29番「動物と会話」(午後)

 うぅ。ウサギさん、私を慰めて。

 今日のわたしはポカミスが多い。

 ポイントカードに書いてある名前を読み間違えたり、フットバスの香りを聞き忘れたままお部屋の準備に行ったり、フットバスの温度を高めに入れてしまったり。

 もうちょっと気をつけていればなぁ。。。と思うことばかりでまたミスをしないかとオドオドしてしまう。しかしながら、先輩たちは何も言わない。それどころかフォローまでして頂き、アタマが上がらないとはこのことだなと思う。

 わたしのことを先輩たちはどう思っているのだろうか。

 うんううん。気にしてても始まらない。それよりも一つ一つのミスをしないようにしなきゃ。

 わたしは一日の業務を先輩たちと確認することにした。

 今更再び確認するなんて面倒なこと申し訳なさはあるけれど、でも、成長したい。

アカリ「もこさんはフェリシーの業務ってどうやって覚えたんですか」

もこ「ん? わたしは最初はスマホにメモして、何度か繰り返しやって覚えたかな。あとは何回もやるだけだよ」

アカリ「なるほど。メモをとる。わたしのとったメモはどこに」

もこ「アカリちゃんには向かない方法かもね。他の人にも聞いてみたら?」

アカリ「そうですね。。奈子さんに聞いてみます」

もこ「うん♪ がんばって。応援してるっ」

 もこさんにやり方を教わり、お次は奈子さんに聞いてみることにした。

アカリ「奈子さん、業務の覚え方を教わりたいんですけど・・・」

 奈子さんはメガネをかけると知的なお母様のようなオーラを身にまとう女性だ。Sっ気のある口調でののしってほしいと思いつつも本人には言えない。

奈子「ん? わたしに聞いてる?」

アカリ「そうです。奈子さんに聞いてます」

奈子「ちょっと待ってて。いま、取り込み中。」

と言って、スマホの画面を高速のタッチでさばいていく。さすがの仕事人だ。と思わせるタッチでスマホアプリのデイリーミッションをこなす。

奈子さんにちょっと待ってて。と言われてから5分が経過。

もう少し待ってみる。

ポッポー

待合室にある鳩時計が1回鳴った。ちょうど30分になった合図だ。

さらに待つ。熱中している。わたしが本棚に手を伸ばそうとしたその時に

奈子「で、何だっけ?」

 奈子さんの日々の任務が完了したようだ。

奈子「今日も息子たちは立派に励んでいたのよ。うぅ」

 奈子さんが泣いている。推し活は相変わらず順調なようでなによりだ。ではなく

アカリ「えっと、奈子さんはフェリシーの業務にどうやって慣れたのか聞きたくて」

奈子「それは簡単よ。アカリ。ミスをミスだと思わないことよ」

アカリ「え。・・・それってどういうことですか」

奈子「ミスだと思うから後悔や反省が起こるの。そして気分が落ちこむの。でも、アカリはミスをしようと思ってミスをしたわけではないのでしょう?」

アカリ「それはもちろんそうですけど。。。」

 奈子さんの言いたいことがよく分からない。ミスはミスだ、それ以上でもそれ以下でもない。

奈子「要はミスをしても私らしいと受けいれて、みんなに愛される存在になればいいのよ。ミスをミスではなく、アナタのキャラであることにしちゃいなさいな」

アカリ「え、そんなこといいんですか」

奈子「良いもなにも、アカリの見ている世界はアカリだけのものなのよ。それをアカリが否定するなんてアカリはアカリの世界を生きてても苦しくなるだけよ」

アカリ「・・・」

 奈子さんの言うことが深い。でも、まだ私には分からない。けれど、分からないということは分かる。

奈子「ま、いろいろあるでしょうけど、アカリらしくいればいいんじゃない?」

アカリ「私らしく・・・」

奈子「そ♪ さて、これからガチャを回すから。お話はここまででいいわね」

アカリ「あ、ありがとうございます」

奈子「うん♪」

 私らしい。ってなんだろう。それにミスを直したいと思うことは普通じゃないのかな。

 私らしいこと。ってなんだろう。

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