これからお部屋探しをする方々へ

今回これを書こうと思ったワケ

2020年ですね。
明けましておめでとうございます。

新年。
皆、だれもが、人生のステージが1つ前に進むことを意味します。
大学に進学する、初めて社会人になる、転職をする、同棲をする、結婚をする、子供が生まれる。
様々な新しいライフステージが待っているのではないでしょうか。

日本の場合、新しいライフステージを迎えるにあたって、引っ越しをする人も多いのではないでしょうか。
ひとり暮らしから二人暮らしへ、二人暮らしから新たな家族を迎えての三人暮らし。

例にもれず、不動産業界で仕事をしているので、この時期は特に様々な友人から相談を受けることが増える。

悲しいことに、その多くは
「不動産会社に騙されているんじゃないか」
「何がどうなっているのか全くわからないから不安」
といったネガティブなものであること。

一方で、日々仕事をしていて接する不動産業界の方々も、非常に真剣に仕事をしている。
不動産業界の不透明でわかりづらい構造のせいで、相互に信頼不信を生みやすい状態になっていて不幸をあまた生み出している。

その不調和を解消できないか、と考えたとき、微力ながら自分の関わる範囲の人たちにだけでも、自分の持ちうる情報を発信することに価値があるんではないかと思い、執筆するに至っている。

賃貸業界の仕組み

まずは、最も基本的な、賃貸の世界ではどのようにお金が回っていて、それぞれのプレイヤーにとってのメリット・デメリットは何なのか?を理解するところからスタートしましょう。


お金マーク💰があるところは、お金の流れを示します。
広告というのは、専用のWebシステムを使って物件の情報を登録することを指します。
送客というのは、そのままの意味でお部屋探しをしている方を紹介するという意味です。
物件管理サービスというのは、例えば「水が漏れました」「エアコン壊れました」「来月退去します」というような、今すでに住んでいる入居者の方からの連絡を受けたり、その問題に対処するための業者を手配したり見積書を作って報告する仕事のことを指します。

下記に、各プレイヤーの嬉しいこと・嬉しくないことを書きます。
※管理会社とは、管理事業(オーナーさんからいただく管理委託費など)からの収益が会社売上の多くを占める会社を指します。
※仲介会社とは、仲介事業(入居者からいただく仲介手数料など)からの収益が会社売上の多くを占める会社を指します。

【オーナー(個人の場合も法人の場合もある)】
●嬉しいこと:自分が所有している物件の空室を失くすこと。満室稼働であること。
◼︎嬉しくないこと:入居者が決まらない部屋が存在すること、変な入居者が入居してトラブル(騒音、近隣住民への迷惑行為)を起こされて対応に追われること。

【管理会社】
●嬉しいこと:オーナーさんから任されている物件に1日でも早く入居者が見つかること。管理する物件が増えて管理手数料で儲かること。自分たちで入居者を見つけて仲介手数料で儲かること。
◼︎嬉しくないこと:入居者が見つからない部屋があること。そのせいで、オーナーさんから見切りをつけられて他の管理会社に乗り換えられること。

【仲介会社】
●嬉しいこと:入居者に理想の部屋を紹介し、その対価としていただける仲介手数料や、入居者を紹介したことで管理会社からいただける広告費で儲かること。何回も入居者を紹介することで、管理会社から信頼を得られ、空室が出たらすぐ教えてもらえたり優先的に入居者を紹介できるような関係性を築けること。
◼︎嬉しくないこと:お部屋探しをしている人が他の仲介会社に行ってしまうこと。一生懸命努力してポータルサイトからのメールに返信したり、対応しても、お部屋探しをしている人から信用されなかったり無視されたりすることで努力が報われないこと。

【ポータルサイト】
●嬉しいこと:全ての人が、自分の理想のライフスタイルに合う物件を気軽に探せる情報サイトであること。また、仲介会社や管理会社が儲かることで、さらに多くの広告を出稿してくれて売上が上がること。
◼︎嬉しくないこと:嘘の物件情報(入居する人が決まっているのにまだ広告されている、家賃の金額が間違っているなど)が載っていることで、お部屋探しをしている人たちから信頼されないプラットフォームになってしまうこと。


簡単に書くと各プレイヤーは上記のようなメリット・デメリットを抱えた上で商売をしていることになります。

では、上記を踏まえてよくある疑問に答えていきたいと思います。

よくある疑問・不安

なんで空室じゃない物件がネットに載っていることがあるの?

