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Who are you / vol.2 HANA

Listener: CHISATO

Who are youは、その人を知り、見つめ、ふかめていくコンテンツ。
今回も1回目に続き、メンバー同士のインタビュー。
CHISATOからHANAへ、さまざまな質問を投げかけました。



HANA

彼女の眼差しは、いつも日常、そしてその地続きにある社会に対して注がれている。幼い頃から美術館に通うなどして美術と触れあった後に、西洋画の図像学との出会いを経て美術の面白さ、奥深さに目覚め、美術について学び働いていきたいと思うようになったという。大学生になり、美術分野での経験を幅広く積み重ねている今の彼女は、芸術の持つ豊かな可能性を信じながら、「なんか変だな」と感じる社会における芸術の果たし得る役割を探っている。何か大きなことを語っても、社会における問題を何とかしたい、と思っても、その一歩はまずは日常から。あくまで自分のこと、そして自分に直接関係する人のこととして、フェミニズムや福祉の問題に着目し、一つひとつ真摯に向き合って捉えている姿が印象的だった。そんな彼女が目指す、channelというコレクティブを通して実現したいことは、「私たちの活動を通じて文化芸術があってよかったと思ってもらうこと」。とてもシンプルだけれど胸に響くのは、心が荒んでしまうポイントの多い今の世の中で、心のクッションとなる居場所が必要とされているからだろう。channelも、社会の余白として誰かの心の居所になることを目指し、「正解」の問われない場をつくっていきたい。彼女とであればそれが可能である、インタビューを通じてそう思った。
BY CHISATO

▷そもそも、アートや文化芸術について勉強したり、働いたりしたいと思った経緯やきっかけを教えてほしい!

元々、親が美術館が好きだからよく行ったりしていたのね。でも小さいときは連れていかれても分からないし、つまらなくて。大きくなると共に分かってきたんだけど。

そうなんだね。

一番ちゃんと意識したのは、中学2年生くらいの時。美術の授業で西洋のルネサンス美術とか習うでしょう。ダビンチとかボッティチェリとか、作品名と作家名を覚えなきゃいけないようなものとか。

あるよね。テストのために暗記したよね。

そうそう。でも、先生が良い先生で、それだけじゃなくてちょっとプラスアルファで踏み込んで教えてくれたの。当時の西洋美術の宗教画には、たくさん意味が込められていて、書いてある物事全てに意味があるし、鑑賞者にメッセージを伝えているということを教えてくれて。図像学のようなことなんだけど。それを知ったときにすごいびっくりして。綺麗で美しいからそれだけで絵は好きだったんだけど、綺麗なだけじゃなくてこんなに意味があるんだということを知って、すごく面白いなと思ったのね。絵画やアートは、難しいものや高尚なものとしてつまらないと感じてしまう人も多いけど、本当は謎解きのようになっていて面白いし、一人ひとりキャラクターもあったりして親しみやすかったりもする。これをみんなが知ったら面白がるんじゃないかな~と思ったの。

それは中学生の時にすでに思っていたの?

いや、中学生のときはそこまで考えていなかったね。面白いなと思って、美術館とか行くことがもっと好きになったかな。それから高校に入って大学受験を考えたときに、やっぱり美術に興味があるなと思って。でも、どこでそれを勉強できるか分からなかったんだけど、美術史っていう分野があってそこでは図像学も勉強できるって知ったときに、じゃあ自分は西洋美術史がやりたいんだなって思ったんだ。

そうなんだ。西洋美術なんだね。

そうだね。わかりやすく有名だから自分が知ってたっていうのもあるし、宗教画とかも西洋画だから。

そうだね、キリスト教文化があるからね。

うん。そもそも、そういうものが大学で勉強できるって知らなかったんだけど、高校1年生のときの授業の先生が映画が好きで、たまに授業で見せてくれるときに、途中で止めながらここはこういう意味があるとか、この発言でこういう効果があるっていう解説を入れてくれたの。私はそれが面白くて、何でそんな詳しいのか先生に聞いたら、大学でそういうことを勉強したって言ったの。じゃあそれがやりたいと思って。別にアートだけじゃなくていいんだよね。何か込められた意味とかにすごく興味があったから。

アートじゃなくてもいいの?

