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【第2話】スーパーマーケットの沖田くん

“It is the lives we encounter that make life worth living.”
- Guy de Maupassant -

毎週火曜日と水曜日は人が多くてレジが混む。お得なフェアが行われているからだ。とは言え、電車で見かけたかわいいあの子も、クラスで浮いている一匹狼の彼も、僕が気になる人は誰も来たことがない。人間の多さとドラマ性に欠ける自分の運命に多少の不満をいだきつつ、開店して3分で1人目の客がやってきた。

「人は見た目が大切」とか「人は見た目で判断しちゃいけません」とか「見た目・風貌」に関しては様々なことが言われる。ただ、僕が最近聞いて記憶に残っているのは人は見た目で8割型を判断するということだ。どこかの国のどこかのお偉方様が常識に科学的根拠を示して証明したそうだ。彼曰く、それは遍く人間全てに言える「怠惰の性質」が元凶であると。僕たちは、膨大な情報に日々晒されている。その全てに目を通し、耳を傾けることが如何程に負担なのか、彼は問う。怠惰であるが故のショートカット、「思考のショートカット」を目的とした結果の「見た目による判断」との結論だ。

ということで、僕はいつものように、いつもどおり思考のショートカットを行った。上は薄いピンクのTシャツ、下は黄土色のパンツ。なんの飾りもつけない、文字通り”飾らない“50代くらいの女性がやってきた。正直「地味」と言えよう。とは言え、このスーパーマーケットは立地上、ご高齢の方が来店される割合が高い。しかも、平日の朝っぱらから来店される方は95%くらいの確率でそうである。

僕:「おはようございます。いらっしゃいませ!」

眠気を押し殺した声で僕は挨拶する。

女性:「…………」

終始の無言。沈黙の数秒。

ただ、実はこんなことはザラである、日常茶飯事だ。新型コロナウイルスの影響下で、それでも働いてくださっている医療従事者やスーパーの店員さんたちに感謝する風潮はとっくに廃れてしまったのかもしれない。「あたりまえ」とは、実に恐ろしいものである。

僕:「ポイントカードはお持ちでしょうか?」

女性:「ない。」

無機質な、まるで人形のような声で答える(顔は人形似とは言えないが…)。

僕:「324円でございます。」

彼女は、おもむろに鞄から財布を取り出し、血眼になりながらお釣りが出ないよう下一桁までを払い、レシートを受け取ると同時に己が足を出口へと向かわせた。

スーパーマーケットで働いて間もないが、老若男女あらゆる方々が来店されるこの場所は、僕の趣味である人間観察の理想郷と言っても過言ではない。例えば、面接においても「入室した瞬間、本当に瞬きをする間」に相手の印象(第一印象)は決まるらしい。そこからの会話は、最初の印象に齟齬がないか確かめる段階であるそうだ。1日に数十・数百人の相手の対応をするレジ店員としては、クレーマーかクレーマーでないか判別する能力、もとい人柄を見極める能力は大切だ。しかし、先述の「第一印象」に関しては外れることも多々ある。さっきのおばちゃんみたいに「みた通りの人だと非常にやりやすいなぁ」そんなことを思いながら、のそのそと次の客はやってきた。


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