それは、「全ての物件の最新の空室情報をリアルタイムでまとめているプラットフォームが存在しないから+空室情報は伝言ゲームだから」です。

実は、空室の入居者を募集する仕事は、一般人含め、誰がやってもいいのです。
宅建免許がないと出来ない仕事は重要事項説明を含む契約業務だけです。

となると、部屋のオーナーさんが物件を預けている管理会社は基本的には1社だけだが、その物件の入居者を探すのは管理会社がやってもいいし、仲介会社がやってもいい。
また、オーナーや管理会社が許すのであれば、何社が広告を出してもいいのです。

そうなると例えばこんなことが起きます。

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港区にあるミナト管理会社に本日、人気のターミナル駅から徒歩4分のところにある、築浅マンションの住人から来月退去しますという旨の退去連絡がきました。
相場よりも、賃料が5000円ほど安いので、いつもすぐ決まってしまう人気物件です。
ミナト管理会社の営業担当の日比谷君はすぐに、退去が出る情報を不動産ネットワークREINS(レインズ)に載せました。
管理会社にとっては、1日もあけずに次の入居者がスムーズに入ってくれることがベストだから、退去予定の物件でもネット広告を出します。
そして、仲介会社がポータルサイトのSUUMOやHOME'Sに広告を出すことも許可しました。
なぜならミナト管理会社ではポータルサイトと契約をしていなかったからです。

すると、レインズを見た近くにある仲介会社の営業担当が、これは問合せが取れる物件だぞ!ということで、5社がこの物件をすぐにポータルサイトへ掲載しました。

やはり良質な物件だったのでしょう。仲介会社カミヤ不動産で広告を出した後すぐに問合せが入り、内見できなくてもいいから契約する、というお客様だったので、すぐにミナト管理会社の日比谷君に連絡をしたところ、申し込みを受け付けていただけることになりました。
ただし、日比谷君の心内としては、
(申し込みが入ったのは嬉しいけど、ここのオーナーさんめちゃくちゃ厳しい人だから審査が通るか不安だな・・・審査落ちたら困るから次の人も引き続き募集したいからレインズはそのままにしておこう。)

さすが都心の人気物件、この間わずか3時間の出来事です。

一方、そんなこと(=申し込みが入っていること)が起きているとは知らないカミヤ不動産を除く他の4社の仲介会社では引き続きネットで広告が行われています。
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ここでポイントとなるのは、
①最新の空室情報が入るのは管理会社(もしくはオーナー)
②その物件情報をネットにアップロードするのは人力で手打ち。
③入居者=申込者が見つかっても、管理会社に仲介会社へ申し込みが入った旨を電話なりメールなりで報告する義務がない。=仲介会社が申し込みが入ったことに気づかない。
という3点です。

誰も悪意を持っていなくても、現行の業界の仕組み上、空室の最新情報にはタイムラグが発生するということです。

不動産会社に行ったら、A社にはもうないって言われた物件が、B社では紹介できますよと言われた。どっちが本当なの?

これは様々なパターンが考えられます。

①(A社とB社が仲介会社の場合)
B社が、本当はない=他の人に決まってしまった物件を、あると言ってお客さんを引っ張ろうとしている。(最近は減ってきたが、たまにある)

②(A社とB社が仲介会社の場合)
実は、A社がこの物件の管理会社と昔トラブルを起こしたことがあって管理会社から嫌われている。管理会社はA社に入居者を紹介して欲しくないのでA社には空いてないという情報を言っている。(珍しい)

③(A社とB社が仲介会社の場合)
管理会社とB社は社長同士が同郷の仲で非常に仲がいい。管理会社は基本的に自社で入居者を募集するが、B社だけは特別に入居者を紹介してもいいという約束を取り交わしている。(珍しい)

③(A社とB社が仲介会社の場合)
A社の営業担当は、ついさっき最新の空室情報を確認したが、B社の営業担当が最新の空室情報を確認したのは3日前。
どちらも悪意はないが、互いに持っている最新情報が違うので違う回答が返ってくる。(たまにある)