そうだね。そういうこともあって、最初は芸術学部とか考えてたかな。アートが一番良かったけど、映画も好きだから。

映画も詳しいもんね!

そうだね。それで最初は美術史だなと思って。一般大学の哲学科の中の美学とかそういう分野に力を入れている学校は限られているから、おのずと絞られてきて。でももっと美術を学びたいと思ったときに、美大もとりあえず見てみたら、絵の技術がなくても学力で受験できるってことを知って、美術系の大学に入ろうと思ったんだよね。

そうなんだ。でも、学ぶことと実際にその分野で働くことって、また違うことだと思うんだけど、実際に働きたいなと思ったのはどうしてなの?

最初に、面接のときに「学芸員になりたい!」ってよく言っていたの。絵画に込められている意味を、作家と鑑賞者の間に立って橋渡しになって伝えたいって思っていて。昔は芸術祭とか全然知らなかったから、美術館しか頭の中になくて学芸員って言ってたかな。

なるほど。でも、すでに働くのも美術の分野がいいって思っていたんだ。

そうだね。少しでも将来そういう分野に進みたいから、そのために勉強したいっていう感じだった。

じゃあ本当に結構はっきりしていたんだね。
ちなみに、芸術祭とかがあるって知ったのは、日芸に入ってからなの?

日芸とか武蔵美とかのパンフレットを取り寄せて見たときに知った。敷居が高かったり難しいと思われることを何とかしたいって思っていたから、オープンに開かれていて、作家や作品との距離も近い芸術祭っていいなあと思ったな。

そうなんだね。そうして入った日芸は、どんな環境で今どんなことを勉強しているの?

複数の先生が来るから内容は様々なんだけど、例えば広告デザインの先生が来たときは、告知する方法とかキャッチコピーとかについて学んだかな。でも、理論ではなく実践が多かったから、日芸のオーキャンに合わせてポスターを作るとかをしてた。あとは、その先生が関わっている富里にある図書館や農場をもっと良くしていくために、アートを入れてほしいって富里の人が考えているから、そこでの企画書を作ったりしている。
あとは、プロジェクトマネジメントの分野で活躍されている先生も来てくれていて、理論を学びつつ芸術祭に視察に行って、現場を見て事例や仕組みを深めていくようなこともしているよ。

全体的に、領域としてはどんなことを勉強しているの?

キュレーション、マネジメント、リサーチとかをやっていて、年ごとに少しずつやっていくっていう感じかな。

日芸の彫刻コースは、毎年大地の芸術祭にも関わっているけれど、それについても詳しく知りたい!

元々、彫刻コースの教授でアーティストでもある鞍掛純一先生が、大地の芸術祭に作家として出している中で、学生を含めて活動していきたいと考えたみたい。それで、2004年から学生も入って制作を始めて、一番最初に公開したのが2006年の「脱皮する家」っていう感じ。

なるほど、その流れで制作に関わっているんだね。
1期生として、地域芸術専攻に入ったと思うんだけど、1期生ってどんな感じ?

武蔵美の芸術文化とか多摩美の芸術学科とかはもう長年の歴史があるから、決まったカリキュラムがあるけれど、日芸はあまりなくて。良くも悪くも試行錯誤だから、決まっていない分好きなことをやらせてくれて、こういうことをやりたいと思ったらやらせてくれたりするかな。人数があまりにも少ないのは寂しいし、仲間も少ないから難しいときもあるけど、でもやっぱり先生とすごく距離が近くて色んな現場に入ったりすることができるよ。

そっか~。今、実際に入ってる現場はどんなことをしているの?

