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『天魔恋玉(てんまれんぎょく)のコンペティション〜俺の魂は猫に奪われました〜』第23話【完】

前話 1話

第23話 そんな未来の話

【学園屋上】

「シ、シュン!!」

タマの声が屋上にこだました。

シュンにクロが触れた瞬間、何かが光ってクロの腕が弾かれた。
シュンはクロと距離を空ける。

「シュン! だ、大丈夫なのか?」

「あ、ああ、大丈夫みたいだ。何かがクロの手を弾いて?」

シュンがそれを取り出す。
それはレインがシュンに渡したお守りだった。
銃を渡すには早いと渡された煉玉神社の安産祈願のお守り。

「まさか、本当に効果があるとはな」

それを見ていたクロは微笑む。

「運が良かったみたいだね。でもそのお守りも、もう使えない。次で終わりだよ? 他人の力を借りてばかりの何もできない、シュンお兄ちゃん。じゃあね!!」

クロの攻撃をシュンはひらりと躱わす。

「確かにな。俺は何もない、何もできない。でも、だからこそ、力を借りるんだ。できる奴のマネをしてな!!」

シュンはクロの攻撃を次々と躱した。

「(レイコの華麗な動き、クロイツのステップ、レインの速攻、ハヤテさんの跳躍!!)」

シュンは次々に動きをマネた。様々に動きを変化させるシュンに、徐々にクロは防戦一方になる。

「俺の知り合いも親友もスゴイ奴ばかりだからな!!」

マイのステップ、リオの素早い転進、ユイの急制動、ウイの予測、タケシの足さばき、ムラマサの踏み込み。高速で切り替わるシュンの動きをクロは躱わすのがやっとだった。

「バ、バカな、何もできないからマネをする? 何もできない奴がくだらんことを!!」

「何もできない、それを認めることからはじめないといけないんだよ! そんでもってマネることからはじめるんだ、何もできないからな!!」

ニーコの変速性、サキの思い切りの強さ、そしてニコのド根性。それらを動きにシュンは反映させていく。

クロはたまらず空中へと跳躍する。

「そして、タマの跳躍!!」

クロの落下に合わせ、シュンが跳躍し一気に迫る。

「それは1度見てる!!」

クロは身体を横に捻り回転する。シュンの左手は空を切る。

「そんで、これが俺のオリジナルだ!!」

クロの死角から現れたシュンの右手が胸の印をとらえた。

シュンの手から赤い閃光が走る。
瞬間、何かが割れる音が響いた。

……

「……あ〜あ、負けちゃったか」

クロの印は消えてなくなっていた。
クロの姿もだんだんと薄くなり、砂が散るように徐々に消えはじめる。

「シュンお兄ちゃん。本当はね、残った力と分霊で復活できるようにとっておくつもりだったんだけど」

「ん?」

クロの指先から小さな光が浮かぶ。その光はふわっと飛んで、俺に向かってくると胸の辺りにぶつかり消えてしまう。

「お、おい!? なにを!?」

「安心してよ、これはクロからのお礼」

「お礼? なんだお礼って、呪いか!?」

「そんなことしないよ。これでも元神様だからね、試練を乗り越えた人間にはご褒美をあげないと」

クロはえへんと胸をはる。
まったく神々しくはないけれど、なんだか可愛く見えてしまった。
さっきまで命のやり取りをしてた相手になにを考えてるんだ俺は。

クロは声をひそめて話し始める。この位置からなら俺とクロの声がタマに聞こえることはないが、それでも秘密にしたいことなのだろう。

「クロと違ってシュンお兄ちゃんは人間だから、玉の力を制御して願いを叶えることはできないの。さっきみたいに願いの力をぶつけるのがせいぜい。だから、ちょっとだけ助けてあげる。クロの力を分けてあげたから、これで願いを叶えられるよ」

「願いを? この玉でか?」

「そう、たったひとつだけ。そして、たったひとりぶんだけ。これが今のクロができる精一杯。シュンお兄ちゃん、もうわかってると思うけど、お兄ちゃんは玉と同調しすぎた。だから、もう、」