④(B社が実は管理会社の場合)
B社では、自社で入居者を探した方が仲介手数料をもらえる分、儲かる。
なので自社経由でお客さんを見つけたい。
とてもいい物件(=住みたい!という人が沢山いる)なので、自社経由でなるべくお客さんを探したい。
でも、他の会社に"うちでしか紹介しないので"と言ってしまうと角がたつので、建前上「決まってしまいました」と言っている。(たまにある)

などなど様々です。

つまり、不動産業界は人と人の繋がり・関係性が非常に重要である、ということになります。

最近はあまりないと思いますが、もし同じようなシチュエーションに遭遇したら上記のような可能性が考えられることを思い出してください。

初期費用って安くならないの?会社によって同じお部屋でも提示される金額が違うんだけど、どういうこと?

初期費用の構成は基本的には下記のようになっています。
*仲介手数料+次月家賃+当月日割り家賃+敷金+礼金+その他費用*

仲介手数料:上限1ヶ月と法律で決まっています。
ここを安くするかどうかは仲介会社や管理会社の方針によります。
家賃:ここを安くするかどうかはオーナーの方針によります。
管理会社によってはオーナーさんに交渉してくれます。
敷金:退去した後の部屋をクリーニングするお金です。
礼金:江戸時代以降の名残で、オーナーさんに支払う「住まわせていただいてありがとうございます」の意味のお金です。
ここを安くするかどうかはオーナーの方針によります。
その他費用:鍵交換代、24時間安心サービス、部屋消毒費用などが含まれます。
ここを安くするかどうかは仲介会社や管理会社の方針によります。

以上からわかるように、オーナーに対して交渉力があったり、仲介手数料を安くする方針でやっている仲介・管理会社であれば安くなることがあります。

つまり、同じ部屋でも、経路によってかかるお金は変動することがあります。
(ただし10万単位では基本変わりません。変わっても数万円だと思います。)

相場から異様に家賃が安い物件のような気がしていて、心配・・・どんな可能性が考えられる?

これも色んな理由が考えられます。
①立地、築年数、間取りの作り、構造、階数など様々な理由で入居者集めに苦戦しそうなので、初めから少し安めの賃料で出して満室稼働を狙いたいというオーナーの意向。
②瑕疵有の物件である。(いわゆる事故物件。)
③オーナーが富裕層で、不動産を節税目的で所有しているだけなので、賃料収入を目的にしていない。
など

②は今は大島てるで確認できるので、見てみると良いと思います。

そしたら、オーナーと入居者が直接やりとりすれば楽でいいのでは?

この意見はごもっともですが、2020年01月現在、オーナーさんとお部屋探しをする入居者を結びつけるシステムはまだないと言っていいと思います。(近しいシステムを事業展開している会社はありますが、掲載物件数が少ないなど影響力がまだ弱い。)
参考:ウチコミ

その理由は、
①賃貸における物件オーナーは日本全国に100万人近くおり、その多くが50代以上なため、アプリやインターネットに対してとても親和性が高いわけではないから。
②管理会社や仲介会社にとってはオーナーがお客さんにあたり、彼らが一生懸命ポータルサイトを使って入居者を探してくれるので、特に自分が積極的に頑張らずとも入居者は見つかるようになっているから。

などの理由があります。

いつぐらいから部屋探しし始めたらいいの?

おおよそ、入居開始可能日の約1.5〜1ヶ月前くらいからポータルサイトで探し始めるのがおすすめです。

早すぎても、気に入ったやつは他の人が申し込みを入れて、先に入居してしまいます。
一方、遅すぎると、納得しないまま消去法で仕方なく部屋を決めなくてはならなくなるので、住みたい部屋に巡り合えるかはわかりません。

ちなみに、めちゃくちゃ気に入った物件あったけど、自分が入居出来るのは数週間先になってしまう・・・この間他の人に取られないように抑えておきたい!とどうしても思う場合には、住まない間も家賃を払うということであれば可能です。
基本的に、オーナーも管理会社も、安定した家賃収入が得られるか?が最も大事だからです。

