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日産リカジョ育成賞奨励賞

カワイイオイシイwithオシャベリでリカジョ育成~PBLで指導する高校生物~

上記のテーマで奨励賞を頂きました!


目的・ねらい

高校の理系生物は、比較的女子率が高い傾向にあるが、進学先としては受験科目に生物を用いない大学や看護系が大半を占め、さらに文転する生徒もおり、十分に理系の魅力や理系の力を育成できていないと感じていた。
そこで指導計画全体を見直し、一般的に女子が好む対話(オシャベリ)を重視し、カワイイものやオイシイものを用いたPBLでの教科指導を実践した。これにより生物を学ぶことは楽しいという女子生徒を育成するとともに、理系を志望し続ける女子生徒を増やすことを目的とした。評価方法としては授業アンケートおよび看護系を除いた受験科目として生物を利用する進学先を生徒が選択した割合を理系進学率・志望率、生物を受験科目に含まない文系に進学・志望した割合を文転率として定義し、変容を見取ることとした。自身の過去の担当学年の理系進学率は、2017年度は29%(17名)、2018年度は25%(12名)、2020年度は22%(22名)であった。文転率は、2017年度は29%、2018年度は25%、2020年度は36%であった。
()内は母数となる生物選択者の女子人数を示している。

内容・事例

本実践は教科指導全体にわたって実施しているため、主な単元の実践について報告する。全体としては生物を通してつけて欲しい力“顎力”を定義し、生徒と各活動で重点視する”顎力”と評価基準を共通理解しながら進めた。

①免疫(カワイイ・オシャベリ)
※()はカワイイ・オイシイ・オシャベリの内特に重視した要素を示す。
会話を中心としたパーティーゲームの“汝は人狼なりや?“を全員でプレイした後、このゲームを模した免疫ゲームの役割のカードを作成するというPBLを実施した。ゲームでの役割を考えるためには免疫のシステム等を学習する必要があり、学んだことをカードのデザインや役割に落とし込む必要がある。成果物はプレゼンテーションで共有し、相互評価を実施した。

②バイオーム(オシャベリ)
Google Earthにて世界のバイオームを巡る旅行ツアーを作るPBLを実施した。

③窒素代謝・窒素循環(オイシイ)
落花生を植え・育て・食べる中で根粒菌やマメ科にタンパク質が多い理由などを学び、オフィシャル髭dandyismの”ミックスナッツ”の歌詞について考察した。

④生態系・生態系保全(オイシイ・オシャベリ)
お菓子のトレーサビリティを主軸として教科書知識だけでなく持続可能な社会の担い手としての素質を育む活動を実施した。全員で近くのスーパーにお菓子を買いに行き、お菓子を食べながら、成分に含まれる植物油について多面的・多角的な問いやデータを重ねることでパーム油問題を深く学んだ。最終的には小論文を書き、お菓子に対する意識変容と自分事化を図った。

⑤生殖と発生・原基分布図(カワイイ)
フォークトの原基分布図をフェルト細工で作成したり、ウニやカエルの発生モデルを粘土で作成したりしながら発生の基礎を学んだ後、ドミノ倒しを用いて誘導の連鎖を表現するPBLを実施した。チームで役割分担をしながら実施する必要が

あり、自然と会話が発生するデザインとした。最終的には成果物をデジタルアーカイブ化した。

⑥神経系(オイシイ・オシャベリ)
お菓子を用いて神経系のモデルを作成し、説明するPBLを実施した。教科書内容をお菓子の様々な色や形を用いて表現する必要があるため教科書知識を自ら学ぶ必要がある。モデルを記録後、お菓子は食べても良いこととした。各モデルはデジタルアーカイブ化し、互いにプレゼンテーションを実施した。

⑦花芽形成(カワイイ・オシャベリ)
シンガーソングライターあいみょんの”ハルノヒ”に出てくる花は何の花か教科書知識や花言葉、歌詞の背景から考察し、プレゼンテーションをおこなった。

