュンは黒天童をまっすぐ見据える。

「わかったよ、黒天童」

シュンはゆっくりと歩き出す。
タマはシュンの肩から下りる。

「お、おい!! シュン!!」

「さすが、シュンお兄ちゃんだ。そうこなくっちゃ!」

黒天童は微笑む。

シュンはゆっくりと黒天童に近づいていく。
そして、シュンは黒天童に向かって手を伸ばした。

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