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なぜ市民ランナーは競技に耽溺するのか

 2011年の東京マラソンで川内優輝(当時・埼玉県庁)が日本人トップの激走を見せた頃からだろうか。巷で「市民ランナー」というワードが用いられる機会が増えた。周知の通り、非実業団として大会に出場している彼らはフルタイム勤務を基本としている。謂わば''趣味''の見方が客観論である。実業団やプロランナーと比較した時、確実に競技に費やす時間が限定されるのだ。にも関わらず、彼らは早朝や深夜の絶対に休みたい時間帯を利用して自らを鍛えている。第三者からの目線からすると不可解な部分も大きいだろう。何故彼ら市民ランナーはそこまでして競技に耽溺するのだろうか。

 大きく市民ランナーと枠付けた時、パターン別に分類されると考えている。1つは、高校駅伝や大学駅伝などの全国大会で活躍した選手が実業団を選択せずに競技を続ける場合だ。例として、丸山竜也選手(専修大→一般商社)や桃澤大祐選手(山梨学院大→サン工業)などが代表される。両者とも大学時代に箱根駅伝へ出走しており、現在でも5000mを13分台、10000mを28分台とトップレベルの走りを維持している。彼らは、実業団で活躍する可能性を大いに持ちながらも、一般企業に就職しながら競技を行う選択をしている。他の一般ランナーからすると希望の星といっても過言ではないだろう。本人の心内を是非お聞かせ頂きたいわけだが、やはり根幹には「実業団には負けられない」精神があるのではないか。一度同じフィールドで戦っていた彼らだ。闘志十分なはずであり、自分より恵まれた環境の実業団選手を脅かす存在になりたいというのはあって然るべき感情だろう。

 これは完全なる私個人の見解であるが、大舞台で活躍した経験を持つ選手は、一般企業に就職して競技志向を止めてしまうケースが多い気がしてならない。実業団へ進む選手は別にしてだ。モチーベーションや単純にキャリアビジョンの問題もあるだろうが、決してマジョリティではないだろう。このことからも、一度道を極めた者が「市民ランナー」として更なるレベルアップを果たすことは一筋縄ではいかないのかもしれない。

 もう1つのパターンとして、一般企業へ就職後も継続して競技へ取り組む人間である。先日の私の記事内でも触れた、余裕が生まれ健康やダイエット目的を主としたファンランニングを行う人々もこちらに分類される。ただ今回は比較対象として、学生時代に目立った実績を残していない選手が社会人になっても継続して競技を行うケースを論じることとする。彼らは、大学卒業後に一般企業で勤務をしながら各地マラソン大会へ出場している。大学駅伝の経験を持たない為、実業団へのルートは考え辛い。仕事を優先した進路に自動的になることは必然で、例外があるとしたら異例と呼べるだろう。だが、フルマラソンで2時間20分台で走る選手も実際に存在しており、勤務の傍で着実に練習をこなしている者がいる証拠である。月間走行距離を一つの指標としても、実業団選手に引けを取らない者だっているくらいだ。だが考えて欲しい。彼らは朝から夕方(若くは夜)まで本業に汗を流している。タイムスケジュールに則った動きを常に考えなければ不可能な話ではないか。体のケアやリラックスタイムに至るまでを徹底的にこなすとすると、まさに達人大観の心意といえる。

 共通見解として、自由度の高いスポーツであるという認識が確立されてブレていないからということが言えると考える。市民ランナーは本業を持つ為、決して競技結果によって職が脅かされることはない。プレッシャーを過度に持つ必要がなく、リラックス指数は高い。また、個人でトレーニングをしている分には集団生産性を求めない為にチームワークやら協調性やらを考える必要もない。自由度が高いという表現の意は以上である。述べた両者共にスポーツ自体は十分に経験をしている為、一般企業の傍だとしても自分のリズムが確立しやすいのではないだろうか。

 市民ランナーが増え、各地マラソン大会は大いに盛り上がりを見せている。先日、大阪で第2期MCC(マラソンチャレンジカップ)大会新記録誕生授与式が開催された。ここでも数人の市民ランナーが表彰され、実業団選手に負けない輝きを見せた。まさに仕事と趣味を両立させた、ある意味でのプロフェッショナルではないだろうか。

(終)

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