⑧進化(カワイイ・オシャベリ)
LEGOブロックを用いて進化を表現し、互いにプレゼンテーションをおこなった。

工夫

全体を通して講義式を極力控え、対話的なオシャベリの機会を設けている。各活動の最初に評価の基準を提示したり、教員がファシリテーターとして関わったりすることでただのお喋りで終わらないようなデザインを心がけた。PBLで取り扱う内容としては、カワイイものやカワイイ表現ができるもの、オイシイ食べ物を取り扱うことで興味・関心を高め、難解な理系の教科内容を理解して深めていくための原動力となることを想定した。また、紙面上やデジタル上での活動においても世界旅行や日本のポップミュージック等一般的に女子が好む事象の背景にある教科内容を取り扱うことで興味・関心を高めている。これらの要素は、年度初めの授業において生徒が作成する自己紹介の質問事項を具体的に細分化することで、現代の生徒が持つ多様な背景・趣向を事細かく収集し、各活動のデザインに意図的に還元している。

女子に対して得られた成果・教育的効果

・量的評価
①理系進学率・志望率、文転率
自身の過去の担当学年の理系進学率の平均は25.33%であった。2022年12月における理系志望率(現時点で進学が確定していないため志望率)は3年生で75%(4名)、2年生で53%(17名)である。文転率は、以前の平均が30%であったのに対し、3年生で0%、2年生で11%であった。2年生の文転者も理科教員志望と行動心理学志望であり、完全に理系から脱落しているわけではない。母数が大きく異なる点や確定した進路ではないという点により、一概に評価できないが、本実践により理系の魅力が増し、深く学ぼうとする意欲が継続したことが示唆される。なお、理系志望率および文転率に計上されていない生徒はすべて看護系志望者である。
②授業アンケート
「a.興味・関心を持続させてくれた」「b.介入により進むべき道を示してくれる」「c.クラス全体の学びに対する意欲が高かった」「d.教材の選択や構造化が上手である」の4点について1そう思う2どちらかといえばそう思う3どちらかといえばそう思わない4そう思わないの4検法で3年生および2年生の生物選択者対象に授業アンケートを実施した(2022年12月実施)。

最も肯定的な評価が約9割を占め、否定的な意見は皆無であった。本実践のデザインに強く引き付けられ、興味・関心が増すとともに、学びに向かう意欲も継続したことが示唆される。また、本実践は女生徒を意識したものであったが、男子生徒に対しても効果的であったことが推測される。・質的評価実践前より圧倒的に対話が増加し、随所で学ぶこと自体を楽しむような姿が確認できた。多様なPBLと意図的に組み込んだテーマにより、様々なスキルセットを持つ生徒に対応することができ、理科を苦手とする生徒がイニシアティブをとる姿が確認できるなど、全体として前に進もうとする雰囲気を構築できたことが理科嫌いや落ちこぼれを作らないことに貢献したのではないかと思われる。また、対話の内容に耳を傾けることで、教科内容において生徒が理解していない部分や誤って理解している部分を発見するができ、効果的な教科指導に繋がったのは想定外の収穫であった。以下に女子生徒の活動の振り返りの記述をいくつか挙げる。

最初は話すことが苦手だから体験を通して学ぶことが不安だったけど今では自分の考えを伝えることができるようになった。/生物でみんなと話すことによってちょっと明るくなれて前向きに過ごすことができた。/話し合って進めていくから先の展開を考えるようになった。これからも一つ一つの物事を真剣に考えていく。/講義が嫌いだったので講義でない授業は楽しかった。/教科内容も体験や経験を通して思い出しやすくなっていたため受験勉強も楽だった。/まとめるために教科書をたくさん読み、人に説明するのが上手になったと思う。/作物を植えるだけでなく食べれたので良かった。でも茹で落花生は不味かった!/立体作品は作りながら細かいところまで理解できたと思います。細かい作業が好きなのでとても楽しかった。/答えをすぐに求めるのではなく、一度立ち止まって考えることを学んだ。この力をもっと伸ばしたい。/等

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