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人種や国籍を超えて私たちは友達になれる――ヒッピーたちの果てなき青春の夢


この写真はアメリカ、サンフランシスコで毎年夏に開催される「スターン・グローヴ音楽祭」というイベントの様子だ。シスコに住む人々は毎年、この音楽祭のシーズンがやってくるのを心待ちにしている。ロックやジャズ、テクノなど、ヒッピーたちが好みそうなジャンルの音楽をインディーズのミュージシャンたちが奏でる。入場は無料。みんなでワインやビール、スナックを持ち寄って、世に出たばかり、あるいはまだ無名のミュージシャンたちの曲に合わせて自由に踊る。それがこの音楽祭の特徴だ。

特徴といえば、もうひとつ。この音楽祭はその名のとおり、スターン・グローヴと呼ばれる森(森は英語でグローヴという)が会場になっている。どんなに爆音を流しても、自然の木々が周りの住宅に対して騒音になるのを防いでくれる。自然の中で唄ったり踊ったりするのはじつに気持ちがいい。日本で言えば、少し富士ロックに近いかもしれないが、ここはサンフランシスコの町中にある森だから、都市の住人からすればアクセスはいいだろう。

私はほぼ毎年、この音楽祭に参加、見物してきたが、じつにヒッピーが多い。私の友人たちもみんなヒッピーだ。まあ、厳密に言えば、ヒッピーおばあさんたち。ヒッピーとは60年代の公民権運動の時代に青春を送った世代というか、この時代に強い影響を受けながら若い時代を過ごした人々のことで、現在、彼らは70歳台になっている。

つまり、私は70歳前後のおばあさんたちに誘われて、この音楽祭に行くわけだ。そして彼女たちの中にはフェミニストがとても多い。年齢差を越えたジェンダー・スタディーズの集いでもあるわけだ。

さて、この音楽祭、じつに面白い。アフリカ系、白人、アジア系、ヒスパニック系、アラブ系と肌の色の異なる、アメリカ人でありながら様々な文化的背景をもつ人々で観衆は構成され、みんな大いに盛り上がる。彼らが持ち寄るスナックも、ワインとクラッカーから、寿司に中華に韓国海苔巻きに、タコスにブリトーに、アラブ料理の豆団子スナック「ファラフェル」まで、じつに多種多様なのだ。

そしてスナック同様、彼らの踊り方もそれぞれ違う。リズミカルな腰つきに見ている私までうっとりさせられるヒスパニック系のおばあさんから、リズムは合わないがとにかくノリで突っ切る中国系のおじさん、力強いステップを踏むアフリカ系のおばさんに、気取ったポーズでリズムを外す白人のおじさんなど千差万別だ。私がいつも感心するのは、頭にターバンを巻いたインド系のおじさんたちで、彼らは林の中がどれほど歌とダンスに包まれていようとも、まさしく微動だにせず体を硬直させて、まるでそれが男の威厳だとでも言うかのようにビニールシートの上に座り込んだまま、周囲で踊り狂う観衆たちを静かに観察していることだ。

私はとにかく、そんな人々を眺めるのが楽しくて仕方ない。そしてもちろん、私は踊る。

ヒッピーのおばあさんたちには、この音楽祭に対する並々ならぬ思い入れがあるようなのだ。彼女たちいわく、この音楽祭はアメリカの自由と平等を象徴しているのだとか。肌の色も文化的背景も、年齢も性別も、英語の訛り方もそれぞれ異なる人々が、同じ音楽で踊り、笑い、楽しいひとときを共有するわけだから。

それはまさに公民権運動が提唱した未来社会への希望の実現でもある。

マーティン・ルーサー・キングJrは、黒人の子供たちと白人の子供たちが一緒に遊ぶ日が来るようにと演説したが、彼の演説には当時、黒人と白人だけでなく多くの肌の色の人々が感動した。そしてあの頃の感動が半世紀たった今も、このスターン・グローヴの森に息づいている。

だから私は今年の夏もまた、おばあさんたちの青春の記憶にいざなわれて、スターン・グローヴに行くだろう。

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