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ARを用いたアウトプット(植物ホルモンこびと図鑑を作ろう!)[2023ICT夢コンテスト優良賞]

経緯

 「学習指導要領総則」には「情報活用能力を育成し、情報化社会で主体的に生きる児童生徒を育成する」と示されており、「学校における先端技術活用 ガイドブック(第2版)」においては、ARの活用により、児童生徒が「より実践的な学びを体験することができる」「新たな視点や発想を得ることができる」などの効果が期待されるとされている。既存のARコンテンツや教員が作成したARを活用する実践はしばしばみられるようになってきたが、生徒が自らARの制作を通して学ぶ実践はとりわけ高等学校においては少ないと感じていた。
そこで本研究では、生徒によるAR製作活動が、主体的な学習活動をもたらし、そこで学んだことや複数の概念を連結して表現するような創造的な学びが生じることを明らかにすることを主目的とした。

授業デザイン

多様なアウトプットが期待できる工夫

 単元としては高校生物の植物の環境応答について取り扱った。1時間植物はこの移り変わる世界の中でどのように生活しているのかを簡単に学んだ後、本プロジェクトに取り組んだ。
 教科内容としては、植物の様々な環境応答には植物ホルモンと呼ばれる植物自身が作り出す化学物質が関与し、植物の成長や発達を調節する役割を担っていることが扱われており、オーキシンやジベレリンといった様々な植物ホルモンが登場する。これら植物ホルモンの働きについてまとめる課題であれば、成果物は似通ったものになってしまうが、これら植物ホルモンを所謂擬人化したキャラクター(植物ホルモンこびと)をARで作成し、図鑑に仕上げるというプロジェクトにすることで、植物ホルモンの働きやメカニズムなどをキャラクターデザインに落とし込むだけでなく、その働き等に応じたロケーションを探した上で、撮影する必要がでてくるため、表現が多様性に富むことになる。
 さらに、図鑑であるため説明文を加える必要があるが、教科書通りの記述ではそぐわない部分が出てくるため、概要を理解し、作成した成果物に沿った形で再構築する必要がある。

生徒の主体性を引き出す工夫

ルーブリック

 最初に製作すべき成果物、ゴール地点を提示することでやるべき作業を明確化している。また、評価の基準を提示することで求める”質”と“量”を教員と生徒間で共有し、さらに完成したものは個人情報を伏せてデジタルブックとして公開することで、audienceがいるかもしれないという意識を植え付けている。これらの工夫により基本的に生徒の自走により実施できる活動に落とし込んでいる。
 また、使用アプリとしてRealityComposerとPadletという直感的に操作できるものを使うことでアプリの操作リテラリー習得に要する時間を抑え、プロジェクト遂行に割ける時間を捻出している。
 何より、ただ単に教科書内容をまとめるだけでなく、それを用いて図鑑を作成するという成果物自体が生徒のモチベーションを上げるのに大いに貢献していると考えられる。

ロケーションを考えて撮影
図鑑の説明文を推敲

成果

 想定した通り、生徒達はプロジェクトに強く惹きつけられ意欲を持って主体的に行動していた。まず教科書を読む生徒や、RealityComposerをさわってみる生徒、問題集の問題を確認する生徒等アプローチの手法は様々であったが、評価の基準を意識し、大きなタスクを小さなタスクに分けようとしている姿が確認できた。また操作法を教え合う姿や作成する植物ホルモンを分担しようとする姿など緩やかな協働関係が自然と見られ、何をしていいかわからず動けない生徒は一人もいなかった。
 提出された成果物はどれも評価の基準を意識して作成されたことが読み取れる完成度が高いものが多かった。今回のプロジェクトは教科書ベースでは23ページ分に相当し、内容としては難解な部分もあるが、自分たちで理解しようとし、互いに問題を出し合うような姿も確認できた。このことから授業デザインを工夫すれば、主体性が育まれ、教員の手から離れても学び続けていくことが示唆された。

謝辞

本実践にあたり、和歌山大学附属中学校の矢野充博先生にはRealityComposerの活用研修等で非常にお世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。

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