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その唇。
金魚の尾鰭が、揺れる水槽。
汚く泡立った私の心に、濡れた貴方の黒い瞳が、ザラザラと、ザラザラと。

その唇。
鼻に掛かった横髪に、茉莉花の香。
傷だらけの私の首に、骨張った貴方の手が触れ、ジリジリと、ジリジリと。

その唇。
紅く熟れた実のような、甘いそれを貴方は、私に投げてよこした。
ひとたび私が口に含めば、貴方は微笑を湛え、私の愚かさに安堵し、また饒舌に騙る。

私の首縄を強く絞め、貴方は「これは愛だ」と笑った。

終わらせる勇気さえ持たない貴方は。
きっと今夜も、私ではない“誰か”の声を聞く。

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