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第十三話 恐怖×尊敬=◯▲X

今日の晩飯のメニューはハンバーグ。
付け合わせにゆでたにんじんとブロッコリー。ポテトサラダに味噌汁はわかめと油揚げ。ご飯はもちろん大盛り。
それらを全て2人前ずつ頼み、晃は意気揚々と食べ物で埋め尽くされた二つのトレーをテーブルに並べた。

「君はそれを全部食べるのかい?」

斜め前の席で丁度食事を終えた霧生白狐(きりゅうびゃくこ)が引き気味に口を抑えながら言った。

「当たり前だ。それでも夜中に腹が鳴るけどな」

「そうか」

白狐はお茶をすすり、珍しい生き物を見るかの様に晃の食べる姿を眺める。

「そうだ白狐。男の方の転校生を森で見なかったか」
「どうして」
「東雲三希と森に入ってそのあとはぐれたらしい」
「なぜ君がそれを気にする」

三希の名を晃が口にした瞬間、白狐の表情が少し強張る。
晃は気にせず話を続けた。

「彼女に聞かれたからだ」
「なるほど」
「無事なのか?」
「そう聞かれるとイェスではないな」
「どういうことだ」
「霧生助蔵は傷を負った。詳しくは言えないが、治すのは非常に、途方も無く複雑なことをする必要がある」
「どれくらいかかるんだ」
「わからない」
「そうか。東雲にはとりあえずは生きていると伝えるからな」
「そうしてくれ」

白狐は飲み終えたお茶をトレーに置き食器を片付けるために席をたつ。
晃は中断していた食事を再開し、少し冷めたハンバーグとご飯を口に掻き込み空腹を癒す。

「ところで、君に熱い視線を送っている娘の存在には気付いているか?」
「ああ、もちろん」
「私にとって、可愛い妹の様なものだ。お手柔らかに頼むよ」
「お、おう……」

白狐の口は笑っていたが冷たい眼差しをしていた。
晃はそれを見て、白狐に釘を刺されたと感じ背筋が寒くなる。

白狐は蜘蛛霧衆の霧生家で、忍者の家系ではあるがとても非力だ。
しかし想像できないくらい頭が良く、表情や言葉、仕草一つとっても全て計算されている。
なによりも、考えを読めないところが晃にとって恐ろしかった。

「白にぃと何を話していたんだ?」
「!?おまっ、ここは男子寮だぞ」
「知っている」

三希はさきほどまで食堂の窓の外でじっと晃を見つづけていたが、鍵が開いている窓を見つけ素早く潜入していた。

「何度も言う、お願いだ。弟子にしてくれ」

晃が食事をする席のすぐ側で三希は正座をし、綺麗な背筋、綺麗なフォームで土下座をした。
周りでその姿を見ていた男子生徒達は何事かと騒ぎ始めていた。

「ちょっとまて……お願いだ、顔を上げて……」
「構わない。食事を続けてくれ」
「そういう問題じゃなく……ああ、もう」

晃は早くこの状況を打破すべく残っている食べ物を急いで口に押し込む。
そして、トレーを片付け颯爽と三希を男子寮の外へ連れ出し人が居なさそうな場所を探し回る。

◆◇◆

「私と戦って欲しい」
「ありがとう、嬉しいよ。でも今は……えっ戦うの?」

晃は完全に肩をすかされた気持ちだった。
女の子が放課後、誰もいない教室で放つ言葉と言えばあれしかない。
絶体絶命のピンチを救ってくれた先輩に、震える手を抑えながら勇気を出して言うアレだ。
勘違いし、断り文句も準備していた自分がとても恥ずかしく晃は口を抑え顔を赤くした。

晃は蜘蛛霧衆に次ぐ忍者業界2位と3位を争う伊賀家の筆頭後継者。
彼女あわよくば嫁入り、それが無理なら愛人と思っている忍者業界の家庭は多い。

ましてや、スポーツ万能。頭は少し弱いが、優しく友人も多い。
伊賀家の様な力のある家というだけで大した能力も無いのに威張り散らし、弱小な家を見下す人が多いが、晃は違う。
いつもクラスの中心にいる。だから、男子の間では家同士は敵対していても晃だけは特別な友人と思っている生徒がほとんどだ。

だから、女の子が晃に交際を申し込む場面は多々あった。
しかし家業と学校を両立することが忙しいこともあり、恋愛に目を向ける気持ちは無くいつも断っている。
さすがに今回の様に女子から決闘を申し込まれるのは初めてでどう答えればいいのか戸惑っていた。

「お前に今勝てないのは十分承知だ」
「じゃあなぜ?」
「力の差がどれだけあるのか見極めたい」
「俺、力を見せびらかすことも、女子を傷つけることもしたくないんだよ」「私を女子と思わなくていい!」
「それは無理があるな……」

修行を積んでいるとは言え、大切に守られ綺麗に整えられた肌や艶のある髪。
さらに、まだ未熟であるとは言え発展途上の胸の膨らみを見て女という事実を無視することはできないと晃は思った。

「それじゃあ、伊賀晃。お前を本気にしてやる」

三希はバキバキに割れた携帯を手に持った。

「ここには森の中でピストルを持った伊賀晃の写真が入っている」
「……何が言いたい?」
「もし中身が無事ならこれを全校生徒にばらま……」

戦慄が走るーー

晃は先ほどまで見せていた笑顔を無くし、三希が携帯を持つ右手首を強く握った。
それも一瞬にして。
修行を長く積んだ三希にも気付かせない位、短い間に切り替わり強大な殺気を放つ。

「あまり調子に乗るなよ」

三希は恐ろしくて晃の目を見る事も話すこともできなかった。
震える子羊の様な三希をみて晃は我に返りまた怖がらせてしまったと猛反省した。

「ごめん、言い過ぎた。でも、家業に関わる事だから一応、携帯は回収させてもらうわ」
「……してくれ」

「ん?なんだ」
「私を弟子にしてくれ!」

「!?」



第十四話へ続く / この話のもくじ

画像:フリー写真素材ぱくたそ

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