カメコ自己批評#3「奇跡の1枚とは?/写真の鮮度について」
「奇跡の1枚」という単語をよく耳にする。アイドル界隈的に最も有名なのは、橋本環奈が"見つかった"例の写真だろう。被写体の魅力を限界突破して余すことなく伝えているものに対する最大級の賛辞だと思うが、撮影者として安易に「奇跡」という言葉を使うことに対しては慎重であるスタンスだ。
撮影者が「奇跡」という言葉を用いるケースは、「想像していたよりも上手く撮れた」というパターンだろう。当時はよく撮れたかも?と思う写真でも、いま振り返ってみると撮影条件やテクニックで説明できることが多い。そもそも、現場を終えてPDCAを回していくと段々と狙ったカットが撮れる割合が高くなる。所謂「奇跡待ち」の状態から脱却して再現性の高い行動を取るようになっていく。
アイドルカメコの場合、推しメンであればあるほど予測し、研究する。新曲の立ち位置はどこか?どのフォーメーションで動くか?会場のポジションとバミリはどの位置か?・・・理想を追求した結果、「奇跡待ち」の状態は起こりにくく、想像したイメージから乖離しすぎないよう自分の中で正解を作っていく作業になっているのかもしれない。
しかし、いま振り返ってもどうして撮れたのか説明がつかない写真もある。どうやっても再現性がなく2度と巡り合えないカットで、もしかしたらこれは「奇跡の1枚」と自分で言っていいのかもしれない。いや、もう少し考えた方がいいな…いずれにせよ、時を戻しても2度と同じものは生まれないと言い切れる自信だけはある。
例えばこの佐々木舞香さんについて。当時のセットリストは「まほろばアスタリスク」(※≠MEのカバー曲)を歌い上げた後に「ズルいよ ズルいね」のイントロで自分のフォーメーションに移行するのだが、ここの移り変わりの瞬間だと記憶している。
非常に切ない歌詞が続く中、ここの佐々木舞香さんの感情の移り変わりを捉えたと思っている。右目には光が入っているが、左目には光が入っていない。写真の色味もほとんど弄っていないが、このカットが出てきたのは「ズルいよ ズルいね」における体温の低さを象徴しているように思える。
ちなみに当時の腕前は稚拙なもので、このカット以外ほとんどピントが合っていなかったか、目に光が入っていなかったと記憶している。ただ、この写真には再現性がない。もっと色味が暖かくても違う出力になっただろうし、光の入り具合は100回やっても同じ結果にならないと思う。この場合、両目に光が入ったら全く違うメッセージの写真になってしまう。
この写真は比較的最近に撮ったもので、先述のイコラブの時とは経験値がまるで異なる。これも意図しない全く再現性のないものだった。
先ほどの写真もそうだが、基本的に自分で座席を選べない。その時点で再現は難しい。この場合、所謂「ゼロズレ」だ。指先も目線もこっちに合っているし、眼の光の入り具合も間違いない…!これはまさに偶然、実力以上の写真だ…!と思った。
ところが、ツアーにおける次の公演で、この写真を撮ったポジションと全く同じ角度の座席に配席される。前回の写真の再現、むしろ決め打ちでより良いカットを狙うことにした。
悪くはないと思う。ただ、予期しなかった1枚目のインパクトを自分の中では超えてこない。ボケ味も最初と違うし、光の入り具合も違う。何よりも、狙い澄ましすぎた感が否めないと思う。
まだまだ写真は伸びしろがあるから面白い。経験値が少なく、ガムシャラに撮っていた時の方がもちろん自分の想像を超えてくる瞬間があって楽しいし、最近の狙い澄まして理想のカットを狙う瞬間だってとても楽しい。
今後上達の壁を突破するには、「奇跡待ち」の状態を意図的に作れるようになりたい。厳密に言うと、1から100まで奇跡待ちの当てずっぽうではなく、80の段階まで計算し、残りの20をあえて放棄して奇跡が起こる余地を残しておく、という言語化が近いと思う。もちろん感覚的な部分が大きいので非常に難しいが…
最後に、写真の鮮度の話もしたいと思う。ライブ中の被写体の動きは動体としてずっと追いかけていて、動きを点ではなく線として捉えている。だから基本的にシャッターは切りっぱなしにしている。その動きを記憶して、終演後特に輝いていた瞬間からピックアップし、特に良いと思えるものを選別してSNSに掲載していく。
ただ、上記の2枚については「選別」という工程を踏まず、写真の方から光って見えるような気がした。範馬勇次郎が誕生した瞬間ばりに「俺を取り上げろ!!!」って語りかけられているようだった。
こういった光っている写真については、すぐメンバーに見てほしいと思っている。確か終演後30分以内にはSNSに投稿していたと思う。もちろんレタッチはいつも以上に丁寧に行いますが…
とにかく、見た瞬間に「これだ!」と思える写真こそ人の心を惹きつけるのだと信じたい。記憶も鮮明だし、ライブの興奮や熱を写真に閉じ込める感覚が面白くて続けているところはある。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?