やってることは全体的に、マネジメントとコーディネートがほとんど。日芸の写真学科のアーティストの展示をマネジメントやコーディネートしたり、実際にマネジメントの仕事をしている方のアシスタントをしたりしている。あとは、最近は猿島のSense Islandっていう芸術祭に入らせてもらっていて、そこではTPR(TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH)っていう参加アーティストのアシスタントをして、インストールとかもやらせてもらったりしてる。

なるほど。大地の芸術祭での制作や、大学での造形の授業もして作る側の経験をしつつ、マネジメントやコーディネートの仕事もやっている中で、色んな立場から美術に関わったと思うんだけど、そこで感じたことや違いについて教えてほしい。

大学では、基礎的な彫刻を勉強することによって、作品がどのように作られているのかが分かるし、それがこれから仲介者として美術に関わっていくときにも役に立つっていう考えでやっていて。でも実際にやると、ものすごく難しいことが分かった。中高の美術の授業レベルのものならやったことがあったけど、彫刻って急にぶっ飛んでてすごく大変で。多面的に物を見なくてはならなくて、人の顔を作るにしても正面と側面を繋ぐことがうまくできなくてすごく苦労したし、全然思い通りのものも上手にできなくて。でも、やっぱりやって良かったなと思うのは、作品を隅々まで見るようになったり、どういう仕組みで作られているのかを考えたり、作り手の作っている姿まで想像することができるようになったかもしれない。

それはすごい大事な経験だね。

思っていたよりも、めちゃめちゃ時間と労力がかかるんだなって。大地の芸術祭も、暑い中みんなでドロドロになりながらやったし。だから、作家の気持ちをもっと想像できるようになったし、すごい大事に作品を扱おうと思ったり、もっと作品を理解しようと思うようになった。あとは、美大の中で美術を勉強する良さは、すぐそばで誰かが制作していることだと思ってる。本当にすぐそばでみんながアトリエで作っていて、だから作られているプロセスをずっと見れているんだよね。だから、経過やプロセスを見て理解しないと、本当にその作品を正しく判断できないっていうことが分かった。

そういう経験をした上で、アートにはどんなスタンスやポジションで関わっていきたいと思っているの?

マネジメントとかコーディネートの仕事がすごく楽しくて、作家と一緒に考えていくこともすごく好きだし、それが実際に完成したり形になることに至って、お客さんとか鑑賞者に届けるところまで見れることがすごく好きかな。それに、ちゃんと話して理解しようと思うし、大事に扱おうと思うから。

じゃあ、コーディネートやマネジメントの仕事が自分にも合っているって感じてる?

そうだね。自分のマネジメントはできてないけどね笑

それは、もう本当に私もそう。グサってくる~。
でも、そもそも文化芸術とかアートのどういうところに魅力を感じて学んだり、今携わったりしているの?

昔は本当に、ただ見た目が綺麗なこととか美しさやかわいさとかに引かれて寄ってきたみたいな感じだった。だけど今は、もっといろんな作品を見るようになって、色んな作品を自分が説明できるところまで理解したり、みんなの意見を聞いていったりすると、同じことをテーマにしていても人によって色んな伝え方があることや、同じ素材でも出し方とか使い方が人によって様々で作家の意見も違うこととか、一つひとつ違うことが心地よくて、それが全部大丈夫なところが好きかな。

なるほどね。そういう違いがあることが尊重されるし当たり前だもんね。

それでいて、自分が作品を通じて沢山の見方を教えてもらえることかな。

そういう美術や芸術の特徴は、社会にどのような影響を与えられると思う?

社会に対して窮屈さをすごく感じるし、自分もこれが正解かどうか焦ることやイライラすることもたくさんある。でも、こういう風にアートに関わらせてもらって、良い作品に出会えてふ~ってなることが多々ある。だから、これをみんながもっと経験してくれたら、毎日大変でも一息つける時間とかもあると思うし、少しずつ心の余白みたいなものが生まれていくのかなと思っている。そういう役割を絶対に持っているから、それがもっと社会に浸透したらいいのかなっていうふうに思っている。

今の社会や世界の状況に対して、どういう風に捉えている?

