待ち・望む 2Q20.10.10

今日は雨が降っている。
久しぶりに猫太郎のいる丘に行ってみようと思ったが、雨が降っていたのでためらった。今までは雨が降ると気が進まなかったのだが、今日は構わず行ってみようと思った。
そして丘へ出発。近くの川も濁っていた。いつもいるカモ達はどこへ行ったのだろうか。シラサギの姿は見つけることができた。シラサギはその長い脚で川の端に立っていた。この茶色い川では魚を獲るのも大変かもな、等と思いながら歩いていた。
そして丘へ到着。こんな雨の日でも猫太郎は現れた。
猫太郎から声をかけてきた。
やあ!
久しぶり!
私は猫太郎に応えた。
それほど楽しい気分でもなかったのだが、猫太郎に会うと少し元気になった。
そしていつものごとく、街を案内してもらった。
少し傘が邪魔だったが、仕方ない。そして猫太郎も傘をしていた。白い下地にところどころに赤いモミジの模様が入っていた。なかなか派手な色の傘であった。
そして私は今日は空ではなく、地面の下に興味をもった。
ねえ、猫太郎、1Q84年のこの街にも地下文明の噂とかあるのかなぁ?
今日はそうきたか!と言わんばかりの興味津々な顔で猫太郎は私を見つめた。
あるかもね。僕はあまり詳しくないけど、いつの時代もあるのだと思うよ。
実際に、地上と同じように何らかの違いで私たちの目に見えずに存在している生命体はいると思うよ。でも、同じ三次元の世界で地下に文明があるかどうかは僕も知らないんだ。
そっか。そうだよね。シャンバラとかの地底王国は精神世界上の王国の可能性が高いよね。でも、物理的な世界にも存在していたらすごいよね。その場合は地底のクリスタルが大きな役割を果たしているのかなぁ。
猫太郎は少し考えていた。
どうだろうね。僕の住む世界は三次元と少し違うから、やっぱり詳しくは分からないニァー。
私は少し笑った。そうだね。まぁ、そんなことはどうでもいいや。
ここでは空も飛べるんだから、地面に潜れるか挑戦してみるよ。
そして、私たちは広いグランドに来た。
気付くといつのまにか雨は止んでいた。地面は乾いていた。ここは雨が降っていなかったのだろうか。
私は地面の上に立ち止まった。そして起立したまま両手を軽く広げた。
意識を軽い瞑想状態に持って行った。
軽くスーハ―、スーハ―と呼吸をして、エネルギーを収集する真似をした。
そして、地底世界を訪問すると意図した。
しばらく目を閉じていた。
すると高い場所からプールへ飛び込むがごとく、急に地面へ意識がダイブした。同時に直径10メートルくらいの巨大なトンネルが現れた。
そのトンネルへ私は飛び込むと、そのまま地底へ落ちていった。
ものすごいスピードだ。周りは暗いがマグマのような赤い色も見えた。
5秒後には巨大な地底の洞くつに到着した。
さらに飛び続けて洞窟の奥の明かりが見えるほうへ進んでみた。
すると、なんと大きくひらけた場所に出た。
漫画や映画に登場したような広大な世界がそこには広がっていた。
地底の空は明るかった。しかし地上の太陽とは違う明るさだった。
光源はなんだろうか。地面には巨大な水晶があちこちに見えた。
植物も生えていた。水も流れていた。
私は地面に着地した。
周りをよく見ると、ローマの遺跡のような雰囲気が漂っていた。
そして目の前に人間らしき生命体が現れた。
ようこそ私たちの世界に。
その人間のような生命体は言った。
その姿ははるか昔に、遠い異国の女性が着ていたような白いドレスを身につけ、肌は白く、いや白よりもグレーに近かった。細く華奢な体つきで顔は妖精のように小さく目は細かった。背は私よりも低く、女性の中では中間くらいの身長だろうか。
彼女は続けて言った。
私達はあなたが来ることを知っていました。あなたのような短期滞在者は時々そうやってここへやってきます。
こんにちは。はじめまして。
私は口に出してしゃべったつもりであったが、声が出ない。
ここでは声が出ないのか。でも、テレパシーのような方法で相手にこちらの意思が伝わっているのが分かった。
彼女は少し微笑むと、私をどこかへ案内してくれるように歩き出した。
周りをさらに見まわすと、少し空間が揺らいでいるようにみえた。
いろいろ聞いてみたかったが、なにせ声が出ないので多くの質問をするのは困難であった。
ここが私たちのシンボルタワーです。
彼女はそう言って巨大な水晶のような形をしたタワーの前に案内してくれた。それはスカイツリーのような大きさであった。そして灯台のような雰囲気もあった。
彼女は私の手を取り、中へ案内してくれた。
私は少し恥ずかしかった。その手は優しく暖かく心地よかった。
そして中は光に満ち溢れていた。
私は大きな愛情のような感覚を味わった。そして同時に恋愛をする時の感情に近い感覚も同時に味わった。周りは円柱のドームのようになっており、遥か上まで階段とエスカレーターのようなもので繋がっているようだった。
彼女は私を見ながら言った。
上の階までは案内できませんが、この世界の動力の一部を味わってもらえましたか?
