小説【生まれた使命】
私はお母さんの為に造られた。
お母さんはある日突然、この世で1番愛していた我が子を事故で失った可哀そうな人だった。
每日泣いて過ごすお母さんを見かねてお父さんが私を造った。
顔も声も体格も全て〝その子〟そっくりに仕上げられていた。
だけど
「あの子はこんなんじゃなかった...!」
お母さんは毎日、私を叩いた。
お父さんはそれを知っていたが、興味がないのか言い出せないのか、見て見ぬ振りだった。
...帰りたくない。
私はランドセルを草むらに投げるとその場に大の字で寝転がった。
空が青い。
こんなに空は大きく広がっているのに私は何処へも行けない。
ずっとお母さんの支配の中だ。
「なんてね。」
私は衣服についた草を払い、ランドセルを背負って家へと向かった。
仕方がない。
仕方がないのだ。
私はその使命を持って生まれてきたのだから。
「ただいま。」
私は玄関に入ると直ぐに不思議な違和感を感じた。
...お母さん?
「お母さん!!」
キッチン、寝室、お風呂、トイレ、家中の至る所を探したが、お母さんの姿がない。
どうしよう...
お母さんがいない...
お母さん...
買い物に行っているだけかも知れない、ちょっと散歩に行っただけかも。
でも...お母さんにこのまま一生会えなくなる。
そんな気がして私はひたすら泣いた。
お父さんが帰って来ても警察の人が来ても泣き続けた。
お母さんがいなくなってしまったら私がここにいる理由がなくなってしまう。
お父さんの側にいる必要がない。
造られた必要がない。
代役という意味を持って生まれた私は、その使命から解放された時、何の意味もない。
私には何の価値もない_
「もう代わりをしなくていい。...これからは自分の人生を生きていいんだよ。」
その言葉をお父さんから聞いた時、お父さんと私から、お別れだと思った。
人とは、何か意味を持って生まれてくる、意味があって生きるということ自体が勘違いで、
生きる意味がない、と嘆くことは間違っているのかもしれない。
生み出されたからそこに存在している。
ただそれだけだった。
そんな〝普通の人〟に私は、なった。
そう...それだけのことだ。
それに気づいた時、私は如何に恵まれていたか理解し、お母さんに初めて感謝した。
そして私は次の日、何も言わずに家を出た。
もう帰って来るつもりもお父さんに会うつもりもない。
でも多分、お父さんは私を探さない。
それがお父さんから受けた最初で最後の愛情だ_
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