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Loyly(ロウリュ)をテイスティングするサウナ・セーラでの体験

はじめに

3月にフィンランドのSauna Seura(サウナ・セーラ)を訪れた際、その体験がまるでワインのテイスティングのように感じられたので、その体験をふまえてこれからのサウナの可能性について述べていきたい。

まず、私は全くワインに明るくない。ワインのあるお店ではいつも困って「とりあえずカベルネか何かそんな感じのやつでお願いします」と言ってお任せしている。(新卒の時に麻布十番のラボエムでシャルドネの赤くださいと言って恥をかいたせいかもしれない。)

それでも最近は友人に美味しいワインのお店に連れて行ってもらい、産地や年代の説明をされながら飲むワインがとても美味しいと感じる。味や食事との相性など、分からないなりに違いをお店の人に説明してもらい、周りのお客さんと共有するのはとても楽しい。

一方、サウナについては、日本をはじめ世界中のサウナについてはかなりの数のサウナを体験し、何百回、何千回もロウリュウを浴びてきた。
しかし、サウナセーラで体験したロウリュウで衝撃を受け初心に戻った。「サウナは自分が知るよりももっと奥深いものなのかもしれない」

サウナ・セーラのスモークサウナ

サウナ・セーラでの体験

サウナ・セーラはフィンランドにある会員制のサウナ施設だ。サウナ設計に関する本のプロジェクトを一緒に進めているラッシ・リッカネン氏との打ち合わせも兼ねて招待をしてもらった。

この施設には、異なる特徴を持つ6つのサウナ室がある。施設自体の説明は公式のサイトにあるため、ここではその特別な体験に焦点を当てたい。

まず体験したのは低温サウナ。リッカネン氏からサウナの歴史や造りの説明を受けながら、「今の季節で今日のこの天気、この時間帯(火入れをしてからxx時間後だから)だとこういうロウリュウ体験ができるね」などと説明を受けながら、入浴をしていた。そしてロウリュウをするとその説明のとおり気持ちの良い蒸気が天井から降りてくるのを感じることができた。

そのほかのサウナについても、「ここのロウリュはすごく暴力的だ。」「薪の火入れでロウリュウはこういうふうに変わるんだ」など一つ一つのサウナについて説明を受けた。

一見、作りや見た目は似ているが、すべて異なる体験価値を提供する6つのサウナに非常に感動した。繊細で優しい蒸気、暴力的だけど一瞬で過ぎ去る蒸気、ゆっくりとサウナ室を回遊するように流れる蒸気。それらがすべて計算されているように感じさらに驚いた。説明されてもすべてを理解できるわけではないが、その体験が非常に素晴らしいと感じた。まるでソムリエが一つ一つ丁寧に説明をしながら飲む、美味しいワインと同じだなと思った。

サウナの後、湖に開けた氷の穴、いわゆるアヴァントに飛び込んだ。遠くには凍った湖でスケートを楽しむ家族が見える。室内でサーモンスープを食べて、暖炉で暖まりまたサウナに入る。いつまででもこの空間にいられる気がした。

サウナの体験価値の可能性

 これまで訪れたサウナについて、「どんなロウリュでしたか?」と聞かれても明確に答えられるケースは多くないかもしれない。
多くの場合は「サウナ室は何度だったか?水風呂は十分に冷たいか?」など定量的に評価している部分が多いと感じる。利用者側もどこか批判的な目でみることを前提としているが、利用者側自身があらためてこのサウナはどういうロウリュを生み出すのか?と疑問を持ってサウナを体験するとこれまで体験したサウナを違った形で体験できるかもしれない。
 サウナ設計者としても、これからサウナ施設を設計する際は、そのような体験を計算して生み出すことができれば、利用者にとってより体験価値が高いサウナとすることができるのではないか、そんな可能性を感じる体験だった。

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