不動産業界の特異性

衣食住という3文字に含まれるほど、住むということは人の生活に与える影響度が非常に大きいにもかかわらず、衣食と大きく異なる点がいくつかあります。

①商品の唯一性
不動産という商品は、基本的にこの世に1つしか存在しません。
東京都○○区△△1丁目-◼︎◼︎-✖︎✖︎の住所で、7階で南向きの物件はこの世界にそこしか存在しないのです。
同じ仕様や間取りだとしても、方角や階数が変われば日当たりや見える景色も異なります。
新潟県の魚沼産のコシヒカリは欲しいと思う人の数が多ければ、1ヘクタールあたりの収穫量を増やして供給を増やせばいいですが、
不動産は全く同じような物件を増産することは基本できません。

つまり、供給が少ないということは、早い者勝ちになるということです。

②所有者の存在
食べ物やファッションには、ブランドというものは存在しますが、そこに所有権はありません。
生産者が、「俺が収穫した野菜は俺に所有権があって、学生には食べさせたくないから学生には売らないでくれ」ということは現実ありません。

しかし、不動産には必ず、所有者=オーナーが存在するのです。
所有権が存在する以上、オーナーによって
「過去に外国の人に家を貸したら土足で生活されて退去したあとの原状回復工事に多大な費用と時間がかかったから、外国の人には貸したくない」
「女性専用のアパートにした方がクレームが少ないから女性専用にしよう」
といった、様々な制約や条件が発生してきます。

そうすると、申し込みを入れたのに審査落ちしたり、住みたいのに住めない(購入すると言っているのに買えない)といった状況が起きるのです。

これから部屋探しをする方々が心に留めておくべき3つのポイント

現場の不動産業界では、リアルタイムで全ての物件の最新空室状況がインターネット上に出回るシステムがありません。
あるとしても、レインズやATBBといった業者同士が見れるサイトですが、こちらも物件情報をパソコンに打ち込んでネットにアップロードするかどうかは不動産会社の一存なので、正確な情報ばかりかと言われればそうではありません。

それを踏まえた上で特に、東京都心部への引っ越しを検討している人、就職・転勤で都市部に行く人、などには3つのポイントを抑えておくと良いなと思っています。

①即断即決できるようにしておくこと
東京や大阪などの都市部の物件は1年の中で1〜3月が一番動きます。
そのため、早い者勝ちという観点からいけば、即断即決できる人の方が有利です。
希望の条件(賃料、間取り、駅徒歩分数、設備などなど)を整理しておき、それが新着情報でポータルサイトから出たり不動産会社から情報が来た時にそれにします!と言える状態にしておきましょう。

ちなみに、今の自分が住んでいる部屋の平米数を知っておくと、○○平米はこれくらいの広さか、という感覚を掴めるのでおすすめです。

②内見できない物件は、可能であれば外観を見に行ったり、現地に行ってみること
直近の分譲タイプの賃貸マンションは、2ヶ月前退去予告(つまり退去するという連絡を2ヶ月前までにしなければいけない)が多いので、ネットに出ている物件でもすぐに内見ができるわけではないものがあります。

この場合、内見しないで申し込みを入れたり、場合によっては契約をしなければいけないという状態になりますが、大事なのは物件周辺の雰囲気を知っておくことです。
駅からどんな道を歩いてくるのか、写真と実物に相違はないか、実際に生活するとなった際に気になる点はないか、などなど。

即決できるようにするためにも、内見はできずとも現地に実際に行ってみるというのが大事です。

③信頼できると自分が思える不動産会社に頼むこと
これはちょっと抽象的でわかりづらいですが、不動産でよくあるのは、
悩んでいる間に毎日毎日新着情報が出てきて、たくさん目移りしてしまって決められないことです。

不動産会社の担当の人が人として信頼できると思えていれば、仮に自分にとって最高の条件の物件と巡り会えなかったとしても、
「あの人と一緒に決めた物件だから後悔はないよね」
と思えていることが非常に大事ではないかと思っています。

そう思えるためにも、不動産会社のHPをチェックしたり、ポータルサイトでその会社が掲載している物件を見てみたり、様々調べてみて自分がいいと思う不動産会社に行くことが大事です。

終わりに

さて、ここまでだいぶ長く書いてしまいましたが、いかがでしたでしょうか?

業界の仕組み、ブラックボックスになっていてわかりづらいところが少しでも理解できるようになった、ということであればこの記事を書いた意味がありました。

少しでも、不動産会社とエンドユーザー、共に相手の立場に立って相手の気持ちを考え、双方の不幸を少しでも減らすことに役立てたらいいなと考えています。

素敵な部屋探しをできますように!


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