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小説【幸せを知る不幸】


「ハズレだったね。」

私は花の蜜を吸い終わると同じ蜜を吸っていた友人に言った。

私たちは花の密を主食にしている。
物心ついた時からそうしていたので何の不思議もない。

何を基準に普通を定義するか分からないが、多分…私は普通に幸せだ。


「もっと美味しい蜜ないかな。」


花の蜜には当たり外れがある。

美味しくないものは吐き出したいくらいだが、私たちは一度吸い始めると満腹になるまで吸うことをやめることが出来ない。しかも見た目では味の判断が出来ない。


「人の血って美味しいらしいよ。」

友人はいたずらな笑顔で私に言った。
私はため息をつくと苦笑いをしながら首を横に振った。

人の血を吸うことは法律に違反する訳ではないが、世の中の常識やモラルとして〝悪〟とされている。

私は美味しい蜜を吸うことを締め帰ろうと飛び立った瞬間_


「わあ...!」

強い風に体を持っていかれた。
そしてしばらくの間、前も分からず飛ばされ続けた。


...ここは...?

柔らかい感触。
興奮を誘ういい匂い。
それでいて心落ち着く居心地の良さ。

人の腕の上だ_

ち、違う...!
私は誰に見られている訳でもないのに今の状況を弁解しなければと思った。
私の意志でここに来たわけじゃない...

偶々...そう偶然...仕方なく...

でも偶然、この人にも私が腕にいることに気づかれていない。


私は唾を飲み込んだ。


そして_

罪悪感。
悪いことをしたという事実と人を傷つけてしまったという事実に私は胸がずっと痛かった。

なんて愚かなことをやってしまったのだろう...
最低だ。
私はなんて駄目なんだ...


だけど...
この高場感をなんと表現すればいいのだろう_


私はあの日以来、何度も夢にうなされた。
目に見えない形のない〝何か〟に責められる。


だけど
本当に辛い日々はその先にあった。

罪悪感とはその時にどれだけ強く感じても時間と共に薄れていくもので、代わりに増していくのは虚無感だった。

花の蜜を吸っても満足感を得ることが出来ない。
むしろ、蜜を吸えば吸うはど、人間の血を欲してしまうのだ。



今までは無い事が普通で、幸せを感じられたのに、今は無い事で不幸を感じる。



もう前の私には戻れない_



「幸せだ...」

私は人間の腕の上にいた。
正しい綺麗な自分より生きる事を私は選んだ。



「あ、あの子にしようかな。」

私は髪の綺麗な横顔が美しいなお姉さんを見つけた。


自分がした行動で、どんな結果になろうとも受け入れなくてはならない。
例え、命を失っても。
誰からも同情されず、むしろ蔑まれる最後だろう。


私が選んだ道は...そういうことだ。


でも私は生きたい。
愚かに、醜く。



〝その日〟が下されるまで_

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