ああ、そういうことか。
さっきクロとの鬼ごっこをやっててなんとなく自覚はあった。

俺は以前読んだ古文書の内容を思い出した。

『但し人は煉󠄁玉に触れてはならない
人は人のまま、神は神のまま』

つまりそういうことだろう。俺は普通の人ではなくなってしまったんだ。

「そうか、わかった。けど、どうしてお礼なんて?」

クロにとっては、俺たちは願いを阻む障害か敵でしかなかったはずだ。

「なんでだろうね」

クロは本当に自分でもわかっていないようだった。

「な、なぁ、クロ」

「うん? なに? シュンお兄ちゃん?」

「どうしてこんなことをしたんだ? どうして境界を壊して世界をひとつにしたかったんだ?」

聞かずにはいられなかった。だってもう俺は知っていた、みんなそれぞれの事情があって理由があってそうしていることを。

どんな理由があれ、この世界を壊すことを容認することはできない。だから俺たちがクロを止めることは変わらない。
ただ前のように、知らないまま見て見ぬふりをすることはできなかった。

「ああ、なんでだったかな? なにせ、ずっと前のことだから」

クロの姿は消えていく、もうほとんど消えてしまった。

「ああ、そうだ。一緒にいたかった人がいたんだ。もうこの世界にはいなくなってしまったあの人と」

クロはそう言うと消えてしまった。

「クロ?」

さっきまでクロがいたところに手をのばす。
手の先に砂がふれ、そして砂も消えていった。

学園の異界化が解けていく。
元の学園に戻っていく。

空の雲が消え、夜空が現れる。

タマと俺は空を見上げていた。

「シュン」

「ああ、綺麗な星空だな」

夜空には満天の星々が輝いていた。

第23話ー2

俺は屋上で星空を眺めていた。
下では学園の生徒や町の人たちがにぎやかにしている。
一緒になって騒いでいるタケシやムラマサの姿が見えた。

「おーい、なに黄昏れてんだよ」

振り返ると、ドアのところに俺の相棒が立っていた。
思いのほか可愛い姿だった俺の相棒、そしてもうひとりの幼馴染。

「よぉ、エイト、元気か?」

「ったく、元気か? じゃねぇよ、早く連絡よこせって言ったろ」

「わりぃ、わりぃ。そういや、ユイやリオは?」

「ああ、あいつら放っておくと屋上に雪崩れ込んで行きそうだったから、レイコお嬢様に引き渡して来た。今頃、学園中に機能停止して落ちてるドローンを回収してるよ」

「そりゃ大変そうだ」

「それで、俺は屋上の階段のとこに落ちたドローンを回収に、という理由にしてここに来た」

「なるほど、さすがエイトだ!」

「ったく、なに言ってんだか」

しばらく俺たちは無言で夜空とこの町、そして学園の様子を眺めていた。

「なぁ、まだシュンは戻らないのか?」

「ああ、俺はもう少しここに居るよ」

「そうか、俺はそろそろ帰るぞ。昼間あまり寝なかったら、もう眠いし」

エイトが屋上のドアへと向かっていく。

「なぁ、エイト。俺がもし明日居なかったらどうする? どっかに消えちまってたら」

「なんだ、サボるつもりか? 明日は来いよ。祭りがどうなるかは知らないけど、やるってのにシュンが居なかったらつまんねぇんだからよ。まぁ、仮に逃げたところで俺がどこに居ようと絶対に見つけるけどな」

「そうか、さすがは天才プログラマー、俺の相棒だ」

「だから、プログラマー……あってるか」

エイトにはいつも助けられた。
俺が引きこもるようになっても外との接点が切れなかったのは、この相棒がいたからだ。
ユイの双子の妹だったのには驚いたけど、そういえば一緒に遊んだこともあった。
ユイでも、タケシでも、ムラマサでもない、気の合うもうひとりの幼馴染。
男の子みたいな格好のことが多かったからてっきり男の子だと思ってたけど、あれがウイだったんだ。

