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商品開発前夜:水屋を知っていますか【ニュー水屋棚開発日記2】

こんにちは、茶と家企画室 わたぬきです。noteを開いていただきありがとうございます。

先月より、茶と家企画室の母体である設計事務所、リンクス・ホリの設計チームと、【ニュー水屋棚開発プロジェクト】がスタートしました。
プロジェクトの概要についてはこちらをご覧ください。 ↓

水屋についてもう少し知っておこう

製品開発プロジェクトを進めるにあたって、
「そもそも水屋とは何か」
「どこにあるのか」
「何をするのか」
「最低限何があれば水屋なのか」
など、前提を確認したいと思います。

この記事をご覧になっている方のほとんどは、すでに茶道に親しまれている方だと思いますが、中には門外漢の方もあると思いますので、まずは簡単に用語の確認から。
今回、意味を確認しておきたいのは、【茶会】【茶室】 そして 【水屋】 のみっつ。
国語辞典では以下のように説明されています。

・ちゃかい【茶会】
 (作法にのっとって行われる)茶の湯の会。茶事。
・ちゃしつ【茶室】
 茶会をする部屋。数寄屋。
・みずや【水屋】 
 茶室に付属する、台所風の一角。〔広義では、食器入れの戸棚を指す〕

出典:新明解国語辞典(第七版)

茶会をする場所が【茶室】、茶室に付随するキッチンのような場所が【水屋】というわけですね。


余談ですが、茶道をまったくやらない珈琲派の友人に
「茶道って何のためにするの?何が楽しいの?」
と率直に訊かれたことがあります。
宗教、哲学、個人の感想などいろんな方向から答えが得られるので一つに絞るのが大変難しいですが、それらはいったん脇に置いて、
こちらも率直に答えるとすると、
「茶会のためにする。茶会が楽しいからする。」
だと思います。

(茶会の何が楽しいの?と思ったら、それはもう行ってみるのがいちばん早いと思います)


水屋と勝手の位置

本題に戻りまして、水屋と茶室の位置関係を確認しておきましょう。
以下の写真は三畳の茶室のお客様が座る方向から、亭主(おもてなしをする側の人)の入口方向を見たものです

北浦和 恭慶館 小間茶室より

このように、水屋は亭主が出入りする出口のすぐそばに設けることが一般的です。

また、水屋とは別に炊事ができる勝手というものが水屋に隣接している場合もあれば、茶室から離れている場合もあるようです。お寺のように茶室や和室が複数ある建築では、別の建物になっている場合も。

水屋と勝手の関係性については、千利休の血を引く流派の一つ、裏千家系列の出版社である「淡交社」出版の書籍「水屋の研究」から引用させていただきます。

現代における「水屋」と「勝手」の一般的な解釈では、水屋は茶室に隣接して茶の湯の準備を行う設備であり、勝手は茶事・茶会に際して調理をするための場、つまり「台所」として捉えられている。

出典:「水屋の研究」飯島照仁著・淡交社

ただし、「現代における」という注釈があるように、遡ると「水屋」という呼び名が登場する前に、「勝手(勝手の間)」は茶会のもろもろの支度を行う茶室脇の小空間として扱われていたようで、歴史的にはほぼ同義と考えてよさそうです。
この古くからの「勝手」が茶室建築においては「水屋」に、一般住宅建築においては「台所」を指す言葉になっていくその変遷や、茶を喫する空間の変遷も大変興味深い。(住宅史に詳しい方いらっしゃいましたらご教示ください)

さらにいうと、歴史の中では「勝手」で茶席の前後に料理などを振舞っていたこともあったようですし、居間と隣接した広い「水屋の間」というものも江戸時代にはあるなど、その形は本当に様々です。
「水屋とはこういうもの」と定義することは実は難しく、茶室にも言えることですが、本当はどんな風にしてもよいのかもと、どんどん深みにはまっていく気配がするので、その勉強はまた別の機会に。

今回は「現代における」水屋の在りかたにギュッと絞って見ていきます。

現代の水屋の役割

水屋で行うことはざっくり分けて【準備】【清め】【片付け】の3つと、場合によっては【影点て】も含まれます。

【準備】は大きく分けて以下の三つです。

  • 抹茶や菓子の準備

  • 点前道具の準備

  • 火(炭)と湯の準備

そして【清め】は文字通り【道具を清めること】

またここで言葉の意味・由来を確認させてください。
道具 はとても身近な言葉ですが、由来は「仏道の具」、つまり仏教(特に密教)で修法に用いる法具を指しました。
そして日本語の 清める には物理的なきれいさだけでなく、けがれや不吉なものをはらって清らかにするという意味があります。
こうしてみると、準備にも点前の中にも登場する「道具を清める」という作法に、これから点てる一服のための儀式的なニュアンスがあり、祈りのような時間であることが感じられますね。

最後の【片付け】は【保管】と言い換えても差し支えないかと思います。

上記の項目は、すべてキッチンで行われることとでもありますよね。
食材を準備して、調理器具や食器を準備して、コンロで火をおこし、使った道具を洗い、保管する。
しかし一つだけ、大きく違うのは【調理】をしないことです。
懐石料理を用いてもてなす本格的な茶会もありますが、調理は前述の勝手で行います。

水屋では油っ気やなまぐさは扱いません。
なので水屋で道具を清める際は基本的には【水で洗う】か、濡らしたくない道具は【拭き清める】だけ。
なお、感染症対策としてアルコールを使用したり、勝手などで洗剤を使うケースも増えている模様です。

最後の【影点て】は、点前以外で裏でお茶を点てて提供することで、大勢のお客様を迎える茶会や、お弟子さんの多いお稽古場ではよく行われます。

水屋の、いちばんシンプルな機能、そして素材

先の「役割」を踏まえて、水屋に必要な機能は以下の3点。

  • 水と水捌け(水受け)

  • (火)※これについては今回は割愛します

  • 作業スぺース

極めてシンプルですよね。図にするとこう。

水屋の最低要素

棚の枚数や素材が何かなど、流派によってベースにしている考え方や辿ってきた道のりが異なるため、違いがあります。また、近代以降は水道や排水溝を備えていたりと多少の進化はありますが、突き詰めると上記のようになります。(作業スペースは周りにあることとしてください)

前回の記事で、ステンレスをはじめとした、金属や水道の水圧が茶道具にとっては危険だとお話ししました。
当然水屋にはそのようなものは用いず、棚は木材や竹、水は瓶に汲み置いて柄杓で掬います。

火を割愛した理由なのですが、水屋の空間構成にはあまり関係がない例が多かったためです。次回、具体的な水屋の例を見ていきながら水屋と火の関係もまとめられればと思います。

まとめ

ここまで、水屋の概要として、位置・役割・機能素材を見てきました。
水屋の大切なポイントを自分なりにざっくりバッサリまとめますと、

  • 水屋は茶室のそばに

  • 清潔に

  • 必須要件は水、棚、作業スペース

  • 木や竹など道具を守る素材で

というところでしょうか。シンプルですが大切なことです。
逆に言えば、それ以外は置く道具や使い勝手、好みに合わせて自由でよい、と考えることもできますね。

現代の暮らしの中でお茶を愉しむ方に、どんな水屋が必要とされるんだろう。改めて頭をひねっていきたいと思います。

-つづく-

文:わたぬき

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