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詩集

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#海

ocean

ocean

小さな星を

満たしている

たいせつなものを

見失わないように

永遠と呼んでいいのは

きみとぼくの間の

触れられない艶めきだけ

透明ななにかが

ぼくのこめかみで爆ぜたら

一目散に駆けてきて

地球の粒を

舌に置いてあげるから

くたびれるほど

美しく輝くひかり

へばりついた膜を貫いて

飴玉のように

転がして

溶かしてあげたい

最後のほうで砕いてあげたい

ぼくのことを

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潜水艇の詩

潜水艇の詩

きみが知りたい

あたかも入水するように

薄い紙が尊い気もちを知ったかのように

変わることのない気持ちは

深いところへおちてゆく

息苦しさを知らずに

この海の暗さを知らずに

きみが知りたい

まるで底を探していつまでも着かない錨のように

ぼくはそれでも

きみが知りたい

もしも暗やみの中

ぼくの息の根が止まってしまって

ようやく底に辿りついても

そこにきみがいなくても

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浜辺の合唱団

浜辺の合唱団

息を呑む

わたしたちのメモリーズ

見えないものへ

きらめいて

口笛も

飛べない鳥のメモリーズ

足首のきず

庇って

白鳥を抱いた人

木陰で捕まった人

窓辺で飛びだった人

かなしみは

おそれを知らない

危険な露

泣きそうなほどの

やさしさを

知ることはなかった

悔やんでできた

ハーモニー

夕焼けに染まる

海に似ている

茶埜子尋子

海のしずく

海のしずく

永遠とおなじように

あなたの愛に

うかんでいたい

君のいのちの前で

軽々しく

白い血を

流しつづけていたい

時計の音と

あの日の約束の唄は

同じ音色

広い海の浅いところの

やさしい色に似ている

幸せにいちばん近くて

愛にいちばん遠いところの

美しい色

あの空が満たされるまで

今日のこの日のままで

枯れた花束を抱えて

流木に凭れて

小さな花

咲かせて

茶埜子

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うみをのんで

うみをのんで

きえて きえて

いい匂いの 理髪店も

とけて とけて

さまよう町の 白煙も

粉にして

うみにのませて

のんで のんで

うみのみえる レストラン

かれた かれた

死んだ珊瑚の摩天楼

星にして

うみにのませて

栄光が 流木のように

どこかの島へ

見つけられないと

いいのだけれど

しろく ひかる

街の灯り 死者の棺桶

二度と 二度と

過ちを二度と おかさぬよう

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月の海

月の海

叫んでも

この声は

仄かなひかりになる

泣いた分だけ

輝きになる

わたしはこのまま

生きつづけるの

きみの手に触れたら

この哀しみはきっと

海になる

きみをのみ込んで

怪物になる

お願いわたしを

止めてください

抗っていないで
大きく吸って
青い星になりたいのなら

くちびるのしわに

染み込んだ

空気のたま

おどろおどろしい内蔵の

ひとつひとつに手をとって

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ノスタルジア

ノスタルジア

遠くの島で

うたが聞こえる

なぎさの宴

懐かしい音

待っていて

私が子どもに戻るまで

やさしい波

潮風に揺られて

白い時は

嵐のようなはやさで

なぎさの心

美しい島

待っていて

私が子どもに戻るまで

ほのおの香り

文明の呼び声

茶埜子尋子