「ありがとうな、ウイ」

「なんだよ、エイトでいいって言ったろ?」

ウイはほんのり頬を染めていた。
でも怒ってるわけではないみたいだ。

「ああ、けど、呼んでおきたかったんだよ」

「そ、そうかよ。と、とにかく、シュンも早く来いよ」

エイトは屋上を出て行った。
ありがとう俺の大切な相棒。

入れ替わるようにタマが現れる。

「おかえり。サキとニコの様子は?」

「どっちもケガはしておったが大したことはなかったのじゃ。じきにここに来るじゃろう」

「そっか、ありがとうな」

「何を言っとるんじゃ、こんなことくらい。それより、わしは、」

タマは悲しそうな表情をしていた。
クロが完全に消えてしまった後、タマは俺に魂を返そうとしたができなかった。
そして、俺の身体から玉を取り出すこともできなかった。

俺の身体は既に玉とひとつになりつつあった。
器の形そのものが変わってしまったようなものだ。
中身とピッタリ同じに器がくっついてしまえば、中身を取り出すことはおろか入れ換えることもできない。

だから、俺の魂だったものが俺に戻ることはない。俺は今夜この玉とともに消える。正確には玉は別空間に帰るが、俺はどこにも行けずに消える。

今、タマの中にあるのは俺の魂だ。それを俺に戻すことはできない。だから、願いの力とクロの力でそれをタマの魂に形を変える。

そうすればタマだけは助けることができる。
クロの言っていた「たったひとつ、たったひとりぶんだけ」とはそういう意味だったのだから。

涙を堪えたタマは無理して元気に声をかけてくる。

「なぁ、シュン! ワシと一緒にここから逃げよう!! 混乱してる今なら、この町を出てはいけないというコンペティションのルールも無視できる。この町から出れば、玉が帰らずに済むかもしれん! そ、それで、一緒に色んなとこを旅するのじゃ。追っ手がかかるかもしれんが、それはワシがなんとかする、だから」

「そうだな、それもいいかもしれないな。一緒に旅して、遊びまわるのは、きっと楽しいな」

「じ、じゃろ! だから」

「でもダメだ。それじゃ、タマに危険がおよぶ。俺はさ、タマに楽しんで欲しいんだこの世界をさ。生きてりゃ楽しいことばっかじゃない、ツライことも悲しいこともそっちのが多いんじゃねぇかってくらいある。けどさ、生きてりゃきっと楽しいこともあるし、素敵なこともある、そうすれば大切なものだってできる。それはすごく、すごく、小さいかもしれないけど、それを大事にしてほしいんだ」

