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エッセイ #6|ほくろ除去②
前回の記事で、コロナを機に顔のほくろを除去することにした経緯を綴った。今回はその施術編だ。
受付のお姉さんの後押しもあり、合計15個のほくろを葬ることにした僕は、受付でその時を待っていた。施術後の自分が楽しみだったし、会社の人たちや友達にこの体験をどう話してやろうかと考えているとあっという間にその時は来た。
名前を呼ばれて案内された方について行くと、歯医者のような施術室に通された。中には40代くらいの男性の先生と、その隣には助手らしき女性が立っている。どうやらこの人たちが施術をしてくれるらしい。
言われるがままに施術台に寝転ぶと、まずは数の確認だ。赤色にマークされた15個のほくろたちが決死のアピールを始める。先生が僕の顔全体を見渡して、ふむふむといった反応をしている間、目が合わないように天井にあった煙感知器の一点を見つめていると、「あ〜鼻に1個あるんだね。これ麻酔痛いから頑張ろうね〜。」と言われた。
前もって説明をしておくと、ほくろを取る流れはこうである。まず注射で施術部に麻酔を打ち、その後炭酸ガスレーザーと呼ばれる「焼く機械」で一つ一つほくろを焼いていくのだ。無論、痛いのは嫌なので事前に少し調べたところ、施術中は特に痛くないという口コミが大半なので油断していた。麻酔…。うん、麻酔…。確かに麻酔は痛そうである。
鼻の麻酔が痛いと言われ、「あ、そうなんですか。」と、一応スカしたリアクションをした僕は、心臓のBPMが190になっていた。脳内であいみょんの曲を爆音で流して気を紛らわせていると、目隠しをされ、視界が封じられた。時刻は15時。いよいよ施術が始まる。
まずは麻酔だ。鼻に細い注射針が打ち込まれた。
「ッッッッッッ!ックッ!ッッッ!ン"ン"ッッッ!」
思わず、息を漏らした。案の定これがとんでもなく痛かったのだ。ズボンを掴み、手をぎゅうっとしてなんとか耐えていると、涙がツーっと頬をつたう。
ふー終わった、よかったよかった。偉いぞ自分。あとは薄れゆく意識の中、一つずつ焼き尽くされるのを待とう、と心を落ち着かせていると、「はいー、次いくよ〜」という声が聞こえ、二発目が打ち込まれた。
え!?一発じゃないの?!イテー!!!と思っているとまたすぐ「はい痛いですよ〜。」と三発目が打ち込まれた。なぜか一発だけだと思い込んでいたのだが、どうやらたくさん打たれるらしい。四発目が打たれ、五発目を越えた時にもう数えるのをやめた。
最終的には十発以上注射を打つことになるのだが、途中で注射が打ち止んだ。
「ん?1、2、3、あれ、どこだっけ。あれ…」
先生に続き、助手の女の子も、
「あっ。えっと、1、2、3、4、5っ…」
どうやらどれが対象のほくろなのか分からなくなってしまったらしい。今回除去するのは15個だが、それ以外にも顔に5〜10個くらいほくろがあったためだ。チャーミングなほくろと、あまり目立たないほくろは、お金もかかるので対象外としていたのだ。
目隠しをされながら、どれどれ、とかなんとか言いながら数を確認する2人を想像すると、おもしろくて吹き出しそうになってしまった。数が多いとこんなことになってしまうのか。麻酔をしているため口角が上がらないことが不幸中の幸いだ。
なんとか麻酔を終えて、いざレーザーの開始である。まずは鼻からだ。ジジジジっ、という音が鼓膜に届く。麻酔がたっぷり効いているため痛みはないが、焦げ臭いにおいがする。鼻が終わると別の箇所に移り、順番に焼いていった。1つだいたい1分くらいだっただろうか。この調子で何個か焼いていくのだが、寝ているだけでいいので次第にリラックスしてきた。うーんこれは悪くない。
うとうとしながら終わりの時を待っていると、
バチバチッ!!!!
という音とともに、刺すような激痛が走った。
「イ"ッッッッッ!!!!!!」
雷に撃たれたような衝撃だった。腰がよじれて体が跳び上がった。
「あれ、痛い!?」
と先生が慌てる様子で僕に尋ねた。
「スーーッ、はい!!ーッッ、痛いですっ!!!」
どうやら除去する予定ではなかったほくろを誤ってレーザーで焼いたらしい。麻酔をしていない、完全にまっさらな肌に、あつあつのレーザーを照射したのだ。防弾チョッキを来ていない訓練兵に実弾を放つのと同じことをしたのだ。ちびっこ相撲の小学生が、那須川天心の左ストレートを喰らったのだ。さっき2人で数えた時間はなんだったのだろうか。数も数えられないやつは小学生から算数をやり直せ。
先生が「あっ、ここ違うわ。でも…いいや、サービスでやっちゃおう!いいよね、ここ(トントン)!」と、間違えた箇所を指で叩きながら言う。
血液型占いは全く信じないタイプだが、この人は多分B型かO型に違いない、とB型の僕は思った。目隠しを外し、無惨にもちょっと焼かれたほくろを鏡で見た。チャーミング代表のほくろではなかったので安心した。「はい、大丈夫です。お願いします。」と伝えたが、あやうく手が出るところだった。本当に痛かった。
「じゃあサービスでやっちゃうね!受付の人に内緒にしといてね!」と、再び麻酔をお見舞いされた(本来は追加料金がかかるためだ)。結構大きめのほくろだったので、まあいいか、と気を取り直した。それから残りのほくろも難なく取っていき、無事施術が終了した。目を開けると、煙感知器があった。見慣れた天井だ。
時刻は16時前だったので、45分くらいの施術時間だ。鏡を見ると、ほくろがあった場所は赤くなっていて、浅く穴が空いていた。特に血が出ているわけでもなく、綺麗なものだ。施術後はキズパワーパッドのような物を貼ってもらい、治るまでの過ごし方を丁寧に教えてもらった。湿潤療法といい、シールを貼って自己治癒能力で肌を再生させるらしい。シールは何度か張り替えたが2週間くらいは付けたままだった。シールなしでの生活を始め、患部が目立たなくなるまでは4ヶ月くらいかかったように思う。
かくして僕は合計16個のほくろを焼き尽くしたのだ。
施術後は会社の人たちに患部を見せて回った。ほくろもなくなり、いいネタもできて、一石二鳥である。しかしみんなのリアクションとしては、「そんなにほくろあったっけ?」と拍子抜けするコメントばかりだ。ほくろをとって1年弱くらいして地元に帰った際も、友達、さらには親でさえも、ほくろがなくなったことには気づいていなかった。あんなに顔にあったほくろだったが、意識していたのは自分だけだったのかもしれない。
あれから2年が経った。このエッセイを書きながら、誤ってレーザーを放たれた箇所に左手で触れてみる。
東京の夜空には星が少ない。
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