なんか変だな、って思うことが沢山あるかな。もちろん、戦争とかそういう出来事があるっていうこともそうだし、もっと小規模で見ても違和感を感じることが沢山あるかな。例えば、必要なお仕事なのに給料が安い仕事があるとか、反対に楽してお金を得ている人がいたりとか、そういう変ポイントが一杯ある。でも、自分もその変の中の一人なんだろうとは思う。
最近教授と、最近の子は考えることをしなくなっていると思うって話したばかりで。Googleで調べれば何でも分かるし、色んなことが簡単になっている。でも多分その間に端折られている大事なことがあったりするんだろなと思ったりもしたかな。そんな中でも多分本質的なものは何も変わっていなくて、でもそれを全然見つけられなくなっているから、見つけられるように、この社会の中で生きていけたらいいなって思ってる。

そっか…。ありがとう。
今の社会で起きている出来事の中で、特に気になっていることはある?

自分の身近なことから感じることが多いかな。
以前働いていたコンビニで、朝から晩までずっと働いてるシングルマザーがいたんだよね。深夜3時に寝て、私と一緒に朝6時からのバイトをしていて。あとは、昔祖父母が生きてたときに、その家に来てくれるホームヘルパーみたいな方を見ていて、絶対に必要なお仕事なのにめちゃめちゃお給料が少ないんだよね。

さっきの話とも繋がるね。

うん。すごい大変な思いをしている人が、ぽこぽこいるなあっていう風に思っていて。

見ようとしないと、あんまり見えないしね。

そうそう。頑張って生きている人たちが、普通に暮らせるようになるべきだなって思っている。だから、そのシングルマザーの方と関わったことが、自分がフェミニズムに興味を持ったきっかけにもなっているって思っている。それは別に、女が男よりも差別されているとか言いたい訳でもなくて、何でだろうって思うことがすごい多いんだよね。そのシングルマザーの方との出会いで、今まであんまり気に留めてなかったニュースとか入ってくるようになるし、じゃあ政治家はどういう対応や政策をしているんだろうって思って、政治にも興味が出てきて選挙にも行くようになるとか、そういう変化が自分にあった。自分も段々年を重ねてきて、周りの人とこれからの話をしていて、結婚とか出産っていうものにどんどん近づいていく中で、なんなんだろう、と思うことがすごく増えてきたっていう感じがあるね。

そっか。じゃあ本当に身の回りの出来事としてフェミニズムに関心を持つようになったんだね。

そうだね。そのシングルマザーのことももちろんあるし、よくよく考えると、女の人って20歳から30歳くらいまでの間でやらなければならないことが沢山ある。そこでの男性との差って何なんだろうって思った。フェミニズムって、最近は男女だけの問題ではないし色んな性別の人のことも考えるようになったり、選択的夫婦別姓に関するニュースとかが流れてくる中で、色んな疑問が終結されていったという感じ。

なるほどね。ありがとう。
少し戻って、そもそも自分が好きなアーティストや影響を受けた作品って何?

アンリ・マティスが好き!あとは大学に入って色々ちゃんと見るようになって興味を持ったのは、スクリプカリウ落合安奈さん。日本とルーマニアに原点を持つ方で、自分の故郷がどこなのか分からないということが制作の原点になっているんだよね。自分の生まれと、自分のアイデンティティとが人格に直結しているのが分かりやすくて、そこから、ハーフの方とかの作品を見るようになった。そうすると、国境とか自分の生まれについて扱っている人が多いんだよね。そこで、使い方とか、作った作品の比較が好きかな。

日々生きていて、大切にしていることってどんなこと?

日常の中で、学校や職場に行くときに電車が混んでいて押されたりしてすごく心が荒むとか、荒みポイントが世の中には沢山あるけど、それにいちいちムカついていたら一緒になってしまうから、それをしないように何かのかわいいポイントやおもしろポイントを見つけることが好き。ミスドの箱を持って帰っているサラリーマンを見つけるとか、周りの人を見てそういうポイントを探しているかな。

なるほどね、たしかにいつも日常に根ざして大切にして生きているっていう感じがする。
なんでもないことを大切にするとか。

そうかもね。だから日記とか書くことも好きなんだと思う。

今、夢や目標はある?

将来死ぬまでに、マネジメントやコーディネートのお仕事をちゃんとすること。

じゃあ、最後の質問。
このコレクティブを通じて実現したいことや挑戦してみたいことは何?

少しでも多くの人が私達の活動を通して、アートや文化芸術があって良かったって思ってくれたら嬉しいです!

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