タマはじっと聞いている。
血はつながってないし、突然できた妹。でも、大切な妹に言葉を伝える。

「楽しめタマ、思う存分。お前なら大丈夫だ。俺はお前が楽しんでるときの顔が好きだ。思う存分、思うがままにやれ。それがタマ、お前だ」

タマの頭をなでる。

「で、でもそれじゃ」

「良いんだ。言ったろ? 妹を助けないお兄ちゃんはいないってさ」

タマはスッと姿を消した。
たぶん、泣いてる顔を見られたくなかったんだろう。
そういうやつだからな。

「さてと、じゃあこの《煉玉のコンペティション》にも決着をつけないとな」

ガチャリと屋上のドアが開く。
そこにはサキとニコの姿があった。

◇◇

「よう! 大丈夫だったか?」

俺は屋上へとやって来たサキとニコに声をかける。

サキの表情が少しゆるみ、俺に答える。

「まぁ、なんとかね。そっちも相当大変だったみたいね」

「おう、なんてたって、相手は神様だったからな」

「へぇ、それで? 神様相手にどう戦ったの?」

「鬼ごっこでな。タッチしたら勝った」

「なーにそれ?」

「さぁ、なんなんだろうな」

少しの沈黙の後、俺とサキはくすくすと笑った。
それでもニコは黙ったままだ。

「お、おい、ニコ大丈夫か?」

「ほら、シュンくんが心配してるわよ」

ニコはわなわなと震え出すと、俺に抱きついてきた。

「お、おい? ニコ?」

そしてニコは号泣した。

「うゎわあああああ!! シュンせんぱいいい、イヤだあああああ!!」

「お、おう、びっくりした。おい、サキ、話し聞いたのか?」

「うん。タマさんから大体のことはね」

「そ、そうか。お、おい、ニコ」

ニコはおいおいと号泣している。

「シュンせんぱいの玉、わたしにくださいいい!!そしたら天使さまと一緒になんとかするからああああ!!」

「ニ、ニコ、悪いけど、玉は誰にも渡せないんだ」

「あら、私にも渡してくれないの?」

「おい、サキ、からかうなよ。それにサキにはもう必要ないだろ」

「そうね。無理矢理奪うほどの執着はもうないわね」

「わたしはいるうううう!!」

ニコの号泣が凄すぎてなだめるのにそうとう時間がかかった。

俺たちは仰向けになって寝転がって夜空を眺めている。
左にはニコ、右にはサキが同じように寝転がっている。
空は満天の星空だ。

「シュンくん、どう? 体のほうは」

「おかげでだいぶ楽になった」

実はもうほとんど力が入らなくなっていた。
疲労とは違う感覚、だんだんと自分の体ではなくなるようなそんな感覚。
立っているのも限界で、サキやニコの手を借りてやっと仰向けに寝転がった。

もう感覚でわかっていた。
おそらく残された時間は少ない。
俺はまもなく消えるのだ。

「ねぇ、せんぱい? 消えちゃうの怖い?」

ニコがたずねてくる。

「怖いって感じはあんまりないかな、不思議とな。ニコはどうだ?」

「怖いし、さびしいよ、シュン先輩が消えちゃうの」

「そっか、じゃあ、こうしておこう」

俺は左手でニコの手を握った。

「どうだ、これで少しはさびしくないだろ?」

「さびしいよ……けど、あったかい」

「そうだな、あったかい」

「それじゃ、私も」

サキが俺の右手を握ってくる。

「それじゃ、ワシもじゃ」

タマは猫の姿で俺の胸の辺りに丸くなって座った。

「タマちゃん、それじゃ、シュンくんがつらいんじゃ」

「そんなわけないじゃろ! こう見えてワシは軽いし、多少の調整はできるのじゃ」

「そ、そうなの? 大丈夫、シュンくん?」

「ああ、大丈夫だ」

実のところ感覚はもうほとんどない。だから、タマがどのくらい重いのかもよくわからない。

だけど、あたたかさは伝わってきた。
サキの、ニコの、タマのあたたかさが伝わってくる。

俺たちは夜空を見ていた。
満天の星空だった空もだんだんと明るくなってきた。

「なぁ、祭りで何したい?」

「そうね、せっかくなら屋台を見てまわりたいわね」

「ニコはクレープとか、あっ!ベビーカステラ食べたい」

「たしか、商店街の方でいつも出てたよな。どうせなら、食べ歩きするか」

「食べ歩きか! タマはいっぱい食べたいのじゃ」

「それなら、ゲームで負けた人が全員分おごるとかどう?」

「ニコ、絶対負けないよ!!」

「タマも負けないのじゃ!」

「そう? だったら返り討ちにしてあげるわ」

「あ! サキ先輩、射的は禁止ですよ」

「な、なんでよ!?」

「だって、サキ先輩、上手すぎますもん。ねぇ、シュン先輩」

「……」

「シュン先輩?」

「……そうだな。それだと、サキに有利すぎる。別のゲームにしよう」

「そ、そう、シュンくんが言うんじゃしょうがないわね」

俺たちは話し続けた。

春には桜を見て、夏にはお祭りや海に行って、秋には山に行くのもいい。でも、タマはどっちかというと食欲の秋になりそうだ。それならリオに相談してバイトを増やさないとな。

冬には雪が降ったりして、ユイもウイも寒がりだからな、クリスマスプレゼントには防寒グッズが喜ばれそうだ。
年越しはみんなで集まって、ニコはニーコになって年越しライブとか、レイコ辺りに聞かれたら大きなステージになりそうだ。それをみんなで応援して、それから初詣も悪くない。サキは和服が似合いそうな気がする。きっと金髪が映えてキレイだろう。

そんな未来の話をする。
きっと、これからも続いていくだろう。
そんな未来の話を。

ざざっと大きな風が吹いた。

「……シュン先輩?」

「シュンくん?」

「シュン?」


エピローグ 「天魔恋玉のコンペティション」

本日は快晴。
とてもいい天気だ。

いつもの待ち合わせの場所に面々が集まり出す。

「くぁわ〜、眠みぃ」

ムラマサは大きくあくびをする。
つられてウイもあくびをした。

「くぁわ〜」

「ち、ちょっと、ウイ!! そんな大口開けてあくびしちゃダメよ」

「しょうがねぇだろユイ。昨日はゲーム大会の決勝だったんだよ」

タケシはスクワットをしている。

「マッスル、マッスル、今日も筋肉びよりだ」

「ふぇっふぇっふぇっ! 今日もせいがでるのぉ、タケシぃ」

「おうよ! カミ婆も婆さんにしちゃあ良い筋肉だぜ」

「うわ、朝からなに言ってんの、こわ」

リオがやって来るとそれに気づいたユイが寄っていく。

「あれ? リオこっちの方だったけ?」

「ユイおはー、うん、ちょっとサキに用事があってね」

リオは、噂と都市伝説とラベルの貼られたファイルをユイに見せる。
そうこうしてるとサキとニコがやってくる。

「おはようございます」

「おは〜っす!! 先輩がたがた!!」

「おはー、今日はいきなりニーコモードだね」

「今日は祭り当日なんでバリバリいきま〜す!!」

「さすが、それでこそ我が盟友ですわ〜!!」

突然上空にやってきたヘリコプターからレイコの声がする。
当然のようにレイコとクロイツがパラシュートでおりてきた。

それを見ていたマイが出てくる。

「おい、レイコ、テンションが上がってるのはわかるが、近隣住民のことも考えるように」

「マイ先生!! ええ、当然配慮しております。クロイツ!!」

「ハッ! 既に近隣住民の方々には協力料としてギフト券配っております」

「いや、そういう意味ではないんだが……まぁ、いいか」

シュンの家の扉が開く。

「おっはようなのじゃ〜!!」

「おはようございます」

制服姿のタマが出てくると、それに続いて誰かが出てくる。
その姿はタマそっくりで違いといえば褐色の肌だ。

「おはようタマちゃんと、えっと、後ろの娘は?」

ユイが尋ねるとタマが答える。

「クロじゃ! クロはシュンの妹で、タマの妹じゃ」

「い、いいい、いもうと!? また!?」

驚いているユイの肩をウイがたたく。

「ユイ、あまり深く考えるな。シュンには妹的な女の子がふたりいたってだけの話だ」

「ど、どどどどど、どういうこと!? シュン!!」

シュンが玄関から出てくる。

「まぁ、どういうことと言われても。こういうことだ」

結局、あの屋上で俺が消えることはなかった。
玉とともに消えてしまうはずだった俺はそのまま、そして玉自体も消えることはなかった。

タマによると臨界状態だった煉玉は、ほぼ空の状態に戻っていたという。しかも、俺の中に魂が戻っており、タマにも魂が入っていた。

結局、煉彩祭は町や学園の状態もあり延期となった。
俺たちはへとへとになりながら家に帰り、一晩寝ると何故か俺の胸の上に猫の姿のクロが寝ていた。

神としての力を無くしたクロは一部の記憶もなくしており、紆余曲折ありながら同居人が増えるかたちで落ち着いた。

行方不明者も全員無事帰宅し、壊れた建物はレイコお嬢様の支援もあり急ピッチで修繕が行われた。

そしてあれから1ヶ月後の今日、とうとう煉彩祭の開催にこぎつけた。

俺は学園への道へと歩きながら、タマとクロに話しかける。

「結局さ、あの時何が起きたんだ?」

「さぁな、ワシにもわからんのじゃ。クロは何かわかるか?」

「予想でもいいですか?」

俺とタマは肯定の意味を込めてうなずく。

「煉玉が臨界を迎え、その器となったシュンお兄ちゃんは玉の自動封印とともに消えてなくなるはずでした。クロが渡した力は待機状態で、シュンお兄ちゃんが消えるその瞬間に願いを叶えタマお姉ちゃんを助ける予定でした」

そう、俺が消え、タマだけは助けるという予定だった。

「ですが、そうはならなかった。シュンお兄ちゃんの形を元に戻し、タマお姉ちゃんの魂を生成し、煉玉の力は空になった。これは結局、願いの力だと思います」

「願いの力?」

「あの煉玉の力は創世神の力です。ですが、今、あの玉に影響を与え構成しているのは、天使、悪魔、人間、玉城です。シュンお兄ちゃんが消えてしまうというあの時、その全てが玉とつながっている状態でした」

「サキもニコもシュンと手を繋いでたし、タマもシュンの上に乗ってたのじゃ」

「玉とつながった天使、悪魔、人間、玉城、その全てが共に過ごす未来を願った。その願いの力が玉の本来の力を呼び覚まし制御し、現在の結果に至ったのではないかと」

なんだかわかるようなわからないような。
ただせっかくクロが説明してくれたのだ、きちんと礼は言わないとな

「なるほどな。ありがとうな、クロ」

「い、いえ」

クロは頬を赤らめている。
こういう反応がわかりやすくてなんだか可愛い。

「じゃあ、なんでクロは復活したんじゃ?」

「正確には復活というより新生に近似しています。先ほど言ったなかで、本来使われるはずだったのに使われなかった力。クロが渡した待機状態だった力が今のクロを再構成しました。おそらくシュンお兄ちゃんに付着していた砂を元に、シュンお兄ちゃんの願いの力で」

「なるほどじゃな、シュン?」

クロは恥ずかしそうにしているが、タマの目は険しい。

「まぁ、いいじゃねえか。タマも妹ができて嬉しいだろ?」

「ま、そうじゃな」

会話がひと段落ついた頃、サキとニコが走ってくる。

「ちょ、待ちなさい!?」

「イエーい!! 早いもの勝ちだよ!!」

ニコは俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
遅れてきたサキも反対の腕に絡めてくる。
両手に花というより、逃げられないように捕まえられたって方が近い気がする。

「お、おい、なんだ!?」

「何って、ねぇ〜サキ先輩?」

「あら、まだ聞いてなかった? コンペティションが再開されるのよ?」

「なに!? どういうことだよ!?」

「ん〜、玉の力は空っぽになったけど、念のために回収しろってさぁ〜」

「まぁ、人界の管理権が宙ぶらりんになっちゃうから、それを決めたいってのが本音でしょうけどね」

そんなもんじゃんけんでもして決めろよ。冗談じゃないぞ、せっかく平和な学生生活がおくれると思ったのに。

「いや、俺の身がねぇ、危なくなったり」

「それはないのじゃ。なぁクロ?」

「はい。シュンお兄ちゃんにも、タマお姉ちゃんにも、魂がきちんとありますし、玉がなくなっても死亡することはありません」

「そういうことじゃ。それに玉が出てくる条件は前よりもきびしくなったのじゃ」

「ど、どういうこと?」

「「それは」」

タマとクロの声が重なる。

「「シュンお兄ちゃんが恋をすること」なのじゃ」

サキとニコがグッと体を寄せてくる。

「そういうこと〜!」

「わるいけど、手加減しないから」

「これから新たな《天魔恋玉のコンペティション》がはじまるのじゃ!!」

どうやらまだまだ俺たちの騒がしい日々は続くようだ。


あとがき

最後までご覧いただきありがとうございました。

この作品は私がはじめて書いた小説になります。そろそろラノベ書いてみたいと思っていたら出会ったのが創作大賞でした。宇佐崎しろ先生の素晴らしいお題イラストから想像を広げ書き上げました。

もし読んでいたみなさまに少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

今回、カットとなったエピソードもたくさんありまして、球技大会とか、クロの過去とか、ニコとマイのつながりなどなど。
もし、賞を受賞して!、機会がもらえたら!、書きたいエピソードがいっぱいあります。ですので、何卒、応援お願いします!!

まだまだ書き足りないくらい、このキャラクターたちを好きになりました。
もし読者のみなさまにも、愛していただけるキャラクターになっていたら作者として最大の喜びです。

それではありがとうございました。次はドームで会いましょう!!

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