私はうなづいた。
そこにいると、短時間のうちに情報が塊となって私の頭に流れ込んできていたのだった。この場所以外にも種類の違う動力源の建物があること、それはこの世界の大地とクリスタルと自然のエネルギーを利用していること。いわゆるフリーエネルギーであった。それには彼女たちの意思の力も作用しているようだった。それが得意な人達が量子場に意思の力で働きかけ・・・。それ以上の詳しい原理は分からなかった。
そして、彼女たちはお互いに言葉を発すると同時にテレパシーが得意なのだということ。この場所のような地底世界は他にもいくつか存在して、地上と同じようにポジティブな文明もあればネガティブ寄りの文明もあること。
ここは、この場所はあなたの表現を用いるとポジティブな世界です。彼女は微笑みながらテレパシーで教えてくれた。
私は地底世界についてもっと知りたかったが、そろそろ戻る時間が来たようだった。それ以上滞在するには私の身体が耐えられないのだと感覚で伝わってきた。
あなた達の世界と私たちの世界が会うべき時はいずれやってきます。その日がくるまで私が伝えた感覚を大事にして頂けるとうれしいです。
ありがとう!
私は別れを告げた。
そして、地上へ戻るのだと意図した。
数秒後にビューンと上昇し、もと来た洞窟の道を飛び始めた。そして地上へ向けて巨大なトンネルを通って進み始めた。
数秒するとトンネルは小さくなり始めた。それは直径5メートルくらいまで縮小した。
これはトンネルというより回廊だな。
そういう雰囲気に変化していた。
まるで荘厳な建物の長い廊下を進んでいるみたいだ。
そして、既に5分は経過しているはずなのに地上に到着しなかった。
私は回廊の中を飛びながら彼女を思い出していた。
なんという温かい感覚だったのだろう。まるで聖母マリアに抱かれているような、それでいて異性に対する愛情を感じさせられたのだった。
もっと一緒にいたら好きになってしまいそうな恋愛的な感情もあった。
そう思った。
そして、それは過去と現在に私が特定の異性に感じ、感じている感覚に近かった。
そんな感覚に酔いしれていると、目の前の回廊が複数に分かれ始めた。私は回廊の空中で止まった。
これはいったいどういうことだ?どちらへ進めば良いのだろうか。しかし、その疑問はすぐに消えた。今までの回廊以外の新しい回廊はサイズが違った。いずれも細い回廊だった。とても通れそうもない回廊もあった。
これはもしかして、今まで恋心を抱いた数少ない過去の女性達を思い出したせいだろうか。
明らかに元いた地上へ戻るには同じサイズの回廊を直進すれば良いはずだった。
だけど、他の回廊にエネルギーを注げば、過去の女性達がどうしているのか知りたいと意図すれば、もしかしたら回廊が大きくなって会いに行けるのかもしれない。今のような不思議な状態で。
でも、それに何の意味があるだろうか。過去のことについてそこまでの情熱はないだろう。小学校、中学校、高校、大学時代、社会人になってからの恋心。出会いと別れ。もう終わったことだよ。
今に集中しよう。
私はそう思って同じ回廊を進んだ。
そして、地上へ到着した。
うわーっと少し驚いた感じで私は目を開けた。私は地面へダイブした時と同じ姿勢だった。
そばには猫太郎がいた。
楽しかった?
私は猫太郎を見つめながら、その質問に答えようと声を出した。
え、ああ、そうだね、楽しかったよ。
私は少しとまどいながらも冷静を装って答えた。
地底世界は本当にあったよ。でもそれが物理的な世界なのか、非物質の世界なのか、別次元の世界なのか、区別はつかなかったけどね。
私は猫太郎にしゃべった。
いろいろ体験できたようで良かったね。
猫太郎がどこまで私の体験を知っているのかは分からなかった。
今日はもう帰るよ。そう言って私は丘に向かった。
次はいつになるかな。冬になっているかもね。
私は猫太郎に丘の上でそう話した。
すると猫太郎は言った。いつでも待っているよ。ソースとともにあれー!
?何それ?私は猫太郎に訊いた。
猫太郎は笑っていた。少しふざけてみただけだよ。
その言葉ってもしかして・・・。まぁいいや。私はそこまで興味をもっていない。
じゃあねー猫太郎!
じゃあねー!
まるで子供たちが遊び終わって家に帰る別れ際のような雰囲気で私達は別れた。
そして地上に出る前の複数の回廊を思い出していた。
あの回廊を広げて辿っていれば、もしかしたら過去に恋した女性達に会えたのだろうか・・・。いや、意味のないことさ。それには相当なエネルギーも必要だろう。それにそこまでの必要性を感じなかった。
不思議だな。そんな回廊があるなんて。
私は今日のことは自分の胸の内にだけ秘めておくことにした。
そして、いま現在生きている間に感じる愛情を大事にしようと思った。
今日は雨だったので月